軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

血の契約

(よく言った、アルフォンス。それではこれより儀式を執り行う。いいな?)

(……ああ、いいよ、ノルン。やってくれ)

僕がそう返事をすると、ノルンの剣身が光った。

鮮やかな赤色の剣がまばゆく光っている。

血のように赤く、しかし、どこか暖かみのある心も体も包み込むような光だ。

その光が拍動する。

ドクン、ドクンと拍動するように光の強さが大きくなり、そして広がっていく。

バルカニアの実家にある僕の部屋。

その部屋の中心に立って儀式を受けていた。

目の前に広がる光で部屋の中が満たされていく。

そして、その光がこれ以上ないというほど満ち満ちたとき、ノルンがひとりでに浮き上がった。

剣の先を真上に向けた状態でスーッと音もなく浮き上がる魔剣。

それが僕の胸の高さまできたときに回転した。

クルクルとその場で縦横無尽に回転しながら光の拍動も続いている。

目が離せない。

その魔剣の動きに完全に気を取られていた。

「グッ、ガハッ……」

回転していた儀礼用の剣であるノルンの動きに急に変化が起こった。

目の前の空中で不規則にあちこちの方向に向くように回転していると思っていたのに、急に僕のほうに剣先を向けて回転が止まったのだ。

そして、それに気が付いた瞬間には、宙に浮いた魔剣は移動していた。

剣先を僕に向けたまま、そのまま僕の体のほうへと飛んできたのだ。

あまりに一瞬のことだった。

その動きを察知して止めようと、つかみ取ろうと手が動き始めたその時にはすでに僕の体に魔剣は突き立っていた。

ぐさりと胸に刺さっている。

グッグッグッ。

しかも、その魔剣の動きはそこでは終わらなかった。

僕の胸に刺さった状態で、なおかつ、さらに剣を押し込むように突き立ててくるのだ。

なんとか腕を動かし、剣の柄を握りしめる。

だけど、その動きを止めることができない。

魔剣の動きが強いのか、あるいは僕が力を出せなくなっているのか。

それすらもわからない。

ただ、僕は柄を握りしめた状態でさらにその身を深く貫かれることになってしまったのだ。

ドクンッ。

魔剣は僕の体に深く突き刺さっていく。

それを止める術がない。

そして、その魔剣が拍動した。

それまでの光の拍動ではない。

明らかにドクンと体が震えた気がした。

そのときになってようやく僕は自分の体に起きている異変に気が付いた。

魔剣の剣身は結構長い。

それこそ、僕の胸に突き刺さればあっさりと体を貫通してしまうはずだ。

だけど、今まで急な事態で気が付いていなかったが、僕の体に刺さった魔剣はその背中側へと飛び出してはいなかった。

これはどう考えてもおかしい。

僕の体に刺さっている以上、背中側からも剣先が飛び出していないと帳尻が合わない。

自分の体に起こったことを観察しながら、そんなことを思ってしまっていた。

そんなことを言っている場合じゃないはずなのに混乱しているのかもしれない。

おかしいな、なんてことを考えてしまっていた。

ドクンッ。

そうしていると、さらに魔剣が拍動する。

もう、剣は僕が握っている柄の部分くらいしか残っていないみたいだ。

剣の鍔のところまで深々と刺された魔剣はいくら引き抜こうとしてもピクリともしない。

その状態でさらに何度も拍動し続ける。

ドクンドクンと拍動するたびに、全身が熱くなっていく。

少しずつ、少しずつ、体が熱を持ち、そして燃えるように熱くなってきた。

けれど不思議な感覚だった。

熱くて暑くて仕方がないはずなのに、嫌ではない。

なんというんだろうか。

言い方が適切かどうかはわからないけれど、僕は今、生まれ変わっているんだなという感覚があった。

拍動とともに、全身の血液が荒ぶる。

そして、その血液が体中を駆け巡って、体を構成するすべての細胞に影響を与える。

そんな感じがした。

あまりにも不思議で、けれど心地いい感覚だった。

それがしばらく続いたことで、僕はいつの間にか床の上に倒れこみ、意識を失っていたのだった。

※ ※ ※

(よう、お目覚めか?)

「あれ……、ああそうか。僕は気を失っていたのか」

(そうだな。まあ、ちょっとだけだけどな)

どれくらい寝ていたんだろうか。

床の上で倒れていた僕は目を覚まし、起き上がった。

ノルン曰く、すぐに目覚めたらしいのでそれほど長い時間、気を失っていたわけではないんだろう。

「あれ? どこだ、ノルン? どこにいるんだ?」

だが、そこでふと気になった。

ノルンの姿が見当たらない。

俺の胸に刺さっていた魔剣がどこにもないのだ。

意識が回復してからすぐに胸をみても何もない。

かといって、床に落ちているわけでもなかった。

だけど、先ほどノルンからの思念が間違いなく飛んできていた。

普段なら、ノルンを手に取っていないと思念を受け取れない。

だから近くに落ちているのではないかと思ったが、いくら探しても見当たらない。

(探したって無駄だぜ、アルフォンス。俺とお前は同化したからな)

(同化? ちょっと待って。どういうこと?)

(言ったろう? 俺と契約しろってな。俺とお前は契約した。血の契約さ。俺はお前の血と同化したんだよ)

(はあ? そんなの聞いてないぞ)

(聞かれなかっただろ。契約内容は事前に確認しておかないほうが悪いさ。まあ、けど、剣としても引き続き使えるはずだ。俺を出したいと念じてみな)

いきなり同化とか言われて混乱するが、ノルンの言葉に従って魔剣を出したいと考える。

すると、僕の手のひらにいつの間にかついていた赤い紋章のようなものから魔剣が飛び出してきた。

まるで、僕の血が噴き出るようにしながらの登場だ。

「これって、もしかして僕の血で魔剣ができた、みたいな感じになっているのか?」

(そうだな。俺はお前の血となった。その血を使うことで魔剣を出し、魔剣で血を吸うことでお前の魔力は上がるって寸法さ。おめでとう、アルフォンス。お前は今日、この時をもって新たな吸血種として誕生した。魔剣ノルンの名を持ってお前を祝福するぞ)

なるほど。

失敗したかもしれない。

まさか、自分の血が剣に置き換わるとは思いもしていなかった。

ちょっと勢いで重大な決断をしすぎてしまったかもしれない。

……まあ、いいか。

反省はしても、一瞬で気持ちを切り替える。

なったものはしょうがない。

こうして、僕は魔剣ノルンと同化して生まれ変わることとなったのだった。