軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

情報管理社会

「しかし、ラインザッツ領の統治にアイを活用するのはいいとして、だ。具体的にどうするかの計画みたいなものはあるのか、カイル?」

ラインザッツ城の城主の間で領内の資料を確認しているカイルに問う。

俺の方はせっせと魔力を精霊石に変えて魔法鞄に詰め込んでいるだけだが、カイルのほうは超速で資料に目を通して、【念話】で指示を出しているようだった。

今、カイルの頭の中で何人の者と会話がなされているのか俺にはわからないが、多分すごいことになっているのだろう。

「一応、考えてはいるよ、アルス兄さん。もともと、前から実行しようとは思っていたからね」

「そうか。きちんと計画があるならいいよ。とりあえず、今魔導飛行船でシャーロット城からアイたちをこっちに連れてきているけど、それが到着したら何をさせるんだ?」

「まあ、最初はやっぱり情報をアイに取り込んでもらわないといけないかな。できれば、全部アイに管理させたいくらいだよね」

「全部って?」

「このラインザッツ領、いや、違うか。もうラインザッツ家の領地じゃなくなるもんね。とりあえず、ここらをラインザッツ地区と呼称しようか。アイにはラインザッツ地区に住むすべての人の名前や家族構成、住所なんかも把握していてほしいかな」

「……名前や家族構成はともかく、住所もか? 前者は教会の名簿をみればある程度わかるだろうけど、住所の把握って結構難しいだろ」

「すぐには無理かもね。でも、いずれはそうしたいって感じかな」

カイルに対してアイの使い方を聞いてみたが、どうやら本当に本格的に導入するようだ。

だが、果たしてそれが実現できるのだろうかという疑問はある。

というのも、現状でそこまでの情報の把握はいかなる国も貴族もできていないはずだからだ。

フォンターナ王国内でも、このラインザッツ地区でも、どこに誰が住んでいるというのはある程度までなら調べられる。

というのも、基本的には各地に教会があり、そこでその地に住む住人は一定年齢を迎えると洗礼式を受けるからだ。

教会の洗礼式で名付けを受けて、その子どもはようやく自分の名を手に入れる。

それと同時に、教会にはその地に住む新たな名前を得た子どもたちのリストが名簿に加えられるのだ。

基本的にはこれがこのあたりでの戸籍みたいなものになる。

その地を治める貴族や騎士は教会からその名簿を回してもらうことで、自分の領内の人口を把握しているということになる。

つまり、どこそこの教会で名付けられた誰々さんというのが情報として手に入るのだ。

だが、それらは厳密に言えば住所とは結びついていない。

どこの教会で何人が名付けを受けたかは把握できても、その人物がその後どこで生活を営んでいるかというのは別問題だからだ。

基本的には生まれた村や町で生涯を終える者も多い。

だが、貧乏農家などのように貧困であえいでいるような家の子であれば、仕事を求めて大きな街に出てきたりするからだ。

さらにいうと、ほかの貴族領や騎士領では農地の検地をそこまでしっかりしていないという問題もある。

どこの村の誰がどのくらいの広さの畑を持っているかをきちんと正確に把握できているかはかなり怪しい。

なぜなら、農作物の納税に対してはほとんどの場合、村単位で集めるからだ。

どこそこの村はおおよそどのくらいの広さの農作地があり、そこに何人くらい住んでいるから村からはこれだけの税を納めよと指示を出し、徴税官が来るまでに村長が農民から納めるべき税の麦などを集めておく。

その際、割とずさんな管理と袖の下による着服などがあるので、かなりいい加減なのだ。

どうやら、カイルは前からその悪習を是正したいと考えていたらしい。

で、出した答えが仮想人格であるアイに情報をしっかりと管理させるというものだった。

まずは、どこに誰が住んでいるのか、もう一度きっちりと情報を精査する。

そして、その人物の年齢と住所と職業、及び農作地の広さを調べてアイにインプットする。

そうすることで、税の取り立てを村単位ではなく、個人によってしっかり管理できるようになる。

また、もしも引っ越したり、農地を捨てて手に職をつけて違う仕事につくなら、そのときは改めてアイにそのことを伝えさせる。

ようするに、これまでの丼勘定による税の取り立てを脱却して、かなりきちんとした役所みたいなものを作りたいのだろう。

だからこそ、アイの数を増やしたいと考えているようだ。

……うまくいくのだろうか?

いや、多分いかないだろう。

今までのやり方とかなり変わるので、おそらくは相当の反発が出るに違いない。

そして、それはカイルにも分かっている。

だからこそ、統治者がいきなり消滅したこのラインザッツ地区でそれを実行しようとしているのかもしれないなと俺は思った。

今までのやり方を急に変えれば反発するが、ラインザッツ家の没落とそれに代わって新たなリード家の統治の開始というきっかけがあれば、あるいは強引に変えるチャンスになるかもしれないと考えているのだろう。

「まあ、カイルの領地だしな。好きにやればいいけど、最初はうまく懐柔しながらやれよ? 戸籍登録と住民票登録に速やかに協力すれば、数年間の税は大幅に下げるとか、既得権益者の損失分をどこかで補填するとか。そのへんをうまくやらないとな」

「そうだね。まあ、なんとかやってみるよ、アルス兄さん」

大丈夫かな?

ただ、住民に対してうまく餌をやれればあるいは成功するのかもしれない。

例えば、さっき提案した税制優遇もそうだが、住民登録をすればリード家の魔法が無償で手に入る、なんてあればいいかもしれない。

リード領では現在、それなりに大金を積まなければ新たにリード家に名付けをしてもらえないが、それが文句を言わずに協力すれば手に入るとなれば話は変わる可能性はある。

だが、結局はカイルのやりたいようにさせるのが一番だろう。

駄目なら駄目で、そのときに手助けしてやればいい。

こうして、カイルによる新たな領民管理システムが始まったのだった。