軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

肉体変化

「お、おねえちゃん。どうしよう? 私、なにかの病気なのかな?」

私たち孤児がこのバルカ村に来て初めての冬が来た。

寒い季節になって、雪も降るようになっている。

朝起きたら地面が真っ白になる日もある。

私は冬が大嫌いだった。

寒いのは嫌い。

だって、お父さんやお母さんが死んだのもこんな冬の時期だったからだ。

貧民街で本当に小さくて狭いボロボロの家に昔は住んでいた。

けれど、食べるものがなく、お父さんやお母さんは自分の食べ物を私たち姉妹に譲ってくれていた。

そして、死んだ。

一緒に寝ていたはずの二人が、朝起きた時冷たくなっていたことを今でも覚えている。

両親が死んでから、私たちの生活は変わった。

それまで住んでいた家に住めなくなって路上生活になってしまった。

食べるものもない。

だから、ほかの孤児の子と一緒に残飯をあさって食べる生活が始まった。

だけど、そんな孤児の生活は普通は長くは続かない。

去年は本当に運よく死なずに冬を越せただけだ。

雪が降る回数が少なかったみたいで、まだましだったという話を聞いたことがある。

けど、それはたまたまだ。

次の冬がいつもどおり寒ければ、私たちは冬を越せたかどうかわからない。

そんな寒い時期にもかかわらず、私たちは寒さを気にせずに暮らせている。

それはこのバルカ村に来たからだ。

この村は雪が降っているのに全然寒くないのだ。

不思議だ。

村に住む傭兵さんたちは今は自分の家を持ち、村の中で生活している。

けれど、何日かに一回はアルフォンス様の家でもあり、私たち孤児の住んでいるこの村の中央の家へとやってきて、拝む。

この家の庭に置かれている像に拝みに来ているのだ。

その像はアルフォンス様に似ている。

けど、アルフォンス様ではないみたいだ。

正確にはヴァルキリーという使役獣に乗るアルフォンス様の兄である天空王様の像らしい。

そして、この像には秘密がある。

この像は寒さを吸収してしまうのだそうだ。

この天空王様の像があると冬でも寒くない。

それを傭兵さんたちは知っているからあいさつに来て拝んで帰るみたい。

それを何度も見ていたからか、私もこの像をよく眺めるようになった。

本当にアルフォンス様に似ている。

アルフォンス様よりも大きく成長したような姿でかっこよかった。

この像があるから冬が寒くない。

私はそれを聞いてから、自分もこの像に拝むようになっていた。

ありがとうございます、と心で念じながら手を合わせて祈りをささげる。

毎日の勉強と訓練の合間のそんな祈りの時間に、ミーが声をかけてきたのだった。

「ど、どうしたの、ミー。……って、ええ? それどうしたのよ?」

「わかんないよ。さっきね、急に頭にこれがあったの」

「ちょっと待って。そっちにも何かあるわね。これは、耳と尻尾じゃない?」

庭にある像の前で声を掛けられ、振り向くとそこには妹のミーがいた。

私のたったひとりの姉妹。

大切なその子が、泣きそうな顔をしながらそこにいた。

そして、そのミーの体にはそれまでとは違う点があった。

頭とお尻。

そこにそれぞれ耳と尻尾があったのだ。

「病気なのかな、これ?」

「わかんないよ。そうだ、アイ先生に聞きに行こう。アイ先生はいろんなことを知っているからなにかわかるかも」

「わかった。おねえちゃんも一緒に聞きに行ってくれる?」

「もちろん。行きましょう、ミー」

私にはそれが何なのかわからなかった。

私のかわいい妹の頭には黒い髪の毛と同じ色の黒い猫耳が、そしてお尻にも黒い尻尾があったのだ。

多分、猫の耳っぽい。

アイ先生に相談に行く前にミーに触らせてもらったら、ふさふさで気持ちよくて暖かかった。

触られた感覚もあるみたいで、作りものとかじゃないのは間違いない。

けど、朝の食事の時にはそんなものなかったはずだ。

本当になんなのかしら?

「どうですか、アイ先生? ミーのこれはなにかの病気じゃないでしょうか?」

像の前から家の中に入ってすぐにアイ先生を見つけた。

そこで、ミーの頭とお尻を見せながら、そこにある耳と尻尾を見せつける。

あんまり病気だなんてミーの前で言わないほうがいいんじゃないかって気もする。

いつもは元気なミーが不安そう。

心なしか尻尾もしょんぼりしていた。

「これは、肉体変化が現れているものと思われます」

「肉体変化? なんですか、それって?」

「それがなにかと問われても正確にはわかりません。が、人間の中には肉体を変化させうる者が存在すると報告されています。たとえば、イアン様のようなアトモスの戦士は魔力によって肉体を一時的に巨人化させることが可能です。すなわち、魔力により自身の肉体を変えうる現象を便宜上肉体変化と呼ぶのです」

「えっと、それってつまり、ミーが魔力で自分の体を変えてるってことですか?」

「おそらくは、という程度ですが、その可能性があります」

「元に戻る、んですよね?」

「わかりません。魔大陸にはかつて亜人種という存在がいたという話をブリリア魔導国にて確認しています。その亜人種は人間とは異なる体的特徴を持っていたという情報がありました。彼らは耳や鱗、尻尾がその身にあるとのことです。しかし、その情報は事実確認が終わっておらず未検証です」

……アイ先生はたまに分かりにくい言い回しをすることがある。

が、さっきの話だとミーが自分の魔力で体を変化させた可能性が高いのだと思う。

亜人種がいたという話だったけど、お父さんもお母さんも頭に猫耳やお尻に尻尾があったわけじゃないし、私もない。

私と血のつながったミーがなんでこんなことになっているんだろう?

「えっと、ミー、その耳、自分で戻せないの? 魔力で耳が変化したんなら、戻せるんじゃないかと思うけど……」

「えー、そんなのわかんないよ、おねえちゃん。どうやるの?」

「……私に聞かれてもわかんないわよ。じゃあ、体の調子はどうなの? 痛いとか、なにか変わったことはないの?」

「んーっとね、ミーは元気だよ!」

「そっか。じゃあ、とりあえず心配いらないんじゃないかな。一晩ぐっすり寝て、それでもとに戻らなかったらもう一度考えようよ」

急に猫耳がついてしまった妹の頭に手を当てて、髪の毛をなでる。

なんとなく、いつもよりもなでる時間が多くなってしまった。

猫耳がかわいい。

もともとかわいかった私の妹が、まさか猫になってしまうなんて。

なでる手が気持ちいいのか、機嫌よさそうに尻尾を振る姿なんてまさに猫だ。

しばらくこのままでもいいんじゃないかな?

私はさっきまで泣きそうだったミーのことも忘れて、ついそんなことを考えてしまったのだった。