作品タイトル不明
決断のとき
「ああ、その話ですか。こちらでも確認していますよ、アルス様」
「知っていたのか、リオン?」
「ええ。と言っても、気がついたのは私も遅かったので、まだ事実関係を確認中だったのです。どうやら評議会が動いたようですね。【念話】を使う者を締め出してまで、極秘に話をすすめていたようですよ」
パウロ教皇から話を聞いた俺はすぐに王都にいるリオンのもとへと向かった。
そして、そのリオンへバルカ王就任問題を知っているか切り出した。
そうしたら、どうやらリオンはすでに知っていたようだ。
だが、それは以前からというわけではないらしい。
「あれってやっぱり、俺を国政から切り離したいっていう思惑なのかな?」
「……おそらくはそうなのでしょうね。彼らなりの苦肉の策なのでしょう。やはり、なんと言ってもフォンターナ王国内でアルス様の影響力は大きいですから」
「だからといって王にするってのはちょっとおかしくないか? 余計に俺が権力を手にするかもよ?」
「するのですか?」
「え? いや、どうだろう。そう言われても、別に権力がどうしてもほしいってわけでもないんだけど……」
「でしょうね。というよりも、彼らはアルス様のその思考を読んだからこそこういう行動に出たのではないかと思いますよ」
「どういうことだ、リオン?」
「簡単です。アルス様を王として認めるかわりに、フォンターナ王国のことにはかかわらずにバルカニアに引きこもっていてほしいんでしょう。自分たちがアルス様に剣を向けなければ、おそらくはアルス様のほうからなにかしてくることもないだろう、と考えているのではないでしょうか」
……なるほど。
そう言われてみれば、たしかにそういうこともあるかもしれない。
ぶっちゃけた話、俺は確かにそこまで権力欲というものがない。
フォンターナ王国の中で出世したいですか、と質問されたら多分、そんなにガツガツした答えを返すことはないだろう。
では、俺はいったい何を目指しているか。
それはあくまでも平和だ。
戦いのない平和な生活ができればそれでいいとちょくちょく人に言っていた。
が、それは別に世界中を平和にしたいという意味ではない。
あくまでも、俺の周りが平和ならばそれでいいというレベルの話だ。
ようするに、俺の願いは平穏に暮らしたいということになる。
その心を利用しようということなのだろう。
つまり、俺に王を名乗らせて、バルカニアという空の上の国を認める。
そして、そことフォンターナ王国は一切の交戦を禁じてやれば戦争が起きる可能性は間違いなく減る。
すなわち、限定された平和を約束するから王を名乗ってのんびりしてろ、ということなのだろう。
「信用されている、ってことになるのか、これは?」
「さあ、どうでしょう。基本的にはやはりアルス様に出ていってほしいのだと思いますよ」
「……そう言うリオンはどうなんだ? 俺が王になるって話をどう思っているんだ?」
「そうですね……。というか、アルス様自身はどうなのですか? アルス様は王になりたいと望んでいるのですか?」
「うーん、わからん。つーか、俺が自分から王になりたいとか言ってたら問題になるんじゃないのか? 不敬だ、謀反の心を持っているだ、とか言われたくないって気持ちが大きいんだけど」
「その心配はないでしょう。私の調べでもフォンターナ王であるガロード様はバルカ王誕生について認めているということでしたから。ちなみに、私としてはアルス様が王を名乗ってくれたほうがやりやすいという面があります」
「なんでだ?」
「まず一つはドーレン王の扱いが決まるからです。長年すべての貴族の上に立つただ一つの王家であったドーレン王の地位ですが、今後はフォンターナ王の下に位置することになります。ただ、それを向こうが納得できるかは正直微妙でしょう。ですが、ほかの王が自分はフォンターナ王よりも下だと宣言してくれれば、前例ができてドーレン王も認めやすくなる可能性がありますから」
「ようするに、俺が王を名乗って、かつフォンターナ王に従うと表明することで同じ王であるドーレン王もそれに倣いやすい状況になるってことか」
「そうです。そして、2つ目はフォンターナ王に強力な後ろ盾ができるという点ですね」
「後ろ盾?」
「はい。だってそうでしょう? アルス様は歳をとっていないではないですか。もし仮に寿命では死なないのであれば、そんな不老のアルス様にフォンターナ王を今後も見守る役目を担っていただけるとすれば、これ以上ない後ろ盾と言えますよ」
「……もしかしたら俺が心変わりするかもしれないけど、それはいいのか?」
「それはないでしょう」
「なんでだよ。えらくはっきり言い切るな、リオン」
「もちろんです。だってそうでしょう? フォンターナ王であるガロード様の婚約者はアルス様の妹であるエリーです。エリーが産んだ子をアルス様は裏切りますか?」
ふむ。
確かにそういう考え方もありえるか。
妹であるエリーの子ども。
つまり、甥の関係にあたる子を俺が王になったからといって裏切るかと言われれば、おそらくはそんなことはしないだろう。
そして、もし俺が不老なのであればその子のさらに次の子も親戚関係は続いていく。
といっても、現状で自分の寿命がどうなっているのかははっきりとは断言できないのだが。
もしかしたら、【回復】で若作りできているだけで寿命は変わっていない可能性もあるので、どうなるかはさっぱりわからない。
「まあ、あとは報酬の問題というのもやはり関係してきます。覇権貴族の打倒を成し遂げたリード家は領地を得ましたが、バルカはなにもない。それをフォンターナ王国がどの程度評価するかというのは内外から注目して見られています。アルス様を王位につけるというのは、フォンターナ王の懐の大きさを見せつつ、実際に与える報酬を減らせるという点では実利もあるのですよ」
「でも、そもそも俺が王になるってことを認める奴らはいるのかな? だってそうだろ? いきなり今日から俺が王様だ、なんて言ったってもともと俺が農民だったことを知っているやつは、こいつ何言ってんだ? って思うだろ」
「それは場所によりますね。確かに普通ならそんな意見も多く出るでしょう。けれど、その場所がバルカニアなら話は違ってきます。天界バルカニアに住んでいる住人はアルス様が王を名乗っても受け入れるでしょう。なぜなら、街ごと土地を上空に浮かび上がらせたことを身を以て知っているのですから」
「……そっか。国土がバルカニアだってんならそうか。ってことは、あれだな。もしかして、俺が王になるっていう話は俺にとってあんまり損はないってことになるのか」
「ええ。まあ、もしなんらかの理由で命を落とせばバルカニアはフォンターナ王国のものになる点が損と言えば損ですね。ですが、総合的に考えると得することが多い話ではあると思いますよ」
決断のときだな。
リオンとの話し合いで王になるということについて、主に損得関係が理解できつつあった。
そして、多分だが俺が王を名乗ることで今後何が起こるかは誰にも予想がつかないのだろうということも気がついた。
とくに寿命関係が不確定要素すぎる。
一代限りの王位というのがどのくらいの期間存続するのかさっぱりわからないのだから。
ならば、後は俺がどうしたいかだけだろう。
王になりたいのであればそうすることもできる。
嫌ならば断ってもいいのだ。
どちらを選んでも、なにかあったら自らの力で未来を切り開く。
ただそれだけだ。
……やるか。
王様になってみよう。
多分、こんな話はここで断れば二度とないだろう。
ならば乗ってみよう。
この予想もしなかった流れに身を任せてみよう。
こうして、俺は王を名乗ることをこのとき決断したのだった。