軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣の達人

屋敷の庭でアイと向き合う。

僕は手に剣を持ち、それを胸の高さまであげた。

両手で握って体の前でまっすぐかまえる。

これからやるのはアイとの模擬戦だ。

アイも剣を握っている。

模擬戦用の木剣だ。

剣はそれはいいんだけど、あの服でやるのは邪魔じゃないんだろうか?

アイが着ている服はブリリア魔導国で侍女が着ることが多い服だけど、ちょっとひらひらした感じになっているんだ。

動きにくそうに見えるけど、大丈夫かな?

「それでは始めましょうか。そちらからいつでもどうぞ、アルフォンス様」

「……わかった。いくよ、アイ」

だけど、アイはそんなひらひらの服を全く気にしていないようだ。

落ち着いて剣をかまえながら、いつでもこいと言ってくる。

……すごい。

アイがどのくらい強いのか、僕は今まであまり知らなかった。

いつもは屋敷で身の回りのことをしてくれているから、あんまり戦えないんじゃないかと思っていた。

けど、そうじゃないということはこの時点でわかった。

剣をかまえて待つアイに隙がない。

少しの間、アイのことを見続ける。

だけど、剣を握って待つアイは身動き一つしない。

多分、どれだけ様子を見ていてもずっと同じ状態で向こうも待つだけだろう。

そう思った僕は、意を決してアイに向かっていくことにした。

「やあっ」

両手で握った剣を大きく振りかぶりながらアイに近づき、そして振り下ろす。

全力で剣を叩きつけるようにアイに向けた剣。

だけど、それはカツンとアイの剣とぶつかったかと思うと、軌道がずれた。

振り下ろしている途中の剣の横腹を押すようにして、剣筋を変えられたらしい。

そのせいで、僕の剣が勢いよく地面を叩く。

痛い。

思いっきり地面を叩きつけてしまったせいで、剣を握っていた手が痛かった。

「スキありです」

次の瞬間、僕は吹き飛んでいた。

剣で地面を叩くなんていう大きな隙を見せた僕に対して、アイが攻撃してきたからだ。

体の右側を木剣で叩くようにして吹き飛ばされる。

そのせいで、地面をゴロゴロと転がる羽目になった。

「ま、まだまだ」

だけど、こんなことで終わらせない。

アイが手加減していたのはわかる。

吹き飛ばされたといっても、本当に剣で斬られたわけじゃないからだ。

剣が当たる瞬間に力を調整して衝撃を抑えてくれていた。

どちらかというと、掬い上げるようにして跳ね飛ばしたみたいな感じだった。

地面を転がったのは痛かったが、動けなくなるほどではない。

だから、すぐに腕で体を起こして、僕はアイに向かっていった。

全力で駆けていって、今度は低い体勢から剣を横に振るう。

左から右に剣を振って、アイの脚を狙って攻撃した。

これなら地面を叩くことはないはず。

けれど、その攻撃がアイの脚に当たることはなかった。

半身の姿勢からすっと脚を下げられただけで、僕の剣は空を切ったからだ。

ほんの僅かな移動。

それだけで僕の剣にギリギリ当たらない距離を保つようにして攻撃を回避していた。

「スキありです」

そして、反撃された。

今度は左肩を上から押されるようにして、僕の体はベシャリと地面へとぶつかることになった。

地面にお腹をぶつけて、ちょっと痛い。

けれど、これで終わらない。

「まだ、まだ」

バッと体を起こしてアイの位置を確認する。

そして、また突進して攻撃する。

今度もアイはその攻撃をうまくいなした。

けど、反撃はなかった。

だから、次々と攻撃し続ける。

けれど、それはすべてアイには当たらなかった。

何度も何度も、剣を振り、けれどそのうちのただの一度も当たらない。

僕の攻撃をアイが避けて避けて、剣を打ち合い、また避ける。

そんなことが繰り返されるが、それはいつまでも続かなかった。

僕の息が切れて、呼吸がゼーゼーと荒くなる。

そして、動きが鈍くなった。

それを見て、アイが攻撃してくる。

そんなことを僕はずっと繰り返していた。

アイには全然攻撃が通じない。

だけど、それでも楽しかった。

今までずっと勉強ばかりだったこともある。

全力で動けるというだけでも楽しいんだ。

それに、アイの動きに感動していたこともある。

僕が何をしても冷静に、無駄な動きなく、的確に対応してくる。

そうなると、僕は相手が傷つくんじゃないかとかそういう心配は一切いらないんだ。

ただただ、全力でアイに向かっていった。

「はー、はー。……参った。僕の負けだよ、アイ」

「はい。では、模擬戦はこれにて終了です。よく頑張りましたね、アルフォンス様。お体は大丈夫ですか?」

「うん。あちこち痛いけど、動けるよ、アイ」

「それは結構。では、魔力操作をして体を回復させてください。それと水分補給も忘れずに」

「わかった。でも、アイは本当に強かったんだね。僕、全然相手にならなかったよ」

「そうですね。今、私が使っていた剣術はルービッチ家由来のものです。剣聖と呼ばれた人物が【剣術】として魔法にして後世に残した技術を学びました。アルフォンス様にはこの剣聖の剣術をお教えしようと思います」

「え、そうなんだ。剣聖ってすごいんでしょ?」

「もちろんです。達人中の達人として名を残した剣聖は、自身の持つあらゆる技術を魔法として残しています。足運びから体の向きまで、すべて理にかなったものですので、この剣術を修めれば他の武術にも応用が効くと思います」

すごい。

アイがそんなすごい剣術を身に着けているなんて知らなかったよ。

というか、先にそれを言ってくれたらいいのに。

けど、そんなことはもうどうでもいいか。

アイは強い。

それに剣聖の剣術を持っている。

なら、アイに剣術を教わるのに文句なんてあるはずがなかった。

こうして、僕はアイから剣の手ほどきを受けることになったのだった。