作品タイトル不明
変わった王族
「はい、到着です。これから、しばらくはここが皆さんの滞在場所となります。ここで、暮らして、子どもたちに教育を施してもらいます。で、そうして生活しつつ、この村に馴染んでいってもらえればと思います」
アルフォンス様に連れられてやってきたバルカ村。
そこは本当に村なのかというほどの大きな壁に囲まれた場所でした。
というか、本気でこれを村と言っているのでしょうか?
私はあまりほかの土地のことを知りませんが、どう見ても要塞かなにかにしか見えないのですが……。
壁に囲まれた中に武装した者だけが住んでいる基地のような場所が、ここバルカ村でした。
まっすぐ真上を見上げなければてっぺんが見えないほどの高さの壁はアトモスの壁と呼ばれるようです。
あの巨人であるアトモスの戦士ですら越えることができない高さだそうです。
その壁に作られた門を潜り抜けた先にさらに進み、一軒の大きな建物がありました。
どうやら、ここがアルフォンス様のお住まいのようです。
変わった建物です。
オリエント国ではあまり見ないレンガのみの建築様式ですが、もしかしてこれが霊峰を越えた先にある国の建物なのでしょうか。
すべてがレンガ造りで、きれいで大きなガラスがはめ込まれた窓が多数あり、開放感のある建物でした。
「クリスティナさん、このお屋敷はずいぶんとかわった造りをしているのですね」
「ええ、そうね。アルフォンス君の故郷である天空王国のバルカニアにある建物をもとにして設計されたそうよ」
「天空王国?」
「そうよ。私も行ったことがないけれど、アルフォンス君の生まれた国は空に浮いているらしいわ」
「……まさか。そんなおとぎ話みたいなことを言われても信じられないわ」
「本当らしいわよ。というよりも、霊峰の麓にあるバリアントというところにも、空飛ぶ城があるの。ここに住む傭兵たちはそれを知っているからこそ、アルフォンス君のことも畏怖の目で見ているわ。なにせ、その天空王国の王はアルフォンス君のお兄様ということだから」
「それじゃあ、あの子は王の弟ということになるのかしら。なんでそのような方がこのような異国の地にいるの?」
「私が聞いた話では、戦いの場を求めて、ってことだったわよ。天空王国は平和で戦う機会すらないからっていうらしいけれど、アルフォンス君はそれが嫌だったんでしょうね」
一緒の馬車に乗ってこの村までやってきたクリスティナさんと話をする。
彼女から聞かされるアルフォンス様の話は聞けば聞くほど驚かされてしまいました。
オリエント国の娼婦を一度にこれほど身請けするなどという話にも驚きましたが、どうやらそれも納得の理由があるようですね。
王族だったようです。
それならば、このようなお金の使い方をしてもおかしくはないのかもしれません。
「ローラ、あなたから見て、アルフォンス君はどう? 高級娼館でもバルカ傭兵団の話は聞いたことがあったんでしょう?」
「そうね。もちろん、仕事柄、いろんな話を耳にすることがあったわ。そのなかでは、近年現れた傭兵の活躍ももちろん聞いています。ずいぶんと活躍しているそうですね」
バルカ傭兵団。
その名はグルーガリア国とオリエント国が戦った時から耳にするようになったと記憶しています。
急に現れた傭兵団。
それは初めての戦場であるグルーガリア国との戦いで見事な戦果を挙げたそうです。
ですが、その時に話題になったのは傭兵団の団長ではありませんでした。
傭兵団の中にいる巨人こそが人々の話題に上がっていたのです。
巨人化して戦場で無類の強さを発揮するアトモスの戦士。
かつてはあちこちの戦場でアトモスの戦士の名を聞きましたが、近年ではあまり聞かなくなっていました。
それがこの国に現れて、そして定住したのです。
話題にならないはずがないでしょう。
しかし、そんな巨人の話題の中で、たまに名が挙がっていたのが傭兵団の団長のことです。
それはまだ子どもであると噂されていました。
小さな少年が巨人を従えて戦場に出ているというのです。
しかも、その子が強いという話もありました。
あのグルーガリアの弓兵の中でもとくに有名な流星と呼ばれる戦士を討ち取ったのです。
本当なのでしょうか。
娼館にいたままにしてそのような話を聞くと、どうしても疑ってしまう気持ちが私の中にはありました。
いくらなんでも子どもにそのようなことができるのだろうか。
戦場に出たといってもどこかの国の貴族の子どものように、ついていっただけだったのではないだろうか。
そう思っていたのです。
ですが、そうではないというのが今は分かります。
彼は強い。
私は戦場に出た経験はありませんが、オリエント国の兵士相手に何度も仕事でお会いしたことがあるのです。
その歴戦の戦士にも劣らぬ風格が彼にはあります。
どうやってあの年齢でそこまでの風格を身に着けられるのかわかりません。
ですが、ただの人ではないということは十分に感じ取れました。
王族である、というのもそれと関係しているのではないかと思います。
アルフォンス・バルカという少年は決してこのような村と呼ばれる場所に留まる存在ではないでしょう。
私の中ではそんな思いが強くなっていきました。
「私もそう思うわ。だからこそ、独立した商人ではなくアルフォンス君のそばにいることに決めたの。私は自分の人生を彼に賭けてみたのよ」
私の考えをクリスティナさんに話すと、彼女はそう答えます。
私と同じように、いえ、彼女はもっとあの少年に入れ込んでいるのでしょう。
そのことがよく伝わってきました。
「あなたの勘は昔からよく当たっていたわね。それにしても、王族のお方をアルフォンス君なんて呼んでいてもいいのかしら?」
「ふふ。私は許可をもらっているからね。なんなら、ローラにも君呼びできるように聞いてあげましょうか?」
「あら、いいのかしら? そんなことを許してくれるの?」
「どうかしら。けど、意外とお願いすればなんでも受け入れてくれるわよ、アルフォンス君は。そこらの男と違って、結構懐が深いとでもいえばいいのかしら。後で聞いてみるわね」
意外と身分関係にはうるさくないのかしら?
それならば、そのほうが助かるのは確かです。
ただ、さすがについ先日まで娼婦をしていた私に許可は出さないと思っていました。
ですが、その後、クリスティナさんがお話を通してくれたところ、私もなぜだかアルフォンス君と呼んでもいいことになりました。
こうして、風変わりな王族アルフォンス君との生活が始まったのです。