軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

検証のために

「はい。私、お医者様になりたいです」

「へえ。てっきり、マーロンはガリウスの後を継いで造り手にでもなるのかと思っていたよ」

「アルフォンス様に体を治してもらったの、すごくうれしかったです。だから、私も同じように病気を治して人の役に立ちたいと思って」

「うん、わかった。それじゃあ、マーロンはこれからアイに病気のこといろいろと教わってね。期待しているよ、マーロン先生」

「はいっ。がんばります」

新しく作ったバルカ村の病院。

そこではアイが病気の治療を担当することになり、その助手を募集することとなった。

といっても、現状ではそれほど病人がいるわけでもない。

しばらくは、アイに付きっ切りで治療方法や病気の診断についてなどを学ぶことが主になるだろう。

そんな助手へと名乗りを上げたのがマーロンだった。

ガリウスの娘であるマーロン。

彼女は不治の病とされた例の呪いから治ったことで、医者になってみたいと考えたようだ。

ガリウスはそんな娘の意見を聞いて、ちょっと複雑そうな顔をしていた。

もしかしたら、自分の後を継いで職人になってほしかったのかもしれない。

が、本人の意見を尊重して、ぜひ病院で働かせてやってほしいとお願いされた。

延命薬でずっと寝たきり状態だったマーロンの体は、今ではかなり良くなっている。

がりがりだった体もしっかりと食事をとって、孤児たちと一緒に体を動かしたこともあり筋肉もついてきていた。

勉強も別に苦手ではないので、俺としても特に不満もない。

「じゃあ、お願いね、アイ。ほかにも助手が増えることもあるかもしれないけど、とりあえずマーロンが助手第一号ってことで、いろいろと教えてあげてくれ」

「かしこまりました、アルフォンス様。ですが、こちらからもひとつよろしいでしょうか?」

「なに? 病院のことで、なにか不手際があったか?」

「いえ。診療道具などはガリウス様に作成していただいているので特に問題はありません。ですが、ほかに重要な課題が存在します。それは、情報の検証についてです」

「情報の検証? それは病気に関してってことか? 病気とか人間の体のこととかって、天空王国で調べた結果をアイが情報としてまとめているんじゃないのか?」

「そのとおりです。私の知りえる情報はすべて賢人と認められた方々が知識の書にまとめたものです。ですが、それらはすべて天空王国、およびフォンターナ連合王国でのみ情報の検証を行っているのです」

マーロンを助手として受け入れることに決めたことをアイに伝え、後を頼むと言った。

それに対して、アイは受諾したが、しかし言いたいことがあるという。

それは情報そのものについてだった。

アイは普通の人間ではない。

あくまでも、神の依り代である人型の魔導人形を使って動かしているだけで、その大本は別の場所にいる。

そして、そのアイとつながっているのは賢人、あるいは変人集団と呼ばれる人間だ。

あのミームという医者をはじめとした、アルス兄さんによって集められた変人集団は賢人として認められて、カイザーヴァルキリーとつながっている。

自分たちの知りえる知識をカイザーヴァルキリーに集めることで、それを賢人たちが共有できるようにする仕組みがあるのだ。

それが知識の書と呼ばれるものだ。

アイはあくまでもその知識の書に集められた膨大な情報を整理し、その正確性を検証するために作られた人格にすぎない。

そして、そんなアイだからこそ、情報を整理しておきたいのだろう。

つまり、アイは知識の書にある医学の情報について、まだ検証が足りていないと言いたいのだ。

が、そんなことがあるんだろうか。

以前、ミームが言っていたが、アルス兄さんはまだ地上で騎士領の当主だったころから、実際の患者の体で薬の効果を調べる治験をしていたという話だったけれど。

「はい、そのとおりです。ですが、それはあくまでもその地での検証結果にすぎません」

「どういうこと?」

「大雪山を挟んで西と東。かつての起源は同じであっても、長い歴史的な隔たりによって人々の体には違いがあることも考えられます。つまり、同じ治療法であっても西と東では効果に差が出る可能性も考えられます。また、病気が起こる機序も異なる可能性があるでしょう」

「ああ、なるほどね。要するに、西と東で治療結果が違ってくるかもしれないってことか。同じ治療をしてもどのくらい治るかどうかがまだわからない。もしかしたら、有害だっていう可能性だってある。だから、知識の書にある医学情報がこっちでも通用するかどうかを確認したい。それが情報の検証ってことね」

「そのとおりです。助手に医学知識を教えることは可能ですが、それと並行して情報が正しいかどうかを精査していく必要はあるかと思います。そのためには、数が必要です。多くの症例を通してのみ、検証が可能であると考えます」

「わかった。つまり、アイが言いたいのはこういことだな。病院で治療をしていくなら、たくさん患者を診て情報を精査したい。症例を増やしたい、ってことね」

「そのとおりです。ですので、病院は商業施設ではなく、研究所という位置づけが望ましいかと思います」

「わかった。別にいいよ。病院で治療を受ける際の治療費は俺が負担する。そうすれば、誰でもいつでも治療を受けられるから、治療実績も増えるでしょ」

「はい。そうしていただけるとありがたいです」

普通は病気になったらお金がかかる。

治療を診てもらう医師というのがそもそも少ないから、診察してもらうだけでも結構お金が必要なはずだ。

そして、それに対して薬を出してもらったり、手当てをすればそれでまたお金がかかる。

それは仕方のないことだ。

だけど、お金がかかるということはその分だけ治療を受けることをためらわせることにもなる。

このくらいの症状だったら自分は大丈夫。

病院にいくほどではない。

そう自己判断して病院に来ない人が多くなるかもしれない。

だが、それはアイにとっては望ましいものではなかった。

知識の書にある情報を確認するためには、なるべく数多くの患者を診たいのだから、それでは困るのだ。

だったら、どうするか。

治療にお金がかからないようにしてはどうか。

無料で病気を診てもらえるなら気兼ねなく病院に行ける。

だが、ただで病院を維持していくことはできない。

というわけで、バルカ村の病院は患者から金をとるのではなく、俺が払うことにした。

俺、というか、バルカ村の財政からの支出という形になるというのが正しいだろうか。

またまたお金のかかることになってしまったけれど、悪いことばかりではないと思う。

普段から治療を受けやすい状況を作っておけば、その分みんなが元気に働いてくれると思えばありだろう。

実際、意外といろんな病気を持っていた元娼婦の女性陣をはじめとして多くの人が利用することで、アイのもとで情報の検証が進むことになった。

こうして、バルカ村ではだれでも安心して掛かれる無料の病院が出来上がったのだった。