軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゼンの願い

「へえ、ゼンってもともとあの村の出身だったのか」

「はい。今、俺は仲間と小さな徒党を組んで傭兵をやっています。その仲間のうちの何人かは同じ村の出身で、その村っていうのが廃村になったあの村だったんですよ」

傭兵としての仕事に出かけた先で、一人の傭兵が話しかけてきた。

ゼンというその若い傭兵と情報交換のつもりで話をする。

が、どうやら、むこうは単純な情報交換が目的ではなかったようだ。

というのも、ゼンの生まれ育った村が関係している。

俺が今拠点にしているバルカ村の場所にはもともと別の村があり、そしてその村はすでに廃村となっていた。

以前、よその国から攻め込まれた際に拠点とされて、結果として奪い返したものの廃村になってしまっていたのだ。

その廃村になった元の村が、ゼンにとっての生まれ故郷だったというわけだ。

「なるほどね。まあ、考えてみれば当然か。廃村になったからっていって、村の関係者全員がいなくなったってことにはならないもんね」

「そうですね。でも、ほとんどは例の事件で命を落としていたと思います。あの時、俺はすでに村を出ていたんです。だから生き残った。それだけです」

「ってことは、ゼンの家族は……」

「はい。もう亡くなっています。父さんも母さんも、兄弟も」

「そっか。それはご愁傷様。……それで? 結局のところ、ゼンの目的は何? もしかして、村の権利を主張するとかだったらそれは聞けないよ。というか、あの土地は正式にオリエント国の議会を通して、俺の村ってことになっているからね」

「もちろんです。そんなことを言うつもりはありませんよ。ただ、ちょっとお願いがあって。もう、面影はないかと思うんですけど、家族が亡くなった場所に花を供えたいんですよ」

「花? 別にいいよ。一応、廃村に移り住んだ時にあった墓なんかはまだ残っているから。ただ、その前の占領時に荒らされて倒されたところがあったみたいで、完璧ではないんだけどね」

「ありがとうございます。大丈夫です。墓が残っているだけで感謝しきれません。もしかすると、墓は取り壊されているかもしれないとも思っていたので」

……いや、さすがにお墓に対してそんなことはしないよ。

とはいえ、ゼンがそう考えたのも理由がありそうだ。

やっぱり、バルカ傭兵団の構成員が全員霊峰の麓出身だというのが関係しているんだろう。

かつて、罪人を死刑にする代わりに霊峰送りにしたという土地で生き延びてきた咎人の子孫たち。

それがこのあたりでの一般的な認識なのだろう。

そんな蛮族のような連中が移り住んだ廃村が、どんなことになっているのかわからない。

墓荒らしをしていないとは言えないのだろう。

実際、お金持ちの墓は金目の物も一緒に埋葬することがあるそうで、そういう墓は狙われることもあるらしい。

まあ、あの廃村にあるような墓にそんな貴重なものはないと思うけれど。

だが、もちろん俺たちはそんなことはしていない。

というよりも、廃村についてすぐに墓の扱いについては徹底させていた。

というのも、お墓についてはアルス兄さんがうるさかったというのもある。

俺がバルカニアにいたときには、アルス兄さんと一緒にいろんな人の墓参りや葬式に顔を出していた。

それこそ、俺が物心つく前から連れていかれていたらしい。

そして、ブリリア魔導国に留学に行ったときなどにも、冠婚葬祭だけはおろそかにするなと注意されていた。

アルス兄さんは結構、冠婚葬祭についてはうるさい。

自分の身内以外のものにも頻繁に顔を出していた。

それも、天空王や神の盾という肩書からは到底釣り合わないような一般人のものにも顔を出したりしたことがあった。

それがなぜだかわからずに、理由を聞いたことがあった。

答えは、政治だそうだ。

アルス兄さんが自分で言うには、政治的なことはあまりわからないらしい。

だけど、昔からやっていることとしてなるべく葬儀関係には顔を出して、死者を弔う姿勢を人に見せるようにしているということだった。

それをやるかやらないかで、人々からの印象が大きく変わる。

昔あった、水上要塞での戦闘を悼むための祭りをしたときから、そう心掛けているらしい。

そして、それは実際に大きな効果があると、ほかの人からの話でもよくわかる。

アルス兄さんは戦で大活躍した英雄でありながらも、フォンターナ連合王国の祖王カルロス様の墓などを作り上げたり、旧聖都跡地を天空霊園にしたりと、死者を悼む心を持った人徳者だと言われたりもしていたからだ。

そんな話を聞かされていたからか、俺もお墓に手を出すようなことは一切していないし、させていない。

廃村に残っていた墓はきちんときれいにしているし、墓参りもできるはずだ。

「じゃあ、この戦いが終わったらバルカ村に墓参りに来る?」

「ぜひお願いします。実は俺、つい先日結婚して。その報告を先祖にしたいと思っていたんですよ。ありがとうございます」

大丈夫か?

そんなことを言って、先祖に報告する前に危険な戦場に行くことになるけど、無理だけはするなよ。

嬉しそうにするゼンに対して、そう忠告しながら、一緒に戦場へと向かったのだった。