軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貧民街の職人

「借金を踏み倒して逃げた?」

「そうです、アルフォンス様。もともとは壁の中の工房で働いていたみたいなんですけど、とんでもない量の借金があるとか言って貧民街に逃げてきた人がいましたよ」

「……逃げ切れるものなのか? 借金取りだって追いかけてくるだろ」

「貧民街はそういう人も多いですからね。意外と見つからないんじゃないですか?」

「ふーん。けど、腕は確かなんだよな?」

「多分。自分では俺はオリエントで一番の腕を持っている、ってずっと言っていましたよ」

本当だろうか?

貧民街から職人を引っ張ってこれないものかと思って聞いてみたところ、キクには心当たりがあった。

が、どうやら訳ありの人物らしい。

なかなかに大きな借金を作り上げて、それを踏み倒して逃げている人物がいるらしい。

「私もその人のことを知っていますよ、アルフォンス様」

「ハンナも知っているのか」

「はい。もともとは真面目ないい人だったそうです。けど、唯一の家族の娘が病気になって、その病気を治すためにお金が必要だったって言っていました」

「それで借金したって?」

「そうです。でも、借りたお金でお薬を買って飲ませても治らなかったそうです。で、病気に効く薬を探していろいろほかのお薬も試してみたけど結局は効かなかったらしくて。その後、借金も払えなくて逃げてきたみたいです」

「そうそう。だから、俺たち孤児にもたまに食べ物くれたんですよ」

「そうか。じゃあ、その人にこのバルカ村に来てもらうことってできるかな?」

「多分大丈夫じゃないですか。今も同じところにいるか、確認してみないといけないかもしれませんけど」

借金まみれの職人か。

キクやハンナの話を聞く限りでは、家族のために借金まみれになったらしい。

貧民街は基本的には他人に深く干渉しない者が多いと聞く。

そんななかでも、孤児に食べ物を分け与えることがあったという話を聞くと、確かにそこまで根は悪い人ではないのかもしれないと思う。

「どう思う、クリスティナ?」

「借金がある職人かぁ。どこにお金を借りていて、今誰がその人から取り立てようとしているかにもよるんじゃないかしら?」

「俺がその人をバルカ村に連れて来ようとしたら、借金取りがここまで来るってこと?」

「可能性は十分あると思うわ。けど、ある意味わかりやすいかもしれないわね。借金を立て替えるとか好待遇で迎え入れるとかって条件を出せば、この村に来てくれるかもしれないわね」

なるほど。

交換条件を出すのか。

それなら確かにおとなしく来てくれる可能性もある。

あとは腕次第だけど、まあ大丈夫だろう。

少なくともオリエント国の工房で働いていた経験があるなら、この村で魔道具作りをしている誰よりも技術があるだろうし。

「よし、じゃあそいつを探しに行こうか。キクとハンナは案内してくれるか?」

「わかりました。任せてください、アルフォンス様」

こうして、その借金まみれの職人を探しに、俺は再び貧民街に向かったのだった。

※ ※ ※

「なんか、ここも久しぶりだなー。ちょっと前までここに住んでたのに」

貧民街にやってきた俺たち。

そこでキクがあたりをきょろきょろしながらそんなことを言う。

まだこの場所を離れて一年くらいしか経っていないのに懐かしい気持ちがあるのだろう。

だが、それでもやはりこの場所は慣れたものみたいだ。

あれこれ話しながらも、入り組んだ貧民街の中を迷いなく進んでいく。

それにしてもこの場所は相変わらずだ。

いや、今回は俺たちが子どもだけでここに来たからかもしれない。

貧民街を奥に進んでいく俺たちの前にまた追いはぎたちが現れた。

数人が取り囲むようにして近づいてきている。

前は俺が襲ってきた奴らを撃退したが、今回はその対処をキクたちに任せている。

前までならば、キクもハンナもそういう奴らに対抗しようとはしなかったのだろう。

あくまでも、この貧民街の中でも最底辺に位置する孤児として、ひっそりと息をひそめて目立たぬように生きてきた。

だけど、今は違う。

襲ってきた大人たちを倒せている。

「……勝っちゃった? アルフォンス様、見てくれましたか? 俺、大人相手に勝てましたよ」

「当然だろ。アイの訓練を受けてるんだぞ。そんなガリガリの相手に負けてもらっちゃ困るよ、キク。でも、よくやったな」

「はい、ありがとうございます。……よっしゃー。俺、強くなってるんだ」

近づいてきた大人をキクが剣で倒して喜んでいる。

そういえば、ずっとバルカ村で訓練していただけだったからな。

実際に戦うことなんてなかったし、今まで自分が強くなっている実感がわきにくかったのかもしれない。

こういうのもいい経験になるかもしれない。

まあ、この程度の相手に勝って満足してもらっても困るんだけど。

もっと強いやつなんて山ほどいるし。

ちなみにハンナのほうは喜びよりも驚きが勝っているみたいだ。

大人相手に勝てるとは思っていなかったのか、びっくりしている。

どうもハンナはあんまり戦うのが好きではないみたいだけれど、それでも十分に力がついてきていることを感じているだろう。

「あ、見えてきましたよ。この家です、アルフォンス様。おーい、おっさん。いるのか? 出てきてくれよ」

そうこうしていると、どうやら目的の場所についたようだ。

貧民街の奥に進み続けて、何度もくねくねと曲がった先にある一軒のボロ家。

その家の扉をキクがガンガンと拳で叩いている。

大丈夫なんだろうか?

あんまり叩くと扉ごと、この家全部が傾いてしまいそうだ。

「おいおい、勘弁してほしいでござる。拙者の家を壊す気でござるか。……って、おお、久しぶりでござるな。お前、キクか。そっちはハンナか? 最近見ないと思ったら生きてたのでござるな」

そんな乱暴な訪問に家を壊されてはたまらないとすぐに中から出てきた男。

結構背が高い男がキクとハンナを見て、ニコッと笑顔を見せる。

どうやら、子どもには優しいというのは本当みたいだな。

こうして、俺はガリウスという借金まみれの職人と出会ったのだった。