軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

合意

ライン川を越えて進軍する。

こちらについたスルト家などはこのあたりの地理に詳しく、また地図もしっかりと用意してある。

そのため、どこでリゾルテ王国軍と戦うかを想定しながら軍を動かしていた。

そして、いよいよ相手の軍が見えてきた。

そんなときだった。

空に多数の飛竜の姿が見え、その飛竜たちの背中には鎧を着た騎士の姿があった。

リゾルテ王国が誇る最高戦力である竜騎士部隊だ。

前回戦ったときには300ほどの数だったが、今は更にそれよりも多いのではないだろうか。

やはり、まだ余力を残していたということなのだろう。

それに、飛竜に乗る者の強さも違う。

以前見たときにはいなかった当主級と思われる竜騎士の姿もあった。

しかし、その中で一番目を引いたのが先頭にいる竜騎士だった。

他の飛竜よりもひときわ体の大きな飛竜に乗っていて、その周りを守るように竜騎士たちがいる。

しかもだ。

その大きな飛竜の背に乗るのがきれいな女性ときていた。

まだ若く、おそらくは20歳前後ではないだろうか。

サラリときれいな金髪を頭の後ろでまとめているようで風に髪が揺れているのが様になっている。

そして、その身にはなんともド派手な金色の鎧を着ている。

しかも、その鎧は女性用として誂えているようだ。

体を覆う上半身はともかくとして、下半身はスカートと脛までを覆うブーツ型になっていた。

そのため、きれいな生足が絶対領域であらわになっている。

なにあれ?

見えそうでエロいんだけど……。

もしかして、あれが竜姫オリビアだろうか?

天空霊園にいる青の聖女ミリアリアも有名な女性だが、この竜姫オリビアもそれに匹敵するほどの知名度があるらしい。

最も竜に愛された女性だとかなんとか言われているそうで、竜騎士に必要な飛竜のすべてを従えているのだとか。

まあ、これはリゾルテ王国が流した話が広がったものだろう。

ただ、美しくきれいな女性が黄金の鎧を纏い、最強の竜騎士部隊を率いて戦場を駆け抜ける話は最近の吟遊詩人の歌でも人気があるそうだ。

そんなオリビアがこちらを見据えて発言する。

その声もまるでオペラの歌姫のように魔力を使っているのか、こちらにストンと入り込むような印象を与えるものだった。

だが、俺は彼女が言った内容を理解するまでに少し時間がかかってしまった。

神前決闘を申し込む。

しかも、俺に対して神の盾として決闘の見届けをしろと言うではないか。

完全に予想外だった。

俺の中ではもうここで口上を述べあってバルカ軍対リゾルテ王国軍の戦いがすぐに起こるものだとばかり思っていたのだ。

まさか決闘を申し込まれるとは考えもしていなかった。

すぐに気を取り直して、彼女の言った内容を精査する。

まずは神前決闘とやらがなんだったかを思い出す必要があった。

この世界には決闘で白黒つけるというやり方があるのは知っている。

かつて、俺がバルカ騎士領の当主として隣り合った騎士領であるガーネス家と揉めたことがあった。

カイルダムを作ったときに水利関係でお隣さんと揉めて、そのために話し合いとしてガーネス家から当主の息子のラフィンという若い騎士がやってきたのだ。

そして、そのラフィンがリリーナをよこせと言い、それが原因でバルカはガーネス家を相手に戦うことになった。

まあ、その戦いはこちらの騎兵による速攻ですぐに終わったが、後でカルロスから怒られもした。

そのときに言われたことがある。

そういうときには決闘でもして決着をつけろ、と。

なので、後日俺は決闘のやり方について調べたことがあった。

そして、決闘にも作法があり、また特殊な決闘として神前決闘なるものがあるというのも知ることになった。

神前決闘は通常の決闘とは違い、教会に見届人を出してもらって神に誓いを立てるなどのしきたりがある。

過去に行われた例は少ないが、時々、大きな問題を解決するための手法として用いられることがあるということだった。

しかし、別に断ってもいいんじゃないだろうか?

バルカ軍を率いている俺が見届人をするという時点でどう考えても公明正大なジャッジにはならんだろう。

茶番もいいところだ。

そう思い、断ろうとしたところでバイト兄が発言したわけだ。

俺が出るからお前は審判でもしていろ、と。

そして、竜姫オリビアに対してこの決闘でバイト兄が勝てばその身を貰い受けるという条件を飲め、と突きつけたわけだ。

「おい、ちょっと待てよ、バイト兄。なんでいきなりそんな話になる。というか、バイト兄はすでに結婚してんだろうが」

「あん? 何言ってんだよ、アルス。妻は一人しか持ってはいけないなんて決まりはねえんだ。別に問題ないだろ」

うーむ、価値観の違いと言うやつだろうか。

バイト兄はバルト家として旧ウルク領の一部を領地として治めることになった際に結婚をしていた。

狐谷の近くにあるアーム騎士領の当主であるジタンという老騎士に頼んで、土地を治めるために地元で顔の利く家の娘を妻にもらったのだ。

ウルク家やキシリア家とも婚姻関係のある家の女性を娶ったことで、農民から騎士に成り上がった俺から騎士叙任されただけのバイト兄が領地をうまくまとめることができたという経緯がある。

そして、その後子どももできて継承権を持つ男児もいる。

そんなバイト兄がほかに女を作ってもいいのか、というと別に問題無かったりする。

というのも、このあたりの風習では貴族や騎士は結婚した女性と必ず継承の儀を行い、継承権を持つ子を作るからだ。

ほかでいくら女遊びをしたとして、仮によその女性との間で子どもができたとしても、継承権を持たないのであればお家騒動にはならない。

ゆえに、割と気軽にほかで愛人を作る者もいるらしい。

また、愛人でなくとも妻を複数持つことも当然ある。

なにせ戦続きで誰がいついなくなるかも分からないのだ。

継承権を持つ子どもの数が少ないということは危険なことでもある。

そのため、長男が生まれたら、ほかにも妻を娶り、新たな子を望むということもよくある。

その点で言えば、別にバイト兄が竜姫オリビアを求めることは特に問題がないとも言える。

それに冷静に考えると、バイト兄の提案はなかなかどうして鋭い急所をついたものであるという気もしてきた。

というのも、相手はこの提案をおそらくは断れない。

なにせ、本来は最強の部隊と呼ばれる竜騎士部隊を持つリゾルテ王国軍がわざわざ神前決闘という軍を使わない戦いを求めてきたのだから。

それはつまり、相手にはなんらかの理由で決闘で決着をつけたいという理由がある。

こちらが要求を上乗せしたところで、そう簡単には断れないだろう。

また、要求したのがオリビアの身であるというのも結構いい線をいっているような気がする。

彼女の存在はリゾルテ王国にとって決して小さいものではない。

三貴族同盟相手に覇権貴族から引きずり降ろされた後、復活するためにリゾルテ王国が最大限に使ったのが彼女だったからだ。

史上最も飛竜に愛される女性であり、新たな竜騎士部隊の将として勝利の女神として扱う女性。

彼女を決闘によってこちらに引き込むことができれば、それだけリゾルテ王国にダメージを与えることができる。

となると、こちらはこの決闘を断る理由はあまりないということか。

バイト兄と少し話しながらも、俺も考えをまとめて決断した。

「竜姫オリビア殿、その申し出を受けましょう。神の盾アルス・バルカが神前決闘を見届け、公平に裁定を下すことを約束します。神前決闘にてバルカ側から出るのはここにいるバイト・バン・バルトです。リゾルテ王国側はあなたでよろしいですか?」

「……え、ええ。あ、あの……」

「わかりました。合意と見てよろしいですね。では、いざ、尋常に勝負といきましょう。両者、前に」

どうやら向こうも急に出された要求に戸惑っているようだ。

だが、曖昧ながらも返事をしたことを理由に合意したとして、さっさと決闘を開始することにした。

こうして、竜姫オリビアとバイト兄による婚姻を賭けた決闘が行わることになったのだった。