軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未知の精霊

「いくぞ。必ずやカイル・リードの首を取り、そしてその他のバルカ兄弟も仕留めるのだ」

ラインザッツ家が誇る英雄、シュナイダー・ド・ラインザッツ様。

そのシュナイダー様の言葉を受けて、ラインザッツ軍が動き出す。

リード軍のいるカイル・リードに向かって進み出す。

私の見立てではシュナイダー様の状態は万全だ。

本来は、消費魔力量の多い【浄化】という魔法を事前にとはいえ多数の兵に対して使用するというのは、当然危険でもあった。

いくら覇権貴族であるラインザッツ家の当主であるといえども、魔力量には限りがある。

消費の激しい魔法を多数の者にかけると、それだけ自身の魔力残量が減ってしまう。

つまり、カイル・リードの対策として【浄化】を用いるということは、それだけシュナイダー様の力を落としてしまう結果になりかねなかった。

だが、そうはなっていない。

心身ともに充実されたシュナイダー様の号令により、ラインザッツ軍の動きが引き締まった。

上空から巨大な岩の巨人が落とされ、そして今もラインザッツ軍の中で暴れまわっているという状況であるはずなのに、それでも落ち着いて対応している。

これはシュナイダー様でなければできない軍の運用だろう。

軍に所属するすべての兵がシュナイダー様であれば負けないし、間違わないと確信を持っているからこそ、命令を忠実に従うことができているのだ。

しかし、バルカもつくづく馬鹿なことをしていたものだ。

というのも、魔力消費の激しい魔法である【浄化】をそれほどに使用しても、シュナイダー様の魔力量に不安がないのはバルカのおかげだからだ。

いや、正確に言えばバルカの魔石のおかげ、と言えるだろうか。

以前から、ラインザッツ家はバルカ家から魔石を購入していた。

魔石とは本来、迷宮などで産出されるものだ。

前までは三貴族同盟として手を結んでいたパーシバル家の迷宮街などから取れる魔石を購入したりもしていた。

だが、その後、バルカから魔石を手に入れていた。

バルカには魔石を作り出す魔法があるらしい。

【魔石生成】なる呪文で、その呪文を唱えるだけで高品質な魔石が作り出せた。

そして、その呪文によって作り出した魔石をほぼ独占的にラインザッツ家が購入し続けていたのだ。

これは、まだフォンターナ家が小勢力だったころからの取引だった。

こちらとしても、魔石を手に入れられるというのはありがたかった。

そして、購入した魔石は必要な分を残して、ラインザッツ城などに備蓄していたのだ。

今回はその魔石を使った。

シュナイダー様が【浄化】を使い、魔力を消耗すると、魔石に入っている魔力で消費分を回復し続けていた。

それゆえに、シュナイダー様は【浄化】を使い続けていたにもかかわらず、魔力の残量はほとんど減っていない状態なのだという。

それを聞いて、私などはホッとしたものだ。

もしも、【浄化】によってシュナイダー様の魔力が減っただけであれば意見を申し上げる必要もあっただろう。

我らはいいからご自身のために魔力を活用してくれ、と。

だが、こうしてバルカの魔石によって、カイル・リードに対する備えは万全となった。

やつらには、このことだけは感謝しておいてやろう。

「……魔力反応に動きあり。カイル・リードからです。おそらくは精霊を使うのでしょう」

と、その時、リード軍の中にある巨大な魔力に反応があった。

恐ろしく大きな魔力の塊が一瞬膨れ上がったかと思うほどだった。

おそらくはこれは高位精霊に関係することなのだろう。

いける。

私の【探知】によってカイルの魔力が手にとるようにわかる。

やつは確かに魔力量が多い。

だが、高位精霊に力を行使させるには、それなりに対価が必要なのだろう。

決して少なくない量の魔力がたった今、カイルから失われた。

この様子であれば、やつが高位精霊を用いて攻撃できる回数は限られている。

【浄化】によって状態不能攻撃を回避さえできれば、距離を詰めることができれば勝てる。

そう思ったときに、リード軍から歌が聞こえてきた。

ラー、という単純だが、しかし、なぜか聞き惚れてしまいそうになる音。

もしかして、これが精霊の歌なのだろうか?

その考えはどうやら間違いではなかったようだ。

精霊の歌が聞こえてしばらくしたら、リード軍の足元から植物の蔦が伸び、こちらへと近づいてきたのだ。

あれこそ、間違いなく幻想華だろう。

あれさえ防ぐことができれば、カイルを討ち取ることなど造作もない。

「蔦に足を取られぬように気をつけつつ前進。前衛部隊はリード軍へと攻撃を開始しろ。当主級たる強者たちよ。儂とともにカイルのもとまで突き進むぞ」

リード軍とラインザッツ軍がぶつかる前に再びシュナイダー様から号令が発せられる。

それを聞いて、私も動いた。

【探知】の魔法はなにもバルカ兄弟だけの魔力を調べただけではない。

バルカ兄弟以外の者たちの魔力も把握していた。

リード軍にいる魔力反応の大きな相手の位置を確認し直す。

そうしてから、私はリード軍に対して一番に斬り込んでいこうとする。

【探知】によって知り得るカイル・リードの場所と、そこにたどり着くまでに一番最適な進行経路を頭に描く。

とくに、リード軍で指揮を執っている者の中でも比較的弱い相手が多い場所を通るように進むことでより早くカイルのもとまで辿り着こうという狙いだった。

「警戒!! なにか来る。動きの速いのがこちらに来るぞ!!」

しかし、その途中で我らの前に新たな障害が現れた。

いや、現れようとしていた。

それまでは、感じていなかった魔力反応が急接近してくる。

その動きを【探知】によって感じ取った私が周囲に警告した直後、そいつは我々の前に現れたのだった。

そこに現れたのは、これまで私が集めていた情報には無かった新たな精霊だった。

その未知なる精霊がリード軍に斬り込もうとしていた我らラインザッツ軍の前に突如現れたのだった。