軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒い精霊

「なんだこいつは? わかるか、セルジオよ?」

「いえ……、分かりかねます。が、見たところ精霊なのではないでしょうか? 狼の姿をした精霊。もしかすると、バイト・バン・バルトの召喚した精霊なのでは?」

「これが? とても氷精には見えんぞ」

リード軍に斬り込んでカイル・リードのもとへと向かおうとしたその時だった。

そこで、思いもしない横やりが入った。

我らの進行を邪魔するように、一体の精霊が行く手を遮るように現れたのだ。

それを見て、こちらも思わず足を止めてしまった。

あまりにも異質な乱入者。

その姿を見ながら、私のそばにきたシュナイダー様と言葉を交わす。

あの精霊はバイト・バン・バルトの【氷精召喚】によって現れた精霊なのではないか、と。

だが、そう言った私自身、自分の言葉に自信が持てなかった。

なぜなら、とてもそうは思えなかったからだ。

氷の一族であるフォンターナ家が使う魔法。

その中でも当主級が使用する魔法は【氷精召喚】と言われている。

氷の精霊を呼び出し、その氷精とともに戦うという変わった魔法だ。

そして、その【氷精召喚】が変わっている点はもう一つあり、同じ呪文でも使う者によって現れる氷精の姿形が異なるという点にあった。

その【氷精召喚】をバイト・バン・バルトが使用した場合に現れるのは氷の狼である。

それは間違いない。

そして、今、我々の目の前にいる精霊の姿も狼の形をしている。

人の背丈以上もある大きさをしているが、あれは間違いなく狼に違いない。

そういう意味では、おそらくはこの精霊はバイトが【氷精召喚】を使ったことによって現れたのではないかと思われた。

が、決定的に違う点があった。

それは狼の姿をした精霊は氷の精霊ではないということに尽きる。

その姿は黒かった。

また、ただの黒い狼というわけではなく、その精霊が近くに来たことによってとてつもない熱量を感じる。

つまり、あの精霊は燃えている。

氷精であるとはとても思えない。

「まさか、【黒焔】化しているのか?」

「【黒焔】? それはウルク家の魔法ではありませんか、シュナイダー様? いや、そうか。風のうわさでは、バイトは魔法剣を用いて黒い炎を生み出した、などという話がありましたな」

「そうだ。竜姫オリビアとの決闘で使ったらしい。もっとも、情報が手に入りづらく、詳細はわからんがな」

シュナイダー様の一言で合点がいく。

確かに、コスタンブル要塞が落とされる前にそのような話が出ていたはずだ。

ラインザッツ領に侵入していたもう一つの勢力であるリゾルテ王国軍。

そのリゾルテ王国軍をラインザッツ領から追い出すために動いたバルカ軍は、なんと相手と神前決闘を行ったらしい。

リゾルテ王国軍の総指揮官である竜姫オリビアとバイト・バン・バルトによる決闘。

その結果はバイトによる勝利であり、リゾルテ王国軍は軍を引き返し、そしてオリビアの身は囚われのものとなったようだ。

だが、その決闘がどのような内容だったかははっきりと分かっていない。

こちらも兵を出して探りを入れていたが、直接その場で見ることができていなかった。

が、後から集めた情報によると、どうやら魔法剣から黒い炎を出して勝利をしたということらしい。

黒い炎といえば、もう何年も前に族滅したウルク家がそのような魔法を持っていたはずだ。

当主級魔法の【黒焔】。

対象を焼き尽くすまで消えない炎という、強力な魔法だ。

もしかして、目の前に現れた精霊はその【黒焔】が関係しているのだろうか?

狼の姿をしており、全身がゆらゆらと燃えているようで、しかし、その炎は黒い。

ということは、こいつは炎の精霊となるのか?

だが、炎の精霊をバルカ軍が使うなどという情報はこれまで一切無かったはずだ。

考えうる可能性としては、やはり神前決闘で使用されたという魔法剣が関係しているのではないだろうか。

たしか、バルカには氷を炎へと変換する氷炎剣なる魔法剣があったはずだ。

それを使ったのか?

はたしてそれは可能なのだろうか。

氷の精霊を炎の精霊へと変換する、などというとんでもないことができてしまうのだろうか。

しかも、その炎は通常の炎ではなく、相手を燃やし尽くすまで消えない黒い炎。

「ここはお任せください、シュナイダー様。もし、こいつが【黒焔】化した氷精であるとして、その危険度が全くわかりません。我らが相手をします」

「……よかろう。任せた。儂は貴様らがこやつの相手をしている間に前に進み、カイル・リードのもとへと向かおう」

「御意。ご武運を」

厄介だ。

実に厄介だ。

バルカ・リード軍は何が出てくるか、全く予想ができないことが本当にいやらしい。

使うことはなさそうだと思っていた魔導飛行船や岩の巨人を使うこともそうだ。

この黒い精霊もそう。

そして、カイル・リードの契約する高位精霊も以前までは存在そのものすら知られていなかった。

また、魔銃や全軍騎兵運用もそうだ。

とにかく、何をしてくるかさっぱりわからないというのが厄介すぎる。

だが、文句ばかりを言ってもいられない。

こちらはやるべきことをやるだけだ。

そう気持ちを切り替えた私は黒い狼の周りを取り囲むように部隊を動かす。

大勢で囲むようにしてから、私や他の当主級で対処に当たる。

その間にシュナイダー様には先へと進んでもらう。

こうして、私は全く未知の精霊である、仮称黒焔狼と戦うことになったのだった。