軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前覇権貴族の原動力

「バイト兄、バルカ軍は全員集まったか?」

「おう。7000騎動ける状態だぜ、アルス。いつでも行けるぞ」

「了解した。これより、バルカ軍はライン川を南下する。そこで渡河してきたリゾルテ王国の動きを牽制する。いいな?」

「おう。今度の相手はリゾルテか。腕が鳴るぜ」

「戦闘になるかはまだわからないよ、バイト兄。まあ、いつでも戦えるようにはしておかないといけないけどな。よし、それじゃ出発するぞ」

通信兵によってもたらされた情報。

それによると、こちらとは別に動いてラインザッツ領を攻めていたリゾルテ王国がコスタンブル要塞の南からライン川を渡ってラインザッツ領都を目指すというものだった。

これを阻止すべく、俺はコスタンブル要塞攻めをカイルに任せてバルカ軍を即座に動かした。

ヴァルキリーの足であれば先回りして相手の予想進路上で待つことも可能だ。

できれば、こちらの動きを見てリゾルテ王国軍が動きを止めてくれればいいのだが、どうなるだろうか。

「しっかし、リゾルテ王国も動きが速いな。次々とラインザッツ領を切り取って領都目指して進んでるんじゃないか?」

「バイト兄の言うとおりだな。こっちはなんだかんだで動きが止まることもあるけど、リゾルテ王国のほうが順調に領地の切り取りをしているみたいだ。ラインザッツ家が戦略的に防衛線を下げる方針をとっているとはいえ、これは驚くべきことだね」

「つっても、ラインザッツ側も別に無抵抗ってわけじゃないんだろ? 重要な地点はさすがに守ろうとして戦っているって話だけど」

「そうだ。歴史的にラインザッツ領とリゾルテ王国の狭間の領地はどちらの勢力にも転びやすい傾向にある。重要地点を獲られればそれは加速度的に速くなるのはラインザッツ家も分かっている。だから、相応の防御力は残しているはずなんだけど、それでもリゾルテ王国の攻撃力が高いんだろうな」

「全貴族中で最強の攻撃力を持つのがリゾルテ家だ、って聞いたことがあるな。ってことは、噂に聞いたあの最強部隊が復活しているのか?」

「監視につけている通信兵によれば、間違いなくいるらしいよ。かつて、リゾルテ家を覇権貴族に押し上げた竜騎士部隊がね」

ヴァルキリーに乗りながら移動中、そばにいるバイト兄と会話をやり取りする。

その内容は当然これから向き合うことになる予定のリゾルテ王国の軍についてだった。

ラインザッツ領の切り取りに際して、バルカ軍も結構頑張って動いている。

だが、それに負けず劣らず戦果を出し続けているリゾルテ王国の動きについて、俺たちはその速さを認めざるを得なかった。

もともと、このあたりの地域勢力に関わりのなかったバルカやリードが領地を得るにはやはり時間がかかる。

ハマン家などとも一度戦って、強引に周囲を取り込んではいるが、それでも毎回どこかで反抗勢力というのがいるのだ。

これはもうしょうがないとしか言いようがない。

たとえどれだけ力の差があると分かっていても、どうしても素直にこちらにつくことができない者も多いのだ。

そして、そんな不穏分子がいる状態では安心して前に進めないため、こちらもいちいち動きを止めて状況を整理して対応せざるを得なかった。

その分だけ、前に進む時間がかかってしまっていたのだ。

だが、リゾルテ王国のほうはこちらと違ってもう少しやりやすい面があったようだ。

もともとは現在のラインザッツ領に組み込まれている貴族や騎士でも、リゾルテ家になんらかのつながりがあるところも多い。

そんなところには事前に話を持っていき、リゾルテ王国側につくように説得ができた。

そこに住む貴族や騎士家の事情にもある程度情報があるようで、交渉もスムーズにいったのだろう。

故に、リゾルテ王国軍の進軍はバルカ軍のそれよりも早かった。

そして、こちらがライン川のほとりでリード軍が到着するのを待っている間に、南を切り取り終えていたのだ。

だが、単に交渉面での有利があっただけではない。

やはり、各地でラインザッツ家の抵抗はあり、それらをうまく切り崩していったのだ。

そして、それを可能にしたのがリゾルテ王国が持つ最強の竜騎士部隊だ。

竜騎士というのは文字通り、竜に乗っているらしい。

といっても、俺が遭遇したことのある竜とは少し種類の違う飛竜という魔物がいるのだそうだ。

「飛竜ってのは確か空を飛ぶ竜なんだよな? リゾルテ王国の南に住んでいるだっけ?」

「そうみたいだ。リゾルテ王国の南には大渓谷があり、そこに飛竜が住み着いている。その飛竜を軍に取り込んで、空からの攻撃を可能にしたのがもう何代も前のリゾルテ家当主だったらしい。それから一気にリゾルテ家は覇権貴族として成り上がって、栄華を極めたって話だな」

このあたりでは基本的に城塞都市が多い。

大きな街などは壁で囲まれていて、外からの攻撃に耐えられるように造られている。

だが、それを一方的に攻撃できる者がいた。

それがかつて覇権貴族として絶対的な力を示していたリゾルテ家だった。

リゾルテ家の持つ魔法は【調教】というものだ。

これは魔法そのものには攻撃力がない。

分類するならどちらかというと文化系魔法とでもいえるだろうか。

それ故に、昔はリゾルテ家はさほど勢力が大きくはない、むしろ弱小貴族だったそうだ。

なにせ、【調教】は動物などを飼育し、言うことを聞かせられるという便利なものだが、その代わりになる存在がいたのだ。

使役獣という生まれながらに人の言うことを聞く存在。

それがあったからこそ、相対的にリゾルテ家の魔法は低い評価しか得られなかった。

むしろ、いつ滅ぼされてもおかしくない弱い貴族だったようだ。

だが、それを変えた名君がリゾルテ家にはいた。

もう15代以上前のリゾルテ家当主が一番南の辺境であるリゾルテ領よりさらに南にある飛竜渓谷に目をつけたのだそうだ。

飛竜とは空を飛ぶ竜だ。

俺がかつてであった空竜ほどの大きさはない小型の竜だが、それでも人一人を乗せて空を飛ぶことができるのではないか。

そんなふうにかつてのリゾルテ家当主は考えたらしい。

これは常識的に考えると恐ろしく馬鹿げた発想だった。

そもそも、騎士といえども飛竜と戦えばそうそう勝つことはできない。

【調教】という魔法も一度使えば相手を絶対服従にするような強力なものではなく、ゆっくりと時間をかけて動物と信頼関係を育んでいくようなものであり、獰猛な飛竜には効果はないと見られていた。

事実、それまで一度も成功例など無かったらしい。

だが、そんな常識を覆した。

それは飛竜の卵を手に入れたことがきっかけだったようだ。

危険な渓谷に入り込み、飛竜の卵を確保する。

そして、生まれた直後から人の手によって世話をしつつ、【調教】をかけ続ける。

そうすることによって、人よりも強い存在である飛竜を手懐けることに成功したのだそうだ。

これが、リゾルテ家の躍進につながった。

使役獣の中には飛行型がいないわけではない。

だが、騎竜以上にレアであり、しかも人を乗せられるほどの大きな飛行型使役獣というのはほとんど生まれてこないようだ。

もし、そんな使役獣が奇跡的にいたとしても、それを継続的に得ることはできない。

なぜなら、その使役獣を生み出した魔力の持ち主が死んでしまえば、同じ使役獣は二度と手に入らなくなるからだ。

が、飛竜の【調教】はそうではなかった。

危険が大きいが飛竜渓谷にて卵を得ることができさえすれば、数を増やせる。

さらに言えば、うまく飼育できればリゾルテ家保有の飛竜同士で卵を産ませることも可能になった。

そのため、名君と呼ばれたリゾルテ家当主の亡き後も着々と飛竜の数を増やし続けることができたのだ。

これによってリゾルテ家は他の貴族にはない飛行部隊を手に入れるに至った。

これがどれほど有益だったかは、その後、リゾルテ家が覇権貴族になったことからもわかるだろう。

防壁を越えて乗り込んでくる相手に多くの貴族が敗北していったのだ。

そんな最強の竜騎士部隊を所有するリゾルテ家が覇権貴族から転落するという大事件があった。

それが、三貴族同盟によるリゾルテ家打倒によるものである。

その原動力となったのは、三貴族同盟のなかでは一番勢力の少ないパーシバル家だった。

パーシバル家と言えば俺の中では迷宮街を持っていたことが印象的だが、リゾルテ家打倒につながったのは迷宮の存在ではなくパーシバル家の魔法にあった。

【猛毒魔弾】という魔力に猛毒の特性を付与して攻撃する魔法。

これが最強の竜騎士部隊に対して非常に効果があったらしい。

空を飛び、竜としての強さも併せ持つ飛竜という存在。

だが、【猛毒魔弾】による毒の攻撃に対して飛竜は抵抗力を持ち合わせていなかったらしい。

わずかにでも触れれば猛毒に侵されて命を落とすことになる魔法攻撃。

そうして、パーシバル家の奮闘により最強の部隊と言われた竜騎士部隊は、飛竜の数そのものが大きく減らされてしまったらしい。

数が減れば、いくら空を飛べると言っても脅威度は大きく減る。

相対すれば最高の対人性能を誇るラインザッツ家の【超加速】や【刹那】という魔法に、大規模攻撃すら可能なメメント家の【竜巻】という魔法。

それらが結集されて、リゾルテ家は覇権貴族という地位から追い落とされてしまったのだ。

「ってことは、一度は数の減った飛竜をまた増やしたってことなのか?」

「おそらくはそうなんだろうね。覇権貴族から転落したリゾルテ家はその後、フォンターナ家と同盟を結んでなんとか領地を奪われたりするのを最小限に抑えた。で、その後、何年もかけてもう一度竜騎士部隊を作れるまで数を増やすことに成功したんだろう。今の快進撃はその結果なんだろうな」

「ってことは、俺たちもその飛竜を相手にする可能性があるってことか。地上じゃヴァルキリーに分があるだろうけど、空の上だとちょっと相性が悪いかもしれねえな」

「そうだな。まあ、もしリゾルテ王国軍と戦うことになったら、飛竜の相手は俺がするよ、バイト兄。ちょっと試してみたいこともあるしな」

リゾルテ王国の飛竜の数は間違いなく増えていることだろう。

ここまでバルカ軍の動きに負けないほどの速さで領地を切り取っていることがそれを物語っている。

だが、かつての数にはまだ戻っていないのではないだろうか。

飛竜の生態をよく知りはしないが、そう簡単にポンポン卵を産むようならばもっと簡単に勢力拡大していたはずだ。

多分、実戦に使える数は揃ったが、かつて覇権貴族としてブイブイ言わせていた頃と比べるとまだまだ数は少ないはずだ。

だが、それも時間が経てばどんどん数を増していくことだろう。

ここらでもう一度飛竜の数を減らしておくのもいいかもしれない。

そんなことも考えつつ、バルカ軍はリゾルテ王国軍が通るのであろう進行ルート上に先回りすることに成功し、そこで待つことにしたのだった。