軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔装化

俺に向かって突き出される剣。

その剣先が近づいてくるのを目で捉え続ける。

魔力を練り上げて体を動かそうとしていたからか、その動きがひどくゆっくりと見えている。

全力で体を動かそうとしても全く動かない。

指輪の魔道具の影響なのだろう。

ちらりと見えた範囲ではその指輪には魔法陣のようなものは描かれていなかったので、迷宮産なのかもしれない。

刻一刻と迫りくる攻撃を見ながら、そんなことを考えてしまった。

「キュウ」

そして、その攻撃が今まさに俺に届こうとしたとき、援護が入った。

ワルキューレだ。

全身真っ赤な毛並みのワルキューレが乱入し、剣を突き出していた男たちに突進する。

その体を【身体強化】で強くしていたのか、ワルキューレがぶち当たった相手が大きく跳ね飛ばされた。

「よくやった、ワルキューレ」

どうやら、指輪の効果は口にまでは及んでいないらしい。

手足胴体は動かないけれどしゃべることはできる。

ワルキューレの援護を受けて、絶体絶命の危機をとりあえず免れた。

そして、そのわずかな隙を利用して反撃に出る。

「魔装化だ、ノルン」

俺の言葉を受けてノルンが反応する。

といっても、ミーティアを保護している鮮血兵のほうのノルンではない。

俺が手に握ったままの魔剣ノルン。

そちらに話しかけたのだ。

俺の言葉を受けてノルンが動く。

魔剣ノルンは俺の血からその形を作っていて、その血そのものがノルンでもある。

今はもとの赤い魔剣だ。

だが、その形を変えることもできた。

その特性を利用して、手に握った魔剣が変化を始める。

剣の形から鎧の形へと。

しかも、その鎧は俺の体を覆っていった。

魔装化だ。

一時的に血の鎧を全身に纏う魔術の一種だと言えばいいのだろうか。

単純に防御力を高めることになるが、今はそれが狙いではない。

血の鎧が俺の全身を包み込み、そして、その鎧そのものがノルンの意志によって動いた。

……よかった。

どうやら、俺の体は自分の意志で動かせなくなっただけであって、無理やり固定されているわけではないみたいだ。

もしそうなら、魔装化して動き始めた鎧の動作で全身がボキボキと音を立てることになるかもしれなかったが、そうはならなかった。

まだ、自分の意志で動くことはできないけれど、鎧が動いてくれることで相手の動きに対処することができるようになった。

「あの男を狙え、ノルン。指輪をどうにかするんだ」

今もワルキューレがほかの男たちと戦ってくれている。

それをありがたく思いつつ、そちらには向かわずに少し離れたところにいる魔道具の指輪を持った男を狙うようにノルンへと指示を出す。

その声を聞いてすぐに魔装化した鎧が動き出した。

前からちょくちょく試していたこの魔装化だが、実戦では初めて使うことになる。

しかも、自分の体が一切動いていないのでかなり変な感じがしたが、ノルンに任せて身をゆだねる。

「っち。なんで動けるんだ」

急に真っ赤な鎧を身に纏って動き始めた俺を見て、相手が声を上げた。

おそらく指輪の力に絶対的な信頼を寄せていたのだろう。

まさか動き始めるとは思いもしなかったのか、完全に対処が遅れている。

近づく俺に一歩遅れて反応した男が、それでも攻撃を仕掛けてきた。

ふたたび全身の魔力を高め、鋭く踏み込んで突きを繰り出してくる。

その攻撃をノルンは一切避けずにそのまま突っ込んでいく。

さすがに鎧化しているとはいえ突きをそのまま食らうのはどうなんだ。

そう思った俺が防御を担当した。

体はまだ動かせない。

だが、口が動いたのと同じように魔力も操作はできるようだ。

相手の攻撃を見ながら魔力を流動させる。

スッと差し出される突きが狙うのは、俺の心臓がある左胸だった。

人質をとったり、魔道具の指輪を使ったりしていた割に剣技も身につけているのか、ぶれることなく俺の急所を一突きにしようと正確に剣を操っている。

が、それは逆に狙いが分かりやすくもあった。

心臓に向けて突き出される剣を防ぐように鎧の左胸表面に全身の魔力を集めて、一点集中で防御力を高める。

ガキン、という音がして剣と鎧がぶつかる。

相手も魔力で全身の力を高めていたから攻撃が通じると考えていたのだろう。

だが、俺の防御力が勝った。

剣先が当たるところだけを極端に防御を高めたおかげで、一切の傷はない。

その間もノルンは鎧ごと俺の体を動かし続けていた。

相手は繰り出した突きが不発に終わり、隙だらけの姿をさらしている。

そこへ、ノルンが拳を握りしめて殴りかかった。

腰の入った拳が相手の顔にめり込み、大きく吹き飛ばす。

「まだだ。指輪を壊せ」

吹き飛んだ相手が近くのボロボロの建物に当たる。

いい感じに顔面をとらえたので、脳を揺らしたのだろうか。

なんとか起き上がろうとして、しかし、力がうまく入らないのか地面についた手が腕ごとガクッと崩れおちている。

しかし、そんな状態にもかかわらず俺の体はまだ動かない。

どうやら相手に傷を与えた程度では元に戻らないようだ。

指輪の効果は一定時間で消えるのか、それとも相手の魔力が途絶えたら消えるのか。

どういう仕組みになっているのか分からない。

が、手っ取り早く解決するためにも破壊を選んだ。

ちょっともったいないような気もしたが、ノルンへと壊せと命じる。

その俺の言葉を受けてノルンは崩れて起き上がれない男のもとへと近づき、足を踏み下ろした。

バキッという音がして、指輪が壊れる。

よかった。

指輪が壊れたことで効果はきちんと消えたようだ。

俺の体はそれまでの状態が嘘だったかのように、一瞬で動きを取り戻した。

そのまま、体の調子を確認するかのように脚を動かす。

右足を大きく動かし相手の顎を蹴り上げる。

大丈夫だ。

自分の動かしたい動きと寸分たがわず正確に動かすことができた。

蹴りによって沈黙した相手を見て、自分の体が正常に戻っていることを再度確認できた。

顎を蹴って動かなくなった相手を確認してから後方に目を向ける。

そこではワルキューレとともに、鎧姿の鮮血兵ノルンが立っていた。

どうやら、安全な場所にミーティアを隠したノルンが参戦し、すでに他の者も多く倒しているようだ。

だが、まだ何人か残っていて戦っている。

それをみて、俺もそちらへと向かっていったのだった。