軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

体調変化

「おねえちゃん、あついよ」

「大丈夫、ミー? ほら、おかゆを作ったからゆっくり食べて」

「熱い。こんなの食べられないよー」

「あ、ごめんね。ほら、ふー、ふー。はい、ちょっと冷めたと思うからゆっくり口に入れて」

私たちがバルカ村に来て、さらに時間が経過した。

秋ごろにアルフォンス様と出会ってここに連れてこられたのに、もう年を越して新年を迎えてしまった。

あっという間だった。

毎日の勉強は大変だけど、お腹がすいて倒れることもない。

寒くて震えることもない。

こんなに幸せなことってあるんだろうかと思うくらいだ。

けれど、ちょっと心配なこともある。

ミーのことだ。

最近、妹のミーはよく体調を崩すようになっていた。

今日も朝から熱があって起きてこなかった。

アイ先生は体調が悪ければしっかりと治るまで休むようにいってくれているので、そのままゆっくりと眠れている。

私もこうしておかゆを食べさせて看病できるので、これだけでも貧民街から抜け出せてよかったと思う。

けど、心配だ。

今日みたいにミーに熱が出て寝込むことが増えてきている気がする。

前はそんなことなかったはずだ。

私もミーも健康が取柄だった。

そうじゃなければ、あんな貧しい生活で生き延びられるはずもない。

それよりもいい生活を送れるようになったのに、なんでこんなによく体調が悪くなるんだろう。

おかゆを食べ終えたミーの体を起こして、【洗浄】という生活魔法を使う。

一瞬で体がきれいになった。

けれど、一度服を脱がせて、布で拭いていく。

暑いと言っていたとおり、体は汗をかいていたからだ。

天空王様の像があるこの村は新年を迎えたこの時期でもあまり寒さを感じない。

だけど、汗が残ったままだと体が冷えてしまうだろう。

丁寧に汗を拭いて、もう一度布団に入れなおす。

さっき見たミーの体は特に問題があるようには思えなかった。

貧民街にいたころよりも肉付きがよくなっている。

がりがりだった体にもしっかりと肉がついて、健康そうに見えた。

それなのに、なんでこんなに熱がよくでるようになったんだろう。

「後でもう一度アイ先生に体を診てもらおうか。早く元気になってよね、ミー」

そう言ってミーの額にかかった髪の毛を救い上げるようにして、濡らした布をおでこに乗せる。

「無駄だな。そんな看病をしてもそいつの体は治らないぜ」

「きゃあっ。び、びっくりした。って、ノルン様? いつからそこに?」

ミーの寝顔を見ていたら、急に後ろから声をかけられて驚いてしまった。

びっくりしすぎて、思わず私も猫のように飛んでしまったくらいだ。

バクバクと跳ねるように脈打つ心臓を胸の上から抑えながら、その声がした後ろのほうへと顔を向けるとそこにはノルン様がいた。

このバルカ村でたまに見かけるノルン様。

真っ赤な鎧姿で歩いている。

傭兵さんたちと訓練していることもある。

この人がなんなのか、いまだによくわからない。

ただ、普通の傭兵さんとは明らかに扱いが違っていた。

アルフォンス様やイアン様、アイ先生に向かって対等に話をしているところを何度か見かけている。

きっと、このバルカ傭兵団では幹部の人なんだと思う。

けど、その割には全然見かけない時もあるし、なにより一度もその鎧の下の顔を見たことがない。

どんな人なのかもわからないし、話しかけてくる声も鎧の中で響いてちょっと不気味だからいまだに慣れない人物というのが私たち孤児の共通認識だ。

「そいつ、あれだろ? 獣人の混血の娘だろ?」

「獣人? 混血? ミーがですか?」

「そうだ。かつて、魔大陸にいた猫のような人もどき。その末裔なんだろ?」

「ち、違います。ミーは私の姉妹で、私たちの親は普通の人間でした」

「なら、やっぱり混血なんだろうな。猫の耳や尻尾が生えているところを見た。あれは先祖返りによくある特徴だからな」

「先祖返り、ですか?」

「そう、先祖返りだ。かつて、魔大陸にいた獣と人の血が混じった混血はそういう特徴を持って生まれたもんさ。そして、そういうやつらのたいていは、今みたいに熱が出て早死にしたんだよ」

……死んだ?

ど、どういうこと?

ミーは確かに肉体変化が起きるようになった。

それが、今の体調不良に関係しているの?

そう言われてみると、思い当たる節がないわけでもない。

今までは元気だったミー。

そのミーが体調を崩すようになり始めたのは、肉体変化ができるようになってからだ。

あのかわいらし猫耳と猫の尻尾。

あれから訓練して、自分の意志で出したり引っ込めたりするように練習している。

あれが、関係しているの?

本当に?

「そ、そんなこと、アイ先生は言っていませんでした。本当なんですか、ノルン様?」

「あの人形は別に何でも知っているってわけじゃねえだろ? あいつはこのガキの症状がなにかわかっていないみたいだな。だが、俺はかつて似たような連中を何度も見たことがある。間違いねえよ」

そんな……。

ミーの肉体変化があれば、アルフォンス様の役に立てる。

そう思っていたのに、まさかそれで早死にするなんてことがあるの?

ノルン様の言葉を聞いて、慌ててミーを見る。

今はすやすやと寝ているけれど、またその顔には汗が出ていた。

さっき拭いたばかりなのに。

「まあ、助からんわけでもないがな」

「え、本当ですか?」

「ああ。普通なら無理だが、今は俺様がいるからな。けど、俺様だけじゃ無理だ。そのガキと姉妹だっていうお前の血が必要になる」

「血が……? わかりました。私の血でミーが助かるなら、何でもします。お願いです、ノルン様。ミーを、妹を助けてください」

私はノルン様の足に縋り付くようにして、懇願する。

硬い鎧の足。

その足のそばで頭を下げて、何度も何度もミーを助けてと願った。

そしたら、ノルン様は私の願いを聞き届けてくれた。

楽しそうに笑いながら、いいぜ、助けてやるよ、と言って手を差し伸べてくれたのだった。