軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゼンの怒り

「オラァ」

ゼンが剣を振る。

着流しの上に胴体や手足を守る防具を付けたゼンの体が大きく躍動し、次々とその剣が相手に叩きこまれていく。

いい動きだな。

実戦で鍛えられたその体捌きを見ながら、そんなことを思っていた。

「俺も負けていられませんね。お前ら、ゼンに後れを取るなよ。行くぞ」

それを見て、ウォルターも張り切る。

新バルカ街を出て再び貧民街へとやってきた俺たちは、追尾鳥の案内に従い、また誘拐されたという獣人の血を引く子どもを助けに来ていた。

前回と同じように貧民街の奥のほうに入り込んだところでたむろしていたガラの悪い男たち。

一応最初に連れ去られた子どもを知らないかと聞いたら、今度はすぐに攻撃をしてきた。

多分、別の誘拐犯たちが先日壊滅させられたことを知っていたんだろう。

その攻撃を見て、ゼンが反撃に出たというわけだ。

どうやらゼンもユーリが誘拐されたことが相当頭に来ていたようだ。

実際、ラーミアなどに聞くとかなりの慌てようだったそうだ。

ユーリの行方が分からなくなってから、何日もあちこちを探し回り、しかし見つからなかった。

どうして自分がついていながらこんなことになったのかと考えていたようだ。

結果的には俺が助けたことで事なきを得たが、その自分への怒りがまだ残っていたんだろう。

それをぶつけられる相手が目の前に現れたことで、怒りを爆発させている。

鬼気迫る勢いで戦い続けるゼンの後に続いて、ウォルター分隊も参戦したことで、あっという間に決着がついた。

「今回は俺が出る幕がなかったね」

「団長は後ろで見ているだけでいいですよ。戦うのは俺たちの役目ですから。それより、中に入りますか?」

「そうだね。隊を班ごとに分けて突入させよう。ただ、相手から話も聞きたい。全滅させないで何人か残せるようなら残してくれ。危険なようだったら無理しなくていいからね」

「分かりました。なら、俺が先行して内部を制圧してきます」

そう言って、ウォルターが外にいた男たちを倒した後に拠点らしき建物へと入っていった。

その後姿を見つめる。

もともと、ウォルターは他の傭兵たちよりも強いが、今の状態だとさらに心配いらないから安心だ。

「すごいですね、この炎。【慈愛の炎】とか言いましたっけ? いつも以上の力が出ますよ」

「もう気は済んだのか、ゼン?」

「ええ。すみません。子どもを誘拐している相手だと思ったら、ついカッとなって。でも、すぐに冷静になれましたよ。この炎のおかげですかね?」

「そうだろうね。ハンナの【慈愛の炎】は癒しの炎でもあるからね。温かい感じに包まれて落ち着く効果もあるはずだ」

今回の出発の前に、俺たちはハンナから【慈愛の炎】を受けていた。

ハンナの魔力で胸の中に炎を宿すことができる魔術だ。

その炎に自分の魔力を注ぎ込めば、いつも以上の戦闘力を発揮することができる。

それだけではなく、体を治す自然治癒力も高めることができ、精神的な落ち着きも得られるという効果まである優れものだ。

これは以前までなら、効果が短時間しか続かなかった。

だが、最近になってミーティアと同じような獣人の血を引く存在としてユーリと知り合ったことで変わってきた。

今後増えるかもしれない似たような子どもたちの体を少しでも治せないかと、ハンナは毎日【慈愛の炎】の改良をし続けているのだ。

その結果、効果時間などがグッと伸びている。

前までならば、それほど長い時間は炎の効果は持たなかった。

が、今ではもう少し持続するようになった。

今みたいに別の場所にまで戦いに来ても効果が続いているのがその証拠だろう。

ただ、ハンナとしてはまだこの魔術には納得していないようだ。

もっと改良できないか頑張っているらしい。

効果時間が延びれば、バルカ傭兵団としても助かるのでぜひとも頑張って完成させてほしいところだ。

「終わりましたよ、団長。生き残りの相手は拘束しています。子どもも無事です」

「ご苦労様、ウォルター。ゼンは子どもの保護を。話をして、危険を避けるために新バルカ街に住まないかどうかも聞いてみてくれ。俺は残党と話をするよ」

「了解です」

外でゼンと話していると、建物の中からウォルターが出てきた。

無事に内部の制圧が終わったらしい。

その後、誘拐された子どもを連れだしてきてゼンに預け、俺は手足を縛られた男と話をすることになった。

「やあ、初めまして」

「な、なんだ、あんたは。俺たちがいったいなにしたってんだよ」

「なにって、あの子を誘拐したでしょ?」

「あ、あのガキはあんたらの知り合いなのか? 知らなかったんだ。ただの貧民どものガキだと思ったんだよ」

「子どもの誘拐は駄目でしょ。オリエント国では禁止されているはずだよ」

「そりゃ、壁の中の話だろ。あっちは街に住む連中の中での決まりがある。けど、この貧民街にそんなもんはねえ。ほかの連中の中には壁の中から人を連れ去る奴もいるけど、俺たちはそんなことしてねえ」

……すごい理論だ。

というか、貧民街ならなにをしてもいいって考えなのか。

まあ、確かにオリエント国自体からもこの貧民街に住む者は一切の権利も認められていないからな。

その分、オリエント国の決まりが機能していない暗黒街みたいなものなのか。

というか、そうじゃないと俺もここまで傭兵を連れてきて勝手に戦ったりはできないんだけど。

さすがに都市国家内部で武器を持って暴れていれば問題になる。

けど、この貧民街ではそうじゃない。

だからこそ、好き勝手に暴れているんだけど。

「ま、そんなことはどうでもいいか。俺がお前に聞きたいのはそんなことじゃないしね。獣人の血を引く子どもたちを誰から仕入れて、誰に売るのか。その流れが知りたい。教えてくれるかな?」

「い、言えるわけないだろ。そんなことを話したら、俺がそいつらに狙われる」

「おい、団長の聞いたことに素直に答えろ。今話さないと、お前の命はここで終わるぞ?」

俺が話を聞いていると、言いたがらない男に対してウォルターが脅しをかける。

さすがに、子どもの俺が聞くよりも怖いのか、ゴクリとつばを飲み込み、そして観念したのか話してくれた。

そのおかげで、貧民街での人身売買の流れをある程度掴むことができるようになったのだった。