軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怖さがない

「はい、終了」

庭に倒れて息を切らす僕。

そんな僕のそばにはアルス兄さんが立っていた。

結局、アルス兄さんには模擬戦で一本も取れなかった。

「お疲れさん、アルフォンス」

「あ、ありがとう、アルス兄さん」

「さて、疲れているところあれだけど、さっそく今の模擬戦のことでも話すか。アルフォンスにはひとつだけ足りないところがあるな」

「え、なに?」

「経験、だな。お前の剣はきれいすぎる。決められた動作を淀みなくつないでいくのはうまいけど、逆に言えば読みやすい欠点があるな。実戦では相手がなにをしてくるかわからないっていうのが一番怖いもんなんだよ」

「そっか。ずっと体を操る訓練ばかりだったから、そんなこと考えもしなかったよ」

「まあ、それはそうだろうな。アイがそういう訓練をさせていたんだし。ただ、やっぱり実戦の話をするなら、お前に足りないのはそこだろうな。殺気を全然感じなかったし」

「殺気?」

「そうだ。剣を向けあった者同士で斬り合うっていうのは、とどのつまり殺し合いだ。命の奪い合いなんだよ。たとえ模擬戦だといえどな。けど、お前からはその殺気を一切感じなかった。それはつまり、怖さがない、ってことでもあるんだよ」

「……僕の剣は怖くない」

「ああ。実戦ではたとえ模擬戦で百回戦って一回しか勝てない相手でも、先に相手に大きな傷を与えたほうががぜん有利になる。その一回をつかみ取るには、自分の持てる力のすべてを出して、しかもあの手この手で絡みついていく必要がある。そういう経験があるやつは模擬戦でも殺気を隠し持っているもんなんだよ。ちょっとでも隙を見せたら食らいつくって感じでな。そして、そういう相手はやりにくい。一瞬の油断が命取りになるからな」

そう言われて、自分のことを振り返る。

確かに言われてみれば思い当たることがあった。

僕はアルス兄さんに勝つつもりで模擬戦に挑んでいただろうか。

どこかで、敵わないと思っていたんじゃないだろうか。

だけど、それでは駄目だとアルス兄さんは言う。

怖さがない。

だから、簡単に動きも読まれて対処される。

相手が冷静に対応できるんだ。

バイト兄さんがほかの人と模擬戦をしているときはどうだっただろうか。

何度か見たバイト兄さんの模擬戦は鬼気迫るものを感じたように思う。

それこそ、怖いほどに。

傷を恐れずに全力で相手に挑みかかり、決して訓練だからという気の緩みはなかった。

だからこそ、それを見ていた僕は兄さんたちに憧れたんだ。

自分もそうありたい、と。

「まあ、そうは言ってもアルフォンスの年齢でそこまでできること自体がすごいけどな。まさかここまで強くなっているとは夢にも思っていなかったから、本当に驚かされたよ」

「けど、僕は兄さんたちみたいになりたいんだ」

「ふーむ。同年代で自分よりも強いやつがいるブリリア魔導国に留学させて良かったのかもしれないな。やる気十分で元気がある。いいね。それなら、さっき言っていた迷宮に行けばいいんじゃないのか? 魔装兵とかいう魔物と戦えるんだろ。アイ、魔装兵の強さってどのくらいなんだ? 知っているのか?」

「伝聞での情報でよければお伝えします。魔装兵にはいくつか種類があり、それによって強さが異なるといわれています。ブリリア魔導国における階級相当に合わせた強さを持つという意味で、騎士級・男爵級・子爵級・伯爵級などと分けられています。一般に、伯爵級に分類される魔装兵を単独で倒しうる者を近衛騎士などに抜擢する制度が知られています」

アイの言うことは間違いない。

貴族院の授業でもその説明をする講座があった。

ブリリア魔導国の王家が管理する、かつて魔法陣研究が行われていた迷宮。

そこにはさまざまな強さの魔物がいて、迷宮に入ってきた者を迎撃するという。

迷宮の奥にある迷宮核に近づくほどに、その強さが変わるらしい。

なので、貴族院に所属する学生たちや、あるいは成人した騎士や貴族は迷宮に籠って訓練し、そして魔物を倒す。

魔物という危険な存在がいる迷宮に学生が入ることが許されているのは、自分の力量にあった深さまでしか行かなければ、強すぎる相手と会わないということも関係している。

実力をつけつつ、実戦経験を積むという意味では確かに迷宮はうってつけの存在なのだ。

「へー。面白いな。俺は入れないのかな、その迷宮ってところに」

「それは、駄目じゃないかな? 貴族院に所属していないし、一応他国の王様でしょ、アルス兄さんって」

「駄目かー。そこの迷宮核がどんなもんか、見てみたかったんだけどな。シャルルお姉さまに頼んでみようかな。ダメもとで言ってみたら案外どうにかなるんじゃないか……」

アルス兄さんがぶつぶつ言いながら、そんなことを言っていた。

許可なんて出るんだろうか?

まあ、いいや。

アルス兄さんと違って、交換留学生である僕はれっきとした貴族院の学生なのだから。

迷宮に入る資格はあるはず。

実戦経験を積むためにも、近いうちに迷宮に行ってみよう。

シャルル様を探して屋敷に戻っていったアルス兄さんを見ながら、そう考えたのだった。