軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

容体回復

「命名、マーロン」

ガリウスのボロ家の中。

そこで、俺はマーロンに対して名付けを行った。

【命名】という呪文を用いて名を与え、魔法を授ける。

呪文をつぶやくと差し出した手のひらの前に魔法陣が展開し、それによって無事にマーロンへの名付けが終わった。

「さあ、マーロンさん。【瞑想】です。【瞑想】って呪文を唱えてみてください」

「う、うん……。瞑想」

ガリウスと会ってから数日が経過した。

あれから、俺たちはそのままガリウスの家に滞在している。

ノルンの働きによって不治の病という名の呪いから解放されたマーロン。

そのマーロンの体が回復するまで、しばらく様子を見ていこうということになったからだ。

幼いころに呪いを受けて、少しずつ死に近づいていったマーロン。

ガリウスはそのマーロンを治すために手を尽くし、それでも解決できずに延命薬によって治療法が見つかるまで無理やり命を保ち続けてきた。

だが、その期間が長すぎたのだろう。

穢れた血を取り除いて、意識を取り戻し、体は少しずつ回復していったマーロンだが、なかなか難しい状態にあった。

それは、マーロンの精神だ。

マーロンの中では自分はまだ幼い子どもであると認識していた。

だが、目を覚ましてみると当時と状況が激変している。

オリエント国でも有数の職人として知られたガリウスは、その腕に見合った収入があった。

そのために結構いい暮らしをしていたのだろう。

しかし、現状ではそうではない。

今にも崩れそうなオンボロの家と、その地下にある部屋で暮らすガリウスの姿。

しかも、自分の知る父の姿とも違う。

面影はあるが歳を取り、老けて見える。

さらには自分の体も問題だった。

長い間、ガリウスの献身的な世話によって延命薬を使い寝続けていた割には体の状態はいい。

が、それはあくまでも、まだまし、というものだった。

成長期を一切動くこともできずに寝続けて、最低限の栄養だけを管を通して取り込んでいた体はやせ細っている。

お世辞にも髪の毛も状態がいいとは言えず、肌も同様だ。

あまりにも変わってしまった自分の体と周囲の環境。

その変化にマーロンの精神が耐えられなかった。

毎日目を覚ましては状況の変化に驚き、怯え、叫び、絶望する。

そんなことをずっと繰り返していたのだ。

このままでは、マーロンはもたないだろう。

マーロンの姿を見ている誰もがそう思った。

だから、決断したのだ。

まだ、バルカ村にも来ていないが、マーロンに対して名付けを行った。

それは【瞑想】を使えるようにするためだ。

【瞑想】は体から無意識に垂れ流し続けている魔力を体内に留めるだけの魔法だ。

アルス兄さんはこの【瞑想】をヴァルキリーへの騎乗訓練する際の筋肉痛から逃れるために作ったという。

そのため、【瞑想】を使って一晩寝れば疲れはすっきりと取れて万全の体調になるというありがたい効果があった。

が、この【瞑想】にはもう一つ、別の効果が存在する。

それは精神の安定だ。

【瞑想】を使うと体が疲れから解放されるのと同時に、気持ちも安定してくれるのだ。

この効果はかなり大きい。

たとえば、初めて戦場に出て人の命に手をかけた時、たいていの者はそのことが頭から離れなくなる。

そして、食欲をなくしたり、寝付けなくなったりと、精神的なことを原因として体にも影響が出るのだ。

だが、この【瞑想】を使えば、そういう精神的な負担を和らげて落ち着かせてくれる。

傭兵たちも初陣からここまで、新天地での生活も含めてさまざまな精神的な負担があったにもかかわらず無事にやってこられているのはこの【瞑想】の効果が大きい。

それをマーロンが使った。

【瞑想】と呟いた瞬間に、それまでの顔つきとは明らかな変化が生まれた。

焦りや動揺、不安などが顔に出ていたが、それらはまだあるもののずいぶんと落ち着いている。

「大丈夫ですか、マーロンさん?」

そこにハンナが声をかける。

優しく手を握りながら、相手が落ち着くまで待ってじっくりと話を聞く。

その合間合間に生姜湯を飲ませて、体も温める。

こういうとき、同性の話し相手がいるというのは良かったのかもしれない。

実の父であるガリウスよりもハンナに対してのほうがマーロンも落ち着いて話ができるみたいだ。

「ありがとう、ハンナおねえちゃん」

「えっと、どうしましょう、アルフォンス様。お姉ちゃんって言われちゃいました。マーロンさんのほうが年上だと思うんですけど……」

「別にいいんじゃないの? マーロンの精神年齢は多分ハンナより年下なんだし。もう一人妹ができたと思って助けてあげなよ」

「それはもちろんですけど、うーん。年上の妹かぁ」

「ハンナおねえちゃん、この人、だあれ?」

「えっとね、この人はアルフォンス様。ほら、マーロンさん。挨拶できるかな?」

「うんっ。初めまして、アルフォンス様。マーロンです」

「ああ、よろしくな、マーロン。マーロンはこれから父ガリウスと一緒に俺の村に来ることになる。しっかり体を治すんだぞ?」

「むら?」

「そうだ。バルカ村だ。ここと違ってもう少し自然もあるいいところだよ。来てくれるか?」

「うんっ。おとうさんとハンナおねえちゃんと一緒に、わたしもいくよ」

「そりゃよかった。じゃあ、あと何日か様子を見て移動するか」

どうやら【瞑想】はよく効いているようだ。

あれだけ、絶望感あふれる姿をしていたマーロンがすっかり元気になっている。

体と精神年齢が釣り合っていないのでちょっと違和感はあるが、まあそれくらいは許容範囲だろう。

それからさらに数日経過観察をしてから、ようやく俺たちはバルカ村へと戻ることになったのだった。