軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パージ街での攻防

「迎えうて。槍であの獣の脚を止めろ」

ワルキューレが作ってくれた道を追いかけて、俺が騎乗しているヴァルキリーが疾走する。

その勢いはとどまるところを知らず、ついにグイードをとらえた。

最初に言葉を交わした後に黒死蝶を出したグイード。

相手に出血を強いることができるその魔術を有効に使うために、黒死蝶を出したグイードは俺たちから距離をとっていたようだ。

キク分隊の援護とワルキューレの先行によって近くまで迫ることに成功した俺だが、そこではすでにグイードが待ち構えていた。

どうやら、相手も同じことを考えていたようだ。

俺たちから距離をとった後、壁を利用することにしたようだ。

もっとも、それは【壁建築】ではない。

魔法を使って壁を出すのではなく、もともとこの街での戦闘に備えての策だったのだろう。

いったん距離をとったグイードは街にある建物の中でも、両脇が高さのある建物の間にある道路にいた。

そして、その道路の横幅に広がるようにして配置された兵。

その兵が一斉に槍を突き出す。

槍衾というものだ。

集団で長い槍を前方に突き出すことで、まるで針山のような防御壁が一瞬にして完成した。

すでにグイードを目前にとらえていたにもかかわらず、俺とグイードの距離はまだ剣では届かないほど離れている。

そんな俺の目の前に突き出された多くの槍。

それを視界におさめながらも、俺は不思議と冷静だった。

魔力を流動させる。

必要最小限の魔力を手足や体幹に振り分けて、騎乗しているヴァルキリーに体を固定した。

特に左右の脚でしっかりとヴァルキリーの胴体を挟むようにして、どんな動きをされても振り落とされないように気を付ける。

そのうえで、残った魔力の多くを頭部に集中させた。

その魔力は目と脳に振り分ける。

練り上げた魔力が視力を向上させるのと同時に、思考も高速化してくれる。

突き出されて、今にも俺とヴァルキリーの体を貫こうとしている槍の数々。

それを見ながらも、どの槍が脅威なのかを判別する。

確かに槍衾は騎乗した状態での突進攻撃には有効だろう。

この東方にも馬がいるので、騎乗突撃戦法が用いられることもあるはずだ。

その対策としてグイードがこの防御を選択したのは間違っていない。

が、しかしだ。

今回は相手が俺一人というのが誤算だったのではないだろうか。

多分、グイードの中では俺がほかの傭兵と一緒に突撃攻撃してくると読んでいたのではないかと思う。

黒死蝶による攻撃はグイードを倒さなければどうにもならない。

普通ならば、破れかぶれの突進攻撃を繰り出すはずだ。

それは今回、当たっていたともいえるし、外れているともいえる。

なにせ、突進してきたのは俺とワルキューレだけなのだ。

実質的には俺が単騎で迫ってきたのに等しい。

槍衾は確かに攻守を兼ね備えた守りの盾ではあるが、それは相手が集団だった場合の話だ。

グイードの兵は相手の突進攻撃を止めるために、長さのある槍を用いている。

あまりに短い槍では突進を止める前に、その勢いのままに突破されてしまうこともあるからだろう。

だが、逆に言えばそれは取り回しが悪いとも言えた。

多くの兵は前に槍を突き出して保持することを優先するのみで、単騎で突っ込んできている俺に槍先を向けることはなかったのだ。

そのため、狙いが甘い。

無数の槍があるといってもただ単に前に突き出しただけの槍なんて止まっている木の枝と同じだ。

これ以上、視力を向上させる必要もないと判断した俺は、更に脳へと魔力を流動させる。

こうすることで、捉えた視界の情報をゆっくりと認識することができた。

まるで一秒を長く引き延ばしたかのような感覚。

わずかな時間を長く認識できたことで、活路を見出した。

俺の乗ったヴァルキリーの邪魔になる槍だけを見定める。

そして、その槍に対して、俺も槍を用いて攻撃した。

ヴァルキリーの背にまたがった俺の槍が、行く手を阻むための多くの槍を叩き落とす。

その槍の先は凍っていた。

氷精槍だ。

ここまで全然出番がなかったが、天空王国を追放されて東方に来る際に魔法鞄に入れて持ってきていた魔法武器。

たしか、アルス兄さんがバルカで作った鋼と吸氷石を【合成】させて作ったんだったか。

バルカの騎士に標準装備のその魔法武器を、俺はバルカの騎士である父さんから貰っていたのだ。

そんな量産された魔法武器だが、使い勝手は悪くはない。

魔力を込めると槍の先に氷でできた槍が出来上がるのだ。

つまり、長さが伸びる。

これはヴァルキリーに騎乗して使う際に非常に使い勝手がよかった。

射程が伸びた氷精槍で、進路の邪魔になる槍を叩き落とす。

そのうえで、ヴァルキリーが跳んだ。

それまでグイードめがけて一直線に走っていたヴァルキリーとワルキューレは、道路で横に並んで突き出される槍衾を見て角度を変えていたのだ。

そして、俺が槍を叩き落としている間に、両側にある壁に向かってそれぞれが跳躍した。

そういえば、バルカニアにある牧場で飼っていたヤギもこんなふうに跳んでいたな、と思い出す。

まるで、そのヤギの跳躍のように大きく跳んだヴァルキリーが、建物の壁側面に着地して、そのまま勢いを殺さず走り続けたのだ。

壁走りとでも言えばいいのだろうか。

こんなことができたのかと驚く。

ただ、そんなに長い距離を走ることができるわけではないのだろう。

だが、それで十分だった。

いきなり、槍衾を横切るように走り、そのまま壁にぶつかるかと思った馬のような何かが壁を走り出したらどう思うだろうか。

きっと、意味不明で見ていることしかできなくなってしまうのだろう。

それは現実にそうなったのだから、間違いないことだと思う。

グイードを守るようにして槍を突き出していた兵たちは、ヴァルキリーの壁走りを目で追いながらも、驚きでそれを見ていることしかできなかった。

そしてそれは、両脚でヴァルキリーから振り落とされずに体を保持し続けている俺の目からは大きな隙にしか見えなかった。

不安定な動きで体が振り回されるが、大丈夫だ。

これでも普段からきっちりと鍛えている。

体幹の筋肉で体に一本の芯を作り、その芯を中心にして捻りの動きを作り出す。

その捻りを利用して、氷精槍を突き出した。

今も氷の槍が槍先から延びている。

グイードを守るための槍衾よりも長くなったこの氷の槍ならば、壁を走りながらでも道路の中央にいるグイードに届きうる。

十分に力をためた体の捻りを元に戻すようにして、突き出した槍の速度を速める。

引き延ばされた思考ではそれなりに長く感じたこの時間は、けれどほかの兵にとっては一瞬だったのかもしれない。

そばにいる兵が誰一人反応できない状態で、俺の氷精槍がグイードの体へと突き立てられた。

手ごたえ十分。

壁走りを終えたヴァルキリーが地面に着地しつつも、そのまま走り抜けるのと同時に、グイードの体は地面へと倒れていったのだった。