軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

柔魔木の伐採

「ま、待ってください、アルフォンス殿。どこに向かうつもりですか?」

「材木所から離れて中州に上陸する」

「しかし、我々の攻略目標はグルーガリアの材木所です。それをバルカ傭兵団の一存で全体の進路変更するなど許されませんよ」

「そうなの? じゃあ、バルカ傭兵団が乗っている船だけで行き先を変えるよ。それなら文句ないでしょ?」

「あるに決まっています。この作戦はアトモスの戦士イアン殿にかかっているのです。そのイアン殿が材木所に行かないのでは話になりません」

船の上でオリバと言い合う。

どうやら俺が進路変更をすることに文句を言いたいらしい。

まあ、道案内だなんだと言っていたが、オリバが俺たちのそばにいるのはこういうやり取りをするためなのだろう。

雇った傭兵がきちんと戦場で働くように命じられているに違いない。

「材木所の攻略は無理だって。どう考えてもあの壁で守られた拠点を攻略するにはこっちの数が足りない」

「ですが、それを含めて合意の上でここに来たはずです。バルカ傭兵団はオリエント国が正式に雇っているのです。作戦通りに動いてもらわないと困ります」

「それは違うよ、オリバ。俺はバナージ殿に雇われたとき、こう言われた。この作戦の目的は柔魔木の確保にあるって。材木所の攻略はそのための手段であって、目的じゃない」

「ですが、それは屁理屈でしょう。柔魔木の確保のためには材木所に向かう必要があります。そこから離れる進路をとるというのは、雇い主の命令に反することになります」

「問題ないよ。だって、別に材木所にいかなくても柔魔木なんていっぱい生えているじゃん。あの中州にはさ」

そうだ。

オリバは事前の作戦どおりに傭兵を動かすように命じられているのかもしれないけれど、こっちはそうではない。

作戦目標が柔魔木の確保であれば、それができればどこに向かおうとも問題ないはずだ。

材木所には確かにすでに伐採された柔魔木がたくさん置いているはずだ。

けれど、それはしっかりとした守りで固められていて、簡単には手に入れられない。

だったら、別にそれにこだわる必要はないだろう。

伐採が終わった柔魔木でなくとも、そこらに生えているものをかっぱらってしまおうというのが俺の考えだった。

「それは無理というものです、アルフォンス殿。あの柔魔木は非常に硬いのです。柔魔木を伐採するのはかなりの手間と時間がかかるのですよ。それこそ、木こりが何人も交代で時間をかけて数日がかり、あるいはもっと長い期間で切り倒すことになるので、中州に生えている柔魔木のもとに向かっても手に入れることはできないでしょう」

「柔魔木は別に硬くないでしょ。魔力を注げば柔らかくなるんだ。その状態だったらそんなに時間をかけずに切り倒せると思うよ。現にグルーガリアの連中はそうしているんでしょ?」

「……え? いや、しかし、柔魔木に魔力を流し込むのは容易なことではありません。アルフォンス殿なら魔力が流せるのかもしれませんが、まさかアルフォンス殿が一本一本柔魔木を切って回るのですか?」

「オリバって結構頭が固い人だったんだね。柔魔木じゃないけどもっと柔らかく、簡単に考えればいいじゃん。別に、俺が魔力を注がなくても、ここにいる2000人が一斉に木を切ればあっという間にたくさん伐採できるでしょ」

「ですが、アルフォンス殿以外の者は柔魔木に魔力を流し込むことができないのですが」

「何のために柔魔木を確保しようって話してんだよ。魔弓を作るためでしょ? で、その魔弓は誰でも簡単に操作できるように、魔石に魔法陣を描いて柔魔木を柔らかくするようにしている。つまり、その魔石と魔法陣があれば誰でも柔魔木が簡単に切れるようになるはずだよ」

「……魔石? 魔法陣? た、確かにそうかもしれませんが、あの魔弓オリエントはバナージ議員らが試作したもので、ここにはありません。手元にない以上、魔法陣の描かれた魔石で伐採するというのは無理なのでは?」

「大丈夫だよ。アイ、あの魔石を作れるか?」

「問題ありません。魔弓オリエントの構造、および魔法陣は確認しています。魔石の加工は可能です」

柔魔木というのはかなり硬い木だ。

そのために、一本の木を伐採するのにそうとうな時間がかかるらしい。

それこそ、何日も、何か月もかかるということだ。

グルー川の中州というものすごく特定された場所にだけ生えている柔魔木が今まで切りつくされてしまわなかったのだって、硬すぎて木を切るのに時間がかかるからに他ならなかった。

そのことを昔から知っているオリエント国の人間は、だからこそすでに伐採が終わって保管されている材木所に向かおうと考えた。

実際に生えている現場に行っても、木を切っている間にグルーガリアの弓兵に攻撃されてしまうだけだからだ。

だけど、それはあくまでもグルーガリアの人間以外が伐採した時の話でもある。

グルーガリアの者たちは幼いころから柔魔木で作った弓で訓練をして、魔力を流し込むのが難しい柔魔木に触れあっている。

そうして、そんな柔魔木に慣れた連中であれば、魔力を流し込みながら木を柔らかくした状態で伐採することができるらしい。

そうすることで、時間のかかる伐採作業を早めることができるのだそうだ。

だったら、こちらもそうすればいい。

あえて守りの固められた材木所に向かわなくとも、直接柔魔木を手に入れる。

そして、そのための方法ならすでにある。

それはバナージたちが作り出した魔弓、その魔弓に取り付けられた魔石だ。

あの魔石には柔魔木を柔らかくする効果のある魔法陣が刻まれていた。

もちろん、それは魔法陣技術がよそに漏洩しないようにさらに別の魔法陣で暗号化されている。

が、それはアイならば解読できる。

カイル兄さん仕込みの知識を持つアイは暗号化された魔法陣も見るだけで正確に解読できてしまうからだ。

そして、アイは魔石に魔法陣を刻み込む作業にも慣れていた。

なにせ、アルス兄さんが作った精霊石にアイが魔法陣を描きこむという、新たなアイの核を作る作業もバルカニアではやっているのだから。

たとえ、揺れる船の上であろうとも、アイの作業は完璧だった。

エルビスが【魔石生成】と唱えて作り出した魔石に、魔法陣を刻んでいく。

そうして、あっという間に、誰でも硬い柔魔木を柔らかくすることができる魔法陣付きの魔石が用意されていったのだった。