軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大原則法

「しかし、その血の楔というのはどの程度の自由がきくのでしょうか。意のままに、いつでも相手の心臓を締め付けることができるということですか?」

俺の新たな魔術である血の楔。

その存在を教え、情報を共有したエルビスがさらに質問を投げかけてくる。

血の楔がどのくらいこちらの意志で操ることができるかということについてだ。

「いや、そんなに自由度はないかな。この魔術は俺が自分の血を相手の体に送り込んで心臓に作用することができる。けど、それはいつでも好き勝手に心臓を締め付けられるわけではないんだ」

「ほう。では、どのような状況であればその血の楔というのは効果を発動するのでしょう?」

「条件を破ったときに、かな。今まで試してみたんだけどね。相手に血を送り込むときに条件を取り決めるんだよ。たとえば、そうだな。盗みをしない、っていう条件を守ると約束させた状態で俺の血を植え付けるとするでしょ。そうすると、その後、その条件である盗みをしないっていうのを守らなければ効果が発動されるってことになるのかな」

「それはまた、ずいぶんと変わった魔術なんですね。なるほど。では、移住者には最初にその条件付けを行うということですか」

血の楔について。

これは一言で言えば、誓いの強制とでもいうべきものだ。

俺の血には魔剣ノルンという存在が含まれている。

こいつは、俺個人とは別の人格を持つ剣でもあり、血でもある存在だ。

そして、そのノルンを利用することで鮮血兵というものも作り出すことができた。

その鮮血兵だが、そいつも単体で意志を持ち、自分の判断で動くことができた。

だが、その鮮血兵は一度出現した後は、個別の意志を持つことになる。

俺の血と常に情報を共有しつつ動くわけではなく、独立した存在だというわけだ。

この血の楔もそれと似たようなものになるのだろう。

俺の体から離れた血は、遠隔操作で操ることができるというわけではなかった。

そして、魔石を使うものでもないために、話をすることができるほどの強い意志を持つわけでもない。

いや、ほとんど自我を持たないといってもいいだろう。

そこで、利用することにしたのが条件を提示したうえでの誓いだ。

どうも、いろいろと試した結果、ただ単に俺の血を移植しただけでは何も起こらない。

が、あらかじめ対象の相手に条件を突き付けてから血の移植を行うと、なぜだかわからないが微妙にノルンの残留思念のようなものが存在し続けるらしい。

エルビスに言ったように、例として挙げた盗みをしないという誓いを守らなければ、そのことが移植された血に残ったノルンには分かるようだ。

そしてそのノルンが宿主に対して誓いを破ったと認めた場合、効果が発揮されるという寸法だ。

誓いを破った制裁として心臓が締め付けられてしまうことになる。

エルビスにはさらに細かい説明はしていないが、多分、ノルンの影響は脳にまで及ぶんじゃないかと思っている。

そうじゃないと、誓いを破ったかどうかなんてわからないんじゃないかと思うからだ。

脳みそに別人格を持つ俺の血が入り込んで、常に監視しているというのが血の楔の実態なのだと思う。

我ながらとんでもない魔術を作ったものだなと思わなくもない。

まあ、どっちかというと俺よりも魔剣ノルンの能力のすごさと言ったほうがいいのかもしれないけどね。

そういうわけで、効果が発揮されるのは相手の脳にいる俺からは独立したノルンによってだ。

血の楔を打ち込んだ相手に対して、あとから条件付けしていないことに対して遠隔で効果を発揮するということはできない。

なので、最初にしっかりと守ってもらうべき誓いを提示しておく必要があるだろう。

「というわけで、新バルカ街のための法律がいるかな。そんなにがちがちに決まったものじゃなくていいんだけど、法を守ると誓わせる必要がある」

「なるほど。それなら、カイル様の統治が参考になるかもしれませんね」

「カイル兄さんの?」

「はい。カイル様は以前、まったくかかわりのない聖都跡地周辺の土地を急遽治めることになりました。その際に、カイル様が行ったのは裁判による統治です。【審判】という魔法を使って、領民全員に対して罪を犯した者の罪状と刑罰を提示して、判決を求めたのです。ですが、その際にいろいろとあったそうです」

「へえ、そうなんだ。例えばどういうことが問題になったの?」

「一番の問題点は法律が難しすぎると困るという点だと聞いたことがあります。あまりにも複雑な法律をもとにして、それについての判決を求められても法律を詳しく理解していない一般人には到底判断がつかないのです。ですので、原則となるものを定め、それを基準に考えるようにさせたそうです。最初は、殺すな、傷つけるな、盗むなの三つだったように思います」

「三つだけ? それだけで裁判させてたんだ」

「ええ。といっても、後々それだけでは足りないとなって増えたようですが、最初は分かりやすく簡単なほうがいいということを重視されたようですよ」

なるほどなあ。

カイル兄さんも知らない土地ではきっといろいろと大変だったんだろう。

ただ、それだけだと足りないように思う。

さすがに三つだけでは条件として弱い。

とくに、うちでは情報の流出を防ぎたいのもあるし、もう少し条件を増やしておこうか。

そうだな。

こういうのは、カイル兄さんに相談してみてもいいかもしれない。

当時と違って、今ならば、最初からこうしておけばよかったという考えがカイル兄さんにはあるだろうし、その辺を聞いておこう。

そう考えた俺は、その後すぐにアイを通してカイル兄さんに連絡を取った。

そうして、血の楔による条件をいくつか書き出しつつも、あまり複雑になりすぎないように、覚えやすいものにまとめていった。

それをこの新バルカ街の大原則の法律と決めたのだった。