作品タイトル不明
サーチライト家の魔法
「セルジオ殿、こいつの弱点を探ってくれ」
「承知した。看破」
黒い狼の精霊、仮称黒焔狼を私とともに囲う味方から声が上がる。
その言葉を受けて、私は魔法を発動した。
サーチライト家が誇る魔法の【看破】である。
これは【探知】と同様に攻撃力のない魔法である。
いつもはあまり使うことのない魔法でもあった。
理由は単純だ。
【看破】は相手の弱点を探り出す魔法だからだ。
有効に使えば非常に役に立つ魔法であるのだが、それは大昔の話だろう。
かつて、初代王以前の魔物はびこる土地が広がっていた時代にはこのサーチライト家の魔法は確かに活躍した。
だが、現代ではあまり役に立つことがなかったのだ。
魔物相手であれば【看破】を行い、相手の弱点を見抜くことは非常に役立ったことだろう。
だが、初代王が幾多もの魔法使いを従えて魔物たちを駆逐し、人の世を作り出した。
その後は長い年月が過ぎ、戦いと言えばほとんどが人間同士での闘いになったのだ。
人に【看破】をかける意味はあまりない。
頭や腹に傷を与えれば、大体の場合は致命傷になりえるからだ。
ゆえに、この【看破】の魔法は出番を失いつつあった。
だが、今は違う。
全く未知の黒焔狼という魔物だか精霊だかわからない相手をするには、これ以上役立つものはないだろう。
その【看破】を発動し、黒焔狼の特徴をあぶり出す。
「……やはり、こいつは精霊だ。全身に纏う黒い炎の中に魔力の塊があるようだ。おそらくはそこを攻撃して、魔力の塊を霧散してやれば消滅する」
「……それだけか?」
「ああ、ほかに弱点らしき弱点はなさそうだ。だが、もう一点だけ。おそらく、この黒焔狼の魔力は有限だ」
「……そんなことは当然じゃないのか? 無限にあるやつなんていくらなんでもいないだろう?」
「いや、そうではない。おそらくはこいつはバイト・バン・バルトによって召喚された氷精を【黒焔】化しているのだと思う。そして、召喚された精霊というのは、召喚者から一定の魔力を与えられ、その魔力が尽きると帰還する、はずだ」
「つまり、体の中の魔力の塊を攻撃して消滅させるか、相手の魔力がなくなるまで耐えて帰るのを待つかの二択ということだな?」
「そのとおりだ」
「っち。サラディア家の連中がここにいれば、水の攻撃ができたのにな。あれが黒い炎だというのなら水をかければ消せたかもしれないのに」
「……それはどうも違うようだ。【看破】によればこの黒焔狼に水という弱点はない。おそらくはあまり効果がないのだろう」
【看破】によって得た情報を仲間に伝える。
だが、残念なことにあまり重要な情報を見抜くことができなかった。
黒焔狼の体の中にある魔力塊を攻撃するか、消耗戦の持久戦をするか。
が、この状況で持久戦は最後の手段だろう。
なにせ、ご当主様であるシュナイダー様が先行しているのだ。
シュナイダー様が戦っておられるのに、おちおちと時間稼ぎだけをしているわけにもいかない。
それに、後方では岩の巨人がまだ暴れまわっている。
そちらもすでに少なくない損害が出ていた。
また、水による攻撃は私も期待していたところだ。
火に水をかければ消える。
これはいわば常識だろう。
なので、【看破】を行うまでは私もその手段が使えないかと思っていたのだ。
たとえば、なんとか黒焔狼を誘導してライン川に引きずり込めないか、など地形を利用することも考えていた。
だが、それは【看破】をした結果、やめたほうがよいと判断した。
この魔法を使用すれば、魔物などではとくに弱点となりうる属性がわかるはずなのだ。
これもかつて、初代王時代には意外な役立ち方をしたらしい。
というのも、当時国を興した初代王が各地に魔法使いを配置し、貴族として遇した際の領地の場所を決めるのにこのサーチライト家の【看破】が用いられたという話が残っていたからだ。
当時は各地にまだまだ魔物が残っていた。
魔物というのは当然、一匹や二匹が縄張りを作っているのではなく、その土地に集団で群れを作るように生活している。
それらの魔物から領民たちを守り、農作物を育てていくためには、その地を治める貴族の魔法を有効に使う必要があったのだ。
そして、魔物によって弱点となる属性が違うと同時に、耐性のある属性というのもある。
たとえば、炎に耐性を持つ魔物が多い土地に炎の魔法を使う一族を送り込んでも効率が悪い。
ゆえに、当時のサーチライト家が各地の魔物を【看破】し、その弱点や耐性をあぶり出して、その土地で活躍しやすいであろう魔法使いを選定していった歴史があった。
まあ、もっともそこに住む魔物よりもその地の環境を優先したという例も多々あるのだが。
例えば、フォンターナ家の【氷精召喚】などは周りが寒いほうが召喚した氷精の力が発揮しやすい。
それゆえに、フォンターナ家は最北の領地をあてがわれたらしいので、一概に【看破】だけで決めたわけではないのだろう。
とにかく、この黒焔狼に対して水による攻撃は弱点たり得ない。
で、あるならばとるべき手段は一つだけだ。
黒焔狼の体を我らの剣にて切り裂き、その身にある魔力を散らせてやろう。
「一斉にやるぞ。合図をもって、同時攻撃だ」
「了解!」
「…………今だ!! 刹那」
時間稼ぎなど必要ない。
ここまで、私が相手の弱点などを探ったのはあくまでも慎重にことを進めたかったからだ。
明確な弱点があるのであればそれで良し。
その弱点をつく攻撃を繰り出すだけだ。
だが、その弱点がないというのであればそれでもかまわない。
いかに相手が精霊という存在であろうとも、こちらには何の問題もないのだ。
ラインザッツ家に名付けられた我らには最強の魔法である【刹那】がある。
この【刹那】を用いれば、時を止めて攻撃を行うことができるのだ。
こうして、我らは【刹那】を同時に発動させた。
時間が停止した世界を18人もの当主級が一斉に黒焔狼に近寄って、各々の武器を黒焔狼に突き立てた。
勝った。
止まった時間の中でも私の【探知】が相手の魔力をしっかりと見張っていた。
幾本もの剣が深々とその身に突き立てられた黒焔狼の魔力塊が散り散りとなるのを確認したのだ。
それを見届けた後、私は黒焔狼の体に突き立てた剣を手放して距離をとる。
次の瞬間、再び時は動き始めたのだった。