軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伐採中

「いやー、鉄の騎士が使っていた斧があってよかったな。この大きな斧のおかげで柔魔木が切れるし」

グルーガリアの材木所という当初の目的地には行かずに、俺たちは進路を変えた。

このグルー川の中州というのはかなり大きい。

それこそ、普通の川なら中州なんていっても小さな土地しかないだろうけれど、グルー川の川幅はそんな規模ではない。

対岸が遠く離れているのだ。

そして、そんな大きく広い川の中州はもはや島といってもいいくらいの大きさだった。

グルーガリアの連中が柔魔木を伐採して保管している材木所とは別の離れた地点に船をつけて上陸する。

そこに柔魔木は生えていた。

不思議な形の木だ。

普通ならば、地面に生えている木ならば地中に根っこがあり、地上部分は一本の太い幹が上に伸びているだろう。

けれど、柔魔木は違った。

根っこに見える部分が地面の上にも盛り上がっていた。

もしかして、小国家群の川がよく氾濫するというのも関係しているのかもしれない。

水の量が上がったときに幹の部分が水の中に完全に浸かってしまわないように上にずれているんだろうか。

この不思議な形をした柔魔木の中には中州という地面のある場所ではなく、水に浸る部分でもたくましく生えている。

きっと、あのたくさん枝分かれしている根っこの部分が水に強く、川の流れにも負けない構造になっているんだろう。

そんな柔魔木に近づいて魔力を流し込む。

何もしない状態で木をたたくとまるで金属のように硬い柔魔木だが、魔力が通ったらなぜか柔らかさが増す。

なんでそんな変わった特性があるのか気になるけど、今はそんなことを言っている場合でもないか。

魔力を通して柔らかくした状態で、俺は魔装兵が使っていた武器の中の大斧を叩きつけた。

ドン、という音がして、柔魔木に切り込みが入る。

うん、どうやらきちんと刃が通るようだ。

これなら全然切れないということもないだろう。

「エルビス、そっちはどうだ?」

「いけますね。アイ殿が作ったこの魔石を柔魔木に押し付けていれば、確かに柔らかくなるようです。これなら、斧で切ることができますね」

「よし。じゃあ、さっそくだけど、どんどん伐採してくれ。切った柔魔木はイアンが川に運べ。ついてきた輸送隊に預けて川に浮かべて運ぶ準備をするんだ」

「了解です。しかし、グルーガリアの者たちもいずれこちらの動きに気づくでしょう。そちらはどうするのですか?」

「うーん。まあ、そっちは俺が見張っておくよ。エルビスとはとにかくなるべく急いで柔魔木を伐採してくれ」

「わかりました」

俺がそう告げると、バルカ傭兵団は作業に入った。

それを見て、オリバやほかのオリエント国の人間も動き出す。

最初は目的地と思っていた材木所に向かわなかったバルカ傭兵団に文句を言おうとするやつも何人かいたが、今はおとなしくなっている。

目の前でイアンが巨大化して、その体に合う大きさに変化させた自在剣を振るったのを見て、さすがにそれ以上詰め寄ることができなかったようだ。

それになにより、オリエント国の持つ常識では簡単に伐採できないと思っていた柔魔木が次々と切り倒されて、川に運ばれていくのを見て、動かざるを得なくなったのだ。

「でも、本当にこの中州にしか柔魔木って生えていなさそうだね。グルー川って大きいから、もっと他の場所でも生えていてもよさそうなものだけどな」

「おそらく、この地の固有種なのでしょうね。あまり切りすぎてしまうと、この柔魔木がこの世からなくなってしまうかもしれません」

「そうかな? この中州って結構大きいし、俺たちが多少切っても大丈夫なんじゃない? この世からなくなるなんて大げさだよ、アイ」

「そんなことはありませんよ、アルフォンス様。人が欲にかられてとりすぎれば、それが植物だろうが動物だろうがこの世から消滅することはあり得ます。アルス様もそれを危惧して、バルカラインの北の森は森林管理地区として保全する取り組みを行っています」

あー、そういえば、北の森はなんか管理しているとか言っていた気がする。

あの森はこの中州よりもさらに広いはずだし、そんなことをする意味があるかと思っていたけど、アルス兄さんはそんなことを考えていたんだ。

てっきり、カイル兄さんの契約した精霊があの森の奥にいたからだとばかり思っていた。

そう考えると、グルーガリアの人がこの光景を見たら怒るかもしれないな。

目につく端から魔石を押し当てて柔魔木を切り倒している。

きっと、この中州から柔魔木がなくなってしまったりしないようにグルーガリアの連中も気を配っていたのだろうと思う。

そんな奴らからしたら絶対に許せないだろうな。

「あ、来たね。グルーガリアの兵がやってくるよ、アイ」

「こちらでも確認いたしました、アルフォンス様。船でこの地点へと接近中。まもなく射程範囲内に入るものかと思われます」

どうやら、相手も寝ぼけて見逃していたわけではないようだ。

木を切り始めてそれなりに時間が経過したころ、グルーガリアの弓兵たちがこちらに向かってきているのが見えた。

多分、オリエント国から来た兵が材木所を襲うものと思って守っていたのに、別の方向に行ったから対応が遅れたんだろう。

あるいは、硬い柔魔木を切れるはずもないと思って様子を見ていたのかもしれない。

だけど、それは間違いで、オリエントの兵が次々と柔魔木を伐採して川に並べていくのを発見して、慌てて出てきたのか。

グルーガリアの兵は中州の中の陸地ではなく、川を船で移動してきたみたいだ。

きっと、柔魔木が生い茂っているこのあたりを移動するよりは、水の上のほうが速く到着すると判断したんだろう。

そんな船の上にいるグルーガリア兵がこちらのほうを見ながら叫んでいた。

やっぱり怒っているんだろう。

一直線にこちらに向かって進んできている。

まだ、こちらは伐採作業中だ。

すぐに撤退の準備を始めても、急には動けないだろう。

「時間を稼ぐぞ、アイ」

そう言って、俺は迫りくる弓兵相手に時間稼ぎを行うことにしたのだった。