作品タイトル不明
実家
「お帰りなさい、アルフォンス。さあ、入って。あなたが帰ってくると連絡は受けていたから食事の用意を済ませておいたわ。冷めないうちに食べましょう」
「ありがとう、母さん」
天空王国として空に浮かぶバルカニア。
天高くに存在する土地に壁で囲まれた町があり、その中にはとんでもなく大きな岩が存在している。
アトモスフィアだ。
そのアトモスフィアのそばには城があり、その城こそがアルス兄さんの居城となっている。
そんなバルカ城へとアルス兄さんは向かっていったが、僕の家はそこではない。
バルカ城を囲む内壁から出て城下町に僕の実家があった。
その家へと帰ると、入り口で母さんが待っていた。
僕の母親であるマリーという女性だ。
もともとは地上にあったバルカ村で貧乏な農家をしていたという。
けれど、母さんから生まれ、育てられた子どもたちが全員大活躍をすることになった。
でも、母さん自身はあまり変わらないらしい。
もう農家としては生活はしていないけれど、ほとんど一般人と同じように街中で生活していた。
誰にでも分け隔てなく優しい女性。
それが僕の母さんだ。
ただ、こうして久しぶりに会うと母さんもいい歳になっているんだな、と思った。
ブリリア魔導国に留学してしばらく会っていなかったからだろうか。
前はそこまで気にしていなかったけれど、母さんの年齢はもう40前後になるはずだ。
ということは、僕は35歳前後で産んだということにもなる。
普通はもっと早く産むのが当たり前だと思うと、かなりの高齢出産になるんじゃないだろうか。
「なに、アルフォンス? もしかして、今、なにかものすごい失礼なことを考えていないかしら?」
「え、いや、そんなことはないよ。久しぶりに母さんの作った料理が食べられるから楽しみなんだ」
「そう? それならよかったわ。いっぱい作ったからたくさん食べてね、アルフォンス」
僕が年齢のことを考えていたら、急に母さんの目がきらりと光った。
ちょっと怖い。
そういえば、女性にたいして年齢のことを言ったりするのは失礼に当たるんだった。
向こうでもエリザベスやセシリーに最初年齢のことを言ったら注意されたっけ?
気を付けないといけないな。
「わあ、たくさんあるね。食べきれるかな?」
「アルフォンスはピザが好きだったわよね? ピザは焼きたてのほうがおいしいから今から焼くわ。もうちょっと待っててね」
「ありがとう。ブリリア魔導国ではお米を食べることも多かったから、やっぱり地元は違うね。どれもおいしそう」
「東方だと食べるものも全然違うのね。ちゃんと食べているの? 体は大きくなっているみたいだから、そんな心配はしなくていいのかもしれないけど、やっぱりそれでも心配だわ」
「食べてるよ。それより、僕大きくなったかな? 向こうでは剣の訓練もしているんだよ」
「ああ、それでかしら。しっかりした体つきになっているわよ、アルフォンス。でも、剣ばかり振っていないでちゃんとお勉強もしてる? 母さんは、あなたがアルスやバイトみたいに暴れん坊にはなってほしくはないんだからね」
「勉強もやっているよ。でも、やっぱり男なら強いほうがいいでしょ」
「あら、強ければいいってものではないわよ。乱暴者なんてみんなから嫌われるわよ? それよりも、みんなを守れるような人のほうがお母さんは好きかしら」
「バイト兄さんやアルス兄さんもそうじゃないの?」
「あの子たちが子どものころはどれだけ手を焼いたことか。特にバイトはいつも喧嘩してきていたのよ」
「バイト兄さんらしいね」
ああ、やっぱりいいな。
久しぶりに帰ってきた実家の雰囲気はいつもとまったく変わらなかった。
母さんとあれこれ話しているだけで、すごく楽しい。
それに落ち着く。
机いっぱいに広がった食器の上には本当にたくさんの料理が盛り付けされていた。
その机の前に置かれた椅子を引いて、自分の席に座る。
そうすると、家の奥から父さんがやってきた。
「お帰り、アルフォンス。元気だったか?」
「うん。元気だよ」
「そうか。それじゃあ、さっそく食事にしようか。アルフォンスを待っている間に父さん、おなかペコペコになっちゃったからな」
そんなことを言いながら食卓についた父さんの手にはすでにグラスが握られていた。
そのグラスには琥珀色の液体が注がれている。
あれはきっとお酒だろう。
僕が帰ってくる前からすでに飲んでいたらしい。
その姿を見て、母さんが父さんにあれこれ言っている。
飲みすぎだ、とか、これくらいいいだろう、とか言い合っているのもある意味でいつも通りだった。
そんなこんながありつつも、三人そろって食事を楽しむ。
僕が留学中にあった話をいろいろしたり、こっちでの話を聞いたり。
そうこうしていると、父さんがお酒に酔って寝てしまった。
聞くなら今かな?
酔いつぶれた父さんを別の部屋に運んで母さんと二人きりになった頃合いを見計らって、僕はいよいよ本題を切り出したのだった。