軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

昔語り

「……こうして話を聞いても信じられないでござる。霊峰の向こうにはそんな世界があるのでござるか」

「嘘は言っていないよ」

「ああ、申し訳ない。なにも坊ちゃんが嘘をついていると思っているわけじゃないのでござるよ。けれど、歳をとるとなかなか自分の常識に囚われちまうもの。魔法剣という実物がなかったら信じられなかったかもしれないでござるな」

この国にいたグランが霊峰を越え魔物が現存するフォンターナ連合王国にやってきて、そこで魔法剣を作り上げた。

硬牙剣のほかにもいろんなものを作っているという話を聞いて、ガリウスが大きく息を吐く。

この国では霊峰の向こうに行こうとする人間なんていない。

まさに世界の外側の話のように感じているのだろう。

魔物がいるが人間が国を作って、さらには空飛ぶ城に住みつつも月に向かって船を出す。

そんな話を聞いて、さすがに信じられないと言っていた。

ただ、頭ごなしにこちらの言うことを否定しない。

キクからおっさんと呼ばれてはいるが、頭が柔らかいのかもしれない。

「いいものを拝見したでござる。ありがとう、坊ちゃん」

「いいよ。それよりも、ガリウスにお願いしたいことがあるんだけど」

「うん? なんでござるか? 拙者に飯をたかるような感じには見えないでござるが、なにか用でもあったのでござるか?」

「ああ。俺の村に来ないか、ガリウス。今、技術者を募集しているんだ」

「村に? たしかバルカ村とか言ったでござるな?」

「そう。最近できた村なんだけど、これからどんどん人を増やして発展させようかと思っているんだ。いろんなものを作ろうと思っている。けど、そのためにきちんとした技術を持つ人もほしくてね」

「坊ちゃんの村に、でござるか……」

「俺からもお願いだよ、おっさん。一緒に村で住もうよ。バルカ村はいいところだよ。寒くないしきちんとした家もあるし」

「……いや、やめておくでござる」

「なんで? おっさん、前から言っていたじゃん。自分はオリエントで一番の造り手だって。こんな貧民街がお似合いなわけないだろ」

俺とキクがバルカ村に来てほしいと頼んだ。

が、その言葉を聞いてガリウスはちょっと困ったような顔をしつつ、その申し出を断る。

その返事を聞いて、キクが思わず詰め寄った。

「知らない村に来るのは嫌かな? 確かに、できたばかりで聞いたことのない村だろうけど」

「まあ、それも多少はあるでござる。けれど、それよりも単純に拙者の問題でござるな。あんまり大きな声ではいえないが、ちょっと借金があるのでござるよ」

「知っている。この二人からその話は聞いているから。でも、借金を踏み倒してここにいるんでしょ?」

「ん? ああ、まあそういうことになっているでござるな」

「あれ、実際は違うの?」

「うむ。それは子どもたちに話す方便でござる。拙者がこの貧民街に住むことになったのは、それなりに理由があるのでござるよ」

「へー。聞いてもいいかな、その理由ってのを」

「ふむ、まあいいか。面白い話ではないし、子どもに聞かせるようなものでもないでござるが、坊ちゃんはなんとなくただの子どもではないようでござるからな。それに昔馴染みの話も聞けたこともある。では、拙者の昔話に付き合ってもらおうではござらんか」

話すまで俺たちが納得しない。

そんなふうに感じたのかもしれない。

あまり乗り気ではなさそうだったが、その理由について話してくれることになった。

※ ※ ※

ガリウスはもともとこのオリエント国でも名の知れた人物だった。

かつて名匠と呼ばれたグランとともに活躍して名をはせたそうだ。

そのグランが霊峰を越えるといってこの国を出た。

グランについていった者も多かった。

だが、ガリウスはこの地に残った。

それは当時まだ幼い、最愛の娘がいたからだ。

ガリウスにとって、その子は唯一の家族だったそうだ。

娘の母親に当たる女性は出産の際に亡くなってしまったらしい。

母のいない娘につらい思いをさせられないと、ガリウス自身もかなり大変だったが、しかし充実した楽しい生活を送っていた。

だが、そんな生活はそう長くは続かなかったそうだ。

ガリウスの娘が病気になった。

心臓の病気だったそうだ。

そして、その病気は難病であり、あるいは不治の病とも言われていた。

治療法がない。

病気にかかったら治すこともできずに死に至る。

そんな病気に娘がかかってしまった。

ガリウスは泣いた。

愛する女性を失い、その人が生んだ最愛の娘までもが苦しみの中で寝ている。

なんとか治してあげたい。

そう思うのは当然だろう。

ガリウスは奔走した。

できうる限りのことをした。

いい医者がいると聞けば、その医者を呼んで診察してもらった。

だが、どの医者も言うことは同じだった。

手の付けようがない、と。

あるいは、薬も取り寄せた。

この心臓の病気に効くと聞けば手当たり次第に取り寄せた。

だが、どれも効かなかった。

あとから考えると怪しげな薬も多かったらしい。

そんなふうに手を尽くしたが、娘の病状は一向に回復してこなかった。

そして、積みあがっていく借金。

この国でも有数の造り手ではあったガリウスは相当なお金を持っていたようだが、それでもすべての資産を使っても足りずに借金までしていたそうだ。

だが、治らなかった。

そうして、ガリウスの娘は亡くなった。

そのはずだった。

「生きている?」

「そのとおりでござる。拙者の娘は死んでいない。まだ、生きているのでござるよ」

だが、ガリウスは言う。

自分の愛した子が今も生きている、と。

俺と一緒に話を聞いていたキクやハンナが困惑している。

多分、見たことがないんだろう。

ここに来るまでも話していたが、ガリウスはずっとこの貧民街に住んでいる。

その貧民街にいた二人が一度も見たことがないのだ。

大丈夫か、こいつ?

もしかして、ちょっとおかしくなっているんだろうか。

ガリウスの話を聞いて、思わずそう思ってしまったのだった。