軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法と農業

「どういうこと? 魔法を使った農作業って、【土壌改良】とかのことを言っているのか?」

「そのとおりです。もしも、今後ほかの土地から移住者の流入があるとすれば、その原因はおそらく食糧問題になるでしょう」

「食べ物がないから、ありそうなところに行くってことだよね? って言っても、うちも塩害がようやくなんとかなってきたくらいだから、食料が豊富ってわけじゃないんだけどさ」

クリスティナやエルビスと一緒にアイの話を聞く。

この街にいずれ起こるだろうと思われる問題について、アイもやはり食べるものが原因になるだろうということだった。

確かに、食料が十分にあるならいちいち新しい街に移住しようって人も少ないはずだから、それは正しいのだろう。

そして、それを解決する手っ取り早い方法がある。

それは魔法だ。

アルス兄さんの作り出した【整地】や【土壌改良】。

これはたった一言呪文を呟くだけで土地の状態を変えることができる魔法だ。

ぶっちゃけ、これさえあればそのうち食料問題なんてものは無くなるんじゃないかとおもっているのだけど、違うんだろうか。

そう思ってアイに尋ねるとすぐに答えが返ってきた。

「農業とは本質的には土地の破壊にほかなりません。自然を破壊し、そこに農地を創り出す。それこそが農業です」

そのアイの返答は俺の思っていたものとは違っていた。

それは俺だけではなく、クリスティナやエルビスもそうみたいだ。

予想外のことを言われて驚いている。

「そんなものかな? けど、別にいいんじゃないの? 農地ができるんなら、収穫量が増えるんだろうし」

「違います。農業とは農民という専門的な知識を持つ職人が、その土地にあった手法で作物を育てるからこそ農作物が収穫できるとされています。誰がやってもうまくいく、というものではありません」

「うーん。確かにそうかもしれないけど……。【土壌改良】した場所に麦を撒いておけばとりあえず収穫できるんじゃないのかな?」

「ここはオリエント国です、アルフォンス様。そして、この東方、あるいは小国家群は麦よりも稲の栽培がよく行われています。水量の多いこのあたりの土地では水田も多く見られます」

「あ、そういうことか。そういえば、【土壌改良】した土地って稲作にはあんまり向いていないんだったっけ。そうだよな、エルビス?」

「はい。【土壌改良】という魔法を創り出したアルス様は、確かハツカを育てるのに向いた畑用の土を作る目的があったという話を聞いたことがあります。麦を育てるのならいいでしょうが、水田では土に手を入れなければいけないと思います」

「エルビス様の言うとおりです。【土壌改良】は呪文一つで強制的に土地の状態を変化させます。良くも悪くも影響力が強すぎるのです。そのために、それまでと同じように農作業を行ってもおそらくは収穫量が落ちるでしょう。各地で魔法による不適切な農作業が行われるという事例が広がれば、小国家群では不作が引き起こされる可能性もあります」

なるほど。

アイの言いたかったことはそういうことか。

食糧問題によってこの街に人が来る、というよりも、魔法が原因で大きな食糧問題が起きるかもしれないということか。

確かにそれはあるかもしれない。

なんて言ったって、この辺は川の氾濫も多いみたいだしな。

【土壌改良】でフカフカの土を作って農地を広げることが、さらなる氾濫を引き起こす可能性だってあるかもしれない。

「今までこの辺でそういう話を聞いたことがある?」

「……あるかもしれないわね。この街って食料をよそからの購入で賄っているでしょう? 商人たちに運んできてもらっているのだけど、不作の話は確かにあるの。商人的にはそういうところは逆に売りつける商機にもなるからあまり問題としては受け止めてなかったんだけど、調べておく必要がありそうね」

【土壌改良】についての悪影響に、どうやらクリスティナは思い当たる節があるらしい。

ただ、今まではそこまで魔法が広がっていなかった。

とくに、オリエント国では一般人が魔法を使うようにはなっていなかった。

ただ、ほかの小国では不作になりにくい場所と言われるところでそういう話があったりしたらしい。

もしかしたら、魔法による影響が関係しているのかもしれない。

「つまり、こういうことね。【土壌改良】なんかを使った土地できちんと収穫するためには、それを活かす知識がいる。で、俺たちはそれを持っている。なんたって、バリアントですでに何年も前から魔法を使って米を作ってきたんだから」

「ですね。なら、ついでにバルカ米も売りつければどうですか? 【土壌改良】した土地で育ちやすく品種改良された稲もありますので」

「ああ、あれか。そうだな。じゃあ、その種籾と一緒に育て方をバナージ殿に売りつけてみようか。不作になるぞって言えば、そこそこいい値段で買い取ってくれるかもしれないね」

よし、そうしよう。

どうせ、この街は食料をよそから買うのが主になるんだ。

ほかの村でしっかりと食べ物を育ててくれないと困る。

それが巡り巡って移住者の流入も抑えることができるかもしれないなら、やらない手はないだろう。

新年のあいさつに行くときにでも話してみようか。

そんなことをみんなで話しながらも、時間はゆっくりと、しかし確実に過ぎていったのだった。