軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コスタンブル要塞攻略戦と裏の動き

「タナトス、お前はアトモスの戦士を引き連れて左から攻めろ。適当に暴れて相手の目を引くくらいで十分だ」

「わかった。行ってくるぞ、アルス」

「おう、頼んだ。ハマン家は本陣から右に回ってリード軍を支援。向こうは弓での攻撃を受けている。【風壁】でそれを防いで援護してやってくれ」

「承知しました。行ってまいります」

カイルによってライン川に橋が架かった。

その植物の橋の上を駆け抜けて、こちらの軍勢がコスタンブル要塞に取り付いて攻撃を開始する。

それまでは対岸で見ている時間が長かったのもあって、全員士気が高まっている。

これはカイルの存在も大きいのだろう。

やはり、一人でも強いやつがいるというのはいい。

兵全体の士気がぐんと上る感じがした。

これもカイルの狙いの一つだったのかもしれない。

カイルが王都連合軍との戦いでとった戦法。

それは自分ひとりの力だけで、120000もの相手を封殺するという方法だった。

だが、俺の予想としてはカイルならば普通に軍の運用でぶつかり合っても、なんだかんだで勝っていたのではないかと思うのだ。

特に、相手が全軍突撃などという方法を選択していたからこそそう思う。

【並列処理】と【念話】をリード軍全員が使える状況でカイルが指揮を執れば、おそらくは手玉に取ってやることもできただろう。

しかし、カイルはその方法を選ばなかった。

これにはいくつか理由があったのだと思う。

一つは自分の力で勝てるという勝算があったこと。

自身の契約した精霊を使えば勝利を掴むことができる。

その上で、相手を確実に捕虜にできるので、今後の交渉にも有利に立てるという思いもあった。

が、それ以上にパフォーマンスをする必要があると判断していたのかもしれない。

というのも、本来のカイルの持ち味である細やかな軍の運用による勝利というのは、どちらかというと玄人好みなのだ。

全部隊を自身の手足のように動かして、相手の動きをいち早く牽制しながら、少しずつリードを奪って勝利に近づいていく。

これはかなりの高等技術でありながらも、目立ちにくく、一見すると地味に見える。

そんな戦い方を王都連合軍との戦いで披露して勝利した場合、はたしてどれほどの人間が「カイル・リードは強いんだ」と理解してくれるだろうか。

分かる人にはわかる、とはいえ、実際には大部分の人が理解すらできないだろう。

へー、なんかしらないけどリード軍が勝ったんだね。

王都連合軍ってのも案外情けないな。

きっと、数が多い王都連合軍が油断でもしてたんだろう。

などと、相手が失敗したからリード軍が運良く勝てた、なんていう考えになるやつが出てこないとも限らない。

だからこそ、カイルは有無を言わさぬ勝利を求めた。

王都連合軍が悪かったのではなく、リード軍が、いや、カイル・リードこそが強かったからこそ勝利したのだと強くアピールする必要があったのだ。

そして、そのアピール先はなにもラジオを聞いている者だけではない。

自分の率いているリード軍の兵に対してもそうだった。

玄人好みの強さをうまく理解できないのはなにも外野だけではない。

自軍の兵であっても同様だったのだ。

なので、自らの指揮するリード軍の兵に対しても、自分たちのトップはこれほど強いのだと見せつける意味もあり、あのようにたった一人で勝利を掴むという行動に出たのだろう。

そして、その効果は今も出ている。

この戦場において、カイルがいることはこちらの勝利と同義語であるとすら思っている兵が少なくない。

そのために、軍の士気はいまだかつて無いほどに高かった。

こういうこともカイルは見越していたのだろう。

まあ、しかしそうは言っても今後は力を見せすぎるのもよくないのかもしれないが。

カイルの力が強いのはもはや十分に証明できた。

だが、それを毎回するのはあまり得策だとは言えないからだ。

もしも、毎回カイルが精霊の力を使って勝利を得ればどうなるか。

俺が一兵卒であれば、「もう全部お前がやればいいんじゃないか?」と思ってしまうだろう。

つまり、カイルの力に頼り切ってしまうことになるのだ。

そうなると、今度はカイルが力を使わなかった場合に問題になる。

なんで今回はカイルが力を使わずに戦って損害を出したんだ。

こちらに被害が出たのはカイルが全力で戦わなかったからじゃないか。

そんな考えに陥ってしまう可能性がないとは言えないのだ。

もちろん、その考えはおかしい。

が、人はその状況が当たり前になってしまうと、それに慣れきってしまうものなのだ。

故に、そうならないように注意しなければならない。

なので、このコスタンブル要塞攻略戦前にその話は俺からカイルに少ししていた。

カイルもその危険性については理解してくれたようだ。

そのため、この攻略戦では橋を架けてライン川に足場を作ることをしたものの、攻撃そのものは配下になった貴族軍などを使って攻めるようにしている。

有能すぎてもなかなかどうして難しいものだ。

結局のところ、いざというときの切り札としてカイルの力は残しておいて、人を使って仕事をするのが一番いいのかもしれない。

「報告いたします、アルス・バルカ様」

「どうした? コスタンブル要塞になにか動きがあったのか?」

「いえ、違います。コスタンブル要塞ではなく南で動きがあるようです。リゾルテ王国の軍勢が動きを見せています」

「……こっちの動きを見ての行動かな? このコスタンブル要塞の攻略戦がうまくいく可能性を察知して、動きどころだと判断したのか」

「おそらくはその通りかと。リゾルテ王国軍は我々がコスタンブル要塞を押さえている間に裏をかいてラインザッツの領都を攻略しようと考えているようです。別の場所からライン川を越えて先に進もうとしている模様です」

「わかった。報告ご苦労さま」

どうやらリゾルテ王国はこちらの動きを利用して最大限の利益をあげようとしているらしい。

本来であればラインザッツ家にとっての最終防衛ラインであるライン川はそう気楽に越えられるものではない。

大河と呼ばれるほどの大きな川で、それを越えて先に進んだ場合、コスタンブル要塞と領都から挟み撃ちにされてしまう可能性がある。

だからこそ、俺たちはこうしてコスタンブル要塞を攻略しているのだ。

だが、そのタイミングをついて行動したようだ。

今なら、別の場所からライン川を越えて領都に向かっても、コスタンブル要塞からの背後をつくような援軍が出てくることはない。

そう判断してラインザッツ領の領都を目指したのだろう。

しかし、それは許されない。

こちらが出し抜かれては面白くない。

ここまで来て、美味しいところは全部リゾルテ王国に持っていかれましたでは笑い話にもならないだろう。

「通信兵、カイルに【念話】しろ。これより軍の指揮はカイルに預ける。バルカ軍は察知したリゾルテ王国の軍を牽制するために南に向かう」

「了解です。……カイル様より返答。承知した、武運を祈る、とのことです」

「よし、あとはバイト兄を呼び戻せ。バルカの騎兵で一気に南下するぞ」

コスタンブル要塞の攻略は今のところ順調にいっている。

だが、一個の領地と同等規模の大きさであるとも言われているこの要塞はまだ攻略までに時間がかかりそうだった。

こちらを落としてからだと、もしかするとリゾルテ王国に速度負けするかもしれない。

なので、俺はバルカ軍を引き連れてリゾルテ王国の軍へと当てることにした。

相手に止まれと言ったら、止まってくれるだろうか?

無理かな?

戦闘になる可能性は十分ありそうだ。

こうして、かつての覇権貴族であり、現在は独自の王を名乗って王国として力を奮っており、フォンターナ王国と同盟もしているリゾルテ王国の軍とバルカ軍がにらみ合うことになったのだった。