作品タイトル不明
老人の提案
「アルフォンス様、ぜひ私も同行させていただけませんかな?」
「え? スーラも一緒に行く気なの? 大丈夫なの?」
「はい。ぜひ、お願いいたします。この老骨、微力ながら助けになるかと思います」
バリアントの街にある神殿。
そこで、三日三晩宴会を繰り広げた。
バルカ傭兵団に入った者以外もその神殿にやってきておこぼれにあずかっていた。
傭兵となった若者を見送る者もいれば、餞別を渡す人もいる。
逆に、自分も行きたかったのに傭兵団に入れずに残ることになった者もいて、それらは愚痴を言いながら酒にありついていた。
そんな日々を過ごしてから、いざ出発の前の晩にスーラがそんなことを言い出したのだった。
スーラはこのバリアントで顔役となっている老婆だ。
ここに街ができる前から住んでいて、その集落で長をしていた女性。
そして、そこにやってきたアルス兄さんと取引を行い、今のバリアントの基礎を作り上げたといわれている。
もしも、スーラがアルス兄さんとうまく協力関係を築けていなければ、今のバリアントは存在しなかった。
だから、ここにいる住人たちはみんなスーラのことを尊敬している。
そのスーラが一緒に行きたいと言い出した。
どうしようかと考えてしまう。
ぶっちゃけて言えば、スーラは必要ない。
どう考えても戦力になりえないからだ。
それに、バリアントからオリエント国に行くまでは距離があると聞いている。
途中、いくつもの山や川を越えながらの移動になるので、老人を連れていくのは大丈夫なのかという疑問もある。
「この婆さんも連れていけ、アルフォンス」
「ええ? イアンはスーラが傭兵団に入ることに賛成なの?」
だが、そこに予想外の声を上げた人がいた。
イアンだ。
アトモスの戦士であるイアンが老人であるスーラを連れていくことに賛成している。
あまりにも意外な言葉に驚いて聞き返してしまった。
「たしかに傭兵としては使えない。だけど、そいつがいるほうがいい」
「なんで? 道案内ってこと?」
「それもある。おい、スーラ。お前は何度か小国家群に行ったことがあるんだったな?」
「かっかっか。その通りじゃ、アトモスの戦士イアン殿。こう見えて、私にも若かりし頃があったからの。小国家群へは何度か行った経験がある」
「ということは、途中で宿をとりながら、ってことだな?」
「そのとおり。小国家群に行くまでの道中で知り合いもいる。そこに泊めてもろうたことがある」
「だそうだ」
「いや、だそうだ、と言われてもわかんないよ。途中で宿をとった経験があるってのがなにかいいことだったりするの?」
「もちろんだ。俺たち傭兵は基本的に信用がすべてだ。信用があるかないかで、存在価値が決まるといってもいい。だが、このバルカ傭兵団はその信用がまだ一つもない。だから、宿をとるのもむずかしい」
「そのとおりです、アルフォンス様。100人を超える武器を持った男どもの集団を泊めてくれるようなところはそう簡単には見つかりません。村に近づいただけで危険な者たちと判断されるだけでしょう」
「あ、そっか。それはそうだよね。そうか……、これからは魔導飛行船なんか使えないし、歩いて長距離移動しなきゃいけないもんね。宿をとることも考えて行動しないといけないんだった」
「宿だけではありません。食料の補給や道の状態、あるいは、盗賊などが出るかどうかなどの情報を集める必要もあるでしょう。もちろん、アルフォンス様やエルビス殿、イアン殿がいればたいていの場合は大丈夫でしょう。けれど、全部を力づくで解決して進む必要もありますまい。私がいれば、そのへんの苦労が少しばかり減ることでしょう」
「スーラが交渉役を買って出てくれるってことでいいんだよね? それなら、俺に文句はないよ。でも、本当にいいの? スーラの年で長距離移動はきついんじゃないかな。なんで、俺についてきてくれる気になったの?」
「もちろん、恩を返すためですじゃ。このバリアントの今があるのはアルス様のおかげ。我々は受けた恩を忘れることはない。きっちりとお返しする。そのために、このような機会はほかにないのです」
「わかった。それじゃ、アルス兄さんの代わりに俺がそのお返しをありがたく受け取っておくよ。エルビスもスーラがついてくることに賛成してくれるよね?」
「ええ、もちろんです。スーラ殿、一緒にアルフォンス様をお手伝いしていきましょう」
まさか、傭兵団にスーラのような年寄りが加入することになるとは思わなかった。
けど、これは決して悪いことではないと思う。
たしかに、言われてみれば移動途中のことをどうするか、もっと考えておくべきだった。
大きな街があるところならば、そこで傭兵団全員が宿をとることもできるかもしれない。
けれど、小さな村だったら100人の傭兵は脅威以外の何物でもない。
たしかに、危険なものとみられてもおかしくないだろう。
同じような傭兵と言ってもアトモスの戦士は事情が異なる。
もともと、傭兵の一族として知られているからだ。
アトモスの戦士である、というだけで、高い価値がある。
それに、アトモスの戦士たちは基本的には集団ではなく個人で雇われることが多い。
普段は巨人の体でもないので、宿の心配はそこまでしたことがなかったそうだ。
エルビスはと言えばこれまで軍に所属して行動していた。
その軍もアルス兄さんの作ったバルカ軍だ。
どこにいくのも事前に準備をして、様々な手配をするが、それはそれ専用の後方支援の部隊がいたらしい。
実戦経験があるといっても、それはあくまでもフォンターナ連合王国側での話だ。
この東方では知り合いもいなければ、そこまで地理に明るくもない。
すべての準備をエルビスに任せることはできないだろう。
よし、その辺のことをスーラからアイに教えてもらっておこう。
アイならそういう交渉もうまくこなしてくれるだろう。
こうして、出発前から小さな問題に気が付きつつ、いよいよ出発することになったのだった。