軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見守る女商人

すごい。

目の前の光景が信じられない。

私はその小さな男の子が淡々と実行する行動を見て、あぜんとしていた。

アルフォンス・バルカ。

あの霊峰の麓にいつの頃からか現れた空飛ぶ城の関係者。

なぜかわからないけれど、まだまだ子どものアルフォンス君が傭兵たちを引き連れて傭兵団をやっているらしい。

傭兵団自体は聞いたことがないわけでもない。

貴族や騎士が自身の子に経験を積ませるために子どもの時から名目上の団長とすることがあるらしいからだ。

歴史ある家の子であれば、生まれつき一般人よりもはるかに強い。

だから傭兵たちもそれを認めてはいるが、しかし、実際にはお飾りみたいなものだと思う。

だけど、このバルカ傭兵団は違った。

まだ10歳にもなっていないはずの子どもを頂点にしてきちんと運営されている。

補助にバリアント城の城主様やものすごくきれいな女性の付き人がいるが、それでもすべての決定権をアルフォンス君が持っていた。

この子は本当に子どもなのかしら?

商人としてあちこちの土地を回ってきたが、これほど変わった少年は見たことがない。

考え方もしっかりしているし、大人と話をしていてもあまり幼さを感じない。

それに、面と向かって話をするたびに胸がドキッとなってしまう。

あれはなんなのだろう?

不思議な、とらえどころのない印象を与え続ける少年だった。

だけど、それだけではなかった。

アルフォンス君は変わっているだけではなく、どうやら戦いにも精通しているらしい。

私たちやバイデンさんがなかなか見つけられなかった盗賊をあっという間に探し出し、そして倒している。

とくに、最初に出てきた筋肉質の男はまさに瞬殺だった。

少なくとも私にはアルフォンス君が何をしたのかすらよくわかっていなかった。

いつの間にかその手に赤い剣が握られていて、それが男の喉に突き刺さっていたからだ。

あの剣はいったいどこから出したのかと疑問に思ってしまう。

が、当人はそんなことは関係なく、顔色一つ変えることもなく、本当に躊躇なく相手を倒してしまった。

「いやはや、困りましたね。せっかく洞窟の中に罠を仕掛けて待っていたのですが、まさかこうしてあぶりだされてしまうとは」

傭兵たちが盗賊を蹂躙する。

剣や槍、斧といった武器で盗賊たちに殺到して次々と倒していく光景。

それを見ていると、洞窟の奥から嫌に気取った感じの言葉遣いをする男が現れた。

こいつだ。

明らかにほかの盗賊とは異なる風貌をしたその男こそ、この盗賊団の頭なのだと思う。

私の商隊もこいつにやられた。

それなりにしっかりと護衛をつけていたにもかかわらず、この男にしてやられたのだ。

「気を付けて、アルフォンス君。そいつは要注意よ」

「ほう。これはこれは、クリスティナさんではありませんか。いけませんね。あの時、取り逃がしたあなたが彼らを連れて仕返しに来たというわけですか。やはりあの時私自らが捕まえておくべきでしたか」

やっぱり、こいつは他の盗賊とは違う気がする。

私のことを知っている。

多分、この男はどこかの国の回し者なんじゃないだろうか?

着ている服は明らかに上等で、さっきの男のように無理やり革鎧を体に収めているわけではない。

しっかりと着こなしているように感じる。

貴族の子を傭兵団の頭に据えて経験を積ませることがあるが、それとは別に盗賊の頭に貴族の人間がかかわることもあるらしい。

いわゆる妨害だ。

他の勢力の利益となりえる取引を物理的に妨害するために、高貴なる者が盗賊に扮して商人を襲う。

今回の出来事もそうなのかもしれない。

なんらかの利害が絡んで、ここを通る商隊を機能させなくするために、どこかの家が動いているのかもしれなかった。

大丈夫だろうか?

もし、私のその考えが正しいのなら、こいつは普通の人間ではない。

生まれながらに一般人よりも強い貴族か騎士。

それが相手では、さすがにアルフォンス君には荷が重いのではないだろうか。

ちらり、と周りに視線を送る。

別にこの男とアルフォンス君が戦わなければならない決まりはない。

たとえば、この傭兵団になぜかいるアトモスの戦士がアルフォンス君の代わりに戦ったりはしないんだろうか?

だけど、イアンさんは動こうとはしていなかった。

それだけではなく、エルビスさんもアイさんも動かない。

きざな男の前に進み出たアルフォンス君をただ見守っている。

ということは、彼が戦うということなんだろう。

私も周囲から前へと視線を戻し、胸の前でぎゅっと手を握る。

ここまで数日だけれど行動をともにした小さな傭兵さん。

彼の無事を祈りつつ、その戦いを見届けることにした。

「なんだね、君は? 子どもは家に帰って寝ていたまえ」

「ねえ、おじさん。面白そうな剣を持っているね」

「お、おじさんだと? 私まだそんな歳ではないぞ、少年」

「あっそう? それより、その剣、もらってもいいかな? 素直に渡してくれれば、命だけは助けてあげるよ」

「面白い冗談だ。我が自在剣の価値に気が付いたことだけは誉めてやろう。ただし、その言は万死に値する」

男がそう言って剣を抜いた。

きらりと光るその剣の柄には何かがはめ込まれている。

あれはなんだろうか?

宝石か、あるいは魔石かもしれない。

自在剣というらしいその剣を男が握り、そして突き出す。

「え、伸びた?」

アルフォンス君に向かって突き出されたその剣の長さが伸びた。

見間違いではない。

両者の間にあった差を埋めるように剣自体が伸びていた。

どうやらあれは普通の剣ではないみたいね。

もしかしたら、迷宮で発見でもされた剣なのかもしれない。

迷宮で得られた武器は変わった効果が付くこともあると聞いている。

もっとも、私のような末端の商人がそんな高価な代物を取り扱ったことは一度もないけれど、多分そうに違いないだろう。

こうして、私が見守る目の前で、アルフォンス君と自在剣の使い手の戦いが始まったのだった。