軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

演習解説

「ほお。すごいでござるな。オリエント軍よりもバルカ傭兵団の弓のほうが遠くまで届いているようでござるよ」

眼下で繰り広げられている軍事演習を見て、バナージが言う。

それをそばで聞いていた他の者も同様に口々に似たようなことを言い合っていた。

最初はまず、両陣営ともに弓矢の応酬から戦闘が始まった。

遠距離から矢が放たれている。

だが、両方の陣営から放たれた矢には違いがあった。

ここで見ている者がたとえ実戦を知らなくともわかるくらいの明確な差がある。

それは、矢の飛距離だ。

どう見ても、バルカ傭兵団のほうから飛んでいる矢のほうが遠くまで届いている。

「バルカ傭兵団ではさまざまな武器を使って訓練を行っています。その中には剣もあれば、当然矢もあります。その訓練の効果でしょうね」

「訓練でござるか。しかし、弓矢の腕は相当に訓練しなければ上達しないはずでござるよ。オリエント国でも訓練はもちろんしているでござる。しかし、それでもグルーガリア国などには敵わない。だからこそ、拙者は即戦力となるように魔弓オリエントを開発したのでござる」

「そうですね。確かに弓は熟練に達するまで時間がかかると思います。ですが、バルカ傭兵団の訓練はその上達時間を速める方法があります。ちなみに、今、あそこで弓を操る者たちの腕は弓兵として名高いグルーガリア兵と同じくらいにまでなっていると思いますよ」

「なに? それは本当でござるか、アルフォンス殿。グルーガリアは幼いころから柔魔木の弓を用いて訓練する弓兵の集まりでござるよ。それと同等の腕前を持つなど考えられないでござる」

「本当ですよ。といっても、使っているのは柔魔木の弓ではないですし、まだ訓練し始めたばかりなので、本場の弓兵よりは少し劣るかもしれませんが」

軍事演習を見ながら、適宜解説を行う。

というか、こちらの宣伝とでも言ったほうがいいのかもしれない。

バルカ傭兵団で弓を扱っている者の腕はグルーガリア兵と同じくらいだと俺が言うと、バナージ以外にもそれを聞いていた者たちが驚きの声を上げた。

たいていの者はバナージと同じように信じられないと言っているが、しかしオリエント軍の弓の腕とは別物であることは分かるはずだ。

なにせ、傭兵たちは全員俺の魔法が使えるので、俺が流星の動きを見て覚えた弓の使い方を【見稽古】で覚えているのだ。

わずかな時間しかない訓練であっても結構な腕を持つに至っている。

といっても、グルーガリアの弓兵よりも劣るのだけど。

なにせ向こうは幼いころから弓を使い続けた本物だ。

その技術もそうだが体つきも弓を扱うのに適したものになっている。

それに比べて、去年から【見稽古】で動きを真似はじめたばかりの新人傭兵では表面的な動きをまねできるが筋力がまだ足りない。

だんだん疲れてきたのか、少しずつ弓の飛距離も落ちてきた。

ただ、それでも問題ない。

弓での攻撃はあくまでも牽制が目的だったからだ。

山なりに飛んでいた矢の下を走り続けた歩兵がそれぞれの前衛部隊へと接敵した。

次は白兵戦だ。

「……バルカ傭兵団のほうが押している。というよりも、オリエント軍はぶつかった瞬間に跳ね飛ばされたみたいに見えるでござるな」

「組織力の違いでしょうね。バルカ傭兵団は五人一組で班を作って行動しています。その中でも先頭の部隊は体格のいい傭兵が盾をかまえてぶつかりました。対して、オリエント軍のほうがそれぞれが個別に武器で攻撃しています。結果として、その攻撃は盾で防がれて跳ね飛ばされる形になりましたね」

五人ずつがそれぞれ大きめの盾を構えるようにしてぶつかったバルカ傭兵団。

それは見ようによっては一枚の巨大な盾が近づいてきたように感じるかもしれない。

そんなところに、木剣を力いっぱい叩きつけるような攻撃をしたオリエント軍。

当然、たいした効果があるはずもなく、その盾で体を跳ね飛ばされてしまっていた。

前衛部隊のぶつかり合いもバルカ傭兵団が有利に進めていることがわかる。

「ですが、最初の激突の大きさの割には戦線が硬直しましたね。バルカ傭兵団は一気に突き崩すつもりかと思いましたが……」

「オリバの言うとおりでござるな。足が止まった状態ならば数の多いオリエント軍のほうが有利なのではないでござるか?」

「それはどうでしょう。見てください。バルカ傭兵団の息の合った連携を」

オリバが指摘したように、ぶつかり合いの後、両軍の動きが止まった。

ただ、それは想定内のことなのだろう。

数が少ないバルカ傭兵団で相手のほうが数が多いのに、そこに突っ込んでいくようなことはしなかった。

むしろ、相手の動きを止めて、徐々にその数を減らしていく作戦をとっているらしい。

ときおり、演習場から女性の声が聞こえる。

多分、ローラが頑張って声を上げているんだろう。

その声にあわせていろいろな音が聞こえてくる。

そして、その音の後に傭兵たちが連動して動いていた。

押しては引いて、という感じで相手の力をいなしながら、しかし確実に向こうの数を減らすように攻撃を続けている。

大きな盾を使っている班の間から槍や剣での攻撃を何度もしているようだ。

「うむむ。いつの間にかオリエント軍の数が減っているのではござらんか?」

「ですね。徐々に負傷兵が出ているんでしょう。傷を負った者が後ろに下がり始めました。この感じだと、そろそろ局面が動きそうですね」

どうやら、作戦通りに事が進んでいるらしい。

けっして無理せず、相手の数を徐々に減らして弱めていく。

ローラの横で補佐しているアイの指揮なのだろう。

外から見ている俺も不思議な感じを受けた。

遠目から見ているだけだと、両陣営の兵がもみ合うように押し合っている感じに見えていたが、しかし、結果は明白だった。

明らかに退いていく兵の数に違いがある。

もともとの数が多かったオリエント軍のほうが戦場から脱落していく兵の数が多い。

この結果はもちろん、傭兵たちの剣や槍の腕も【見稽古】で上達しているからこそだろう。

だが、そのような個人技で戦局が動いたようにも見えなかった。

本当にいつの間にか、明確な数の差が生まれていたように見えた。

それはここで見学しているバナージらほど、とくにそう感じたのではないだろうか。

ただ、地味だったのはここまでだ。

本陣にいるローラから「行きなさい」と先ほどまでよりも大きめの声が聞こえてきた。

そして、それをきっかけにして、バルカ傭兵団が大きく動く。

それまでの、相手の動きにあわせて前に出たり引いたりという動きではなく、後退しつつあるオリエント軍をどこまでも追い詰めるかのような猛烈な勢いでの前進が始まった。

「……総崩れ、でござるな。オリエント軍の完敗でござる」

「そこまで。勝負あり」

その後の結果は誰の目にも文句のつけようのないものだった。

数が減り、後ろに下がり始めたオリエント軍はその後の猛攻に一切抵抗できずに蹂躙された。

あっという間に総崩れになり、軍事演習だというのにもかかわらず、必死に逃げ惑うオリエント軍の兵士たち。

対して、バルカ傭兵団はそれを追い詰めながらもまとまりのある動きを終始していた。

俺が演習終了の合図を出すと、広い範囲で散らばっていた傭兵たちが一斉に整列していく。

いいね。

もはや、見る影もなくなったオリエント軍と対照的な差ではないだろうか。

こうして、オリエント国で行われた初の軍事演習はバルカ傭兵団の完勝で幕を閉じたのだった。