軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知名度向上作戦

「……改めて、すごい奴らだな。大将もすごいが、その弟であるカイルも相当ぶっ飛んでるな。まさかここまでとは思わなかった」

「本当に驚きですね、バルガス様。カイル君はうちの旦那とも仲良くしてくれていたので、よく一緒に食事をしたりするんですよ。いつもニコニコして、優しくて……。こんなにすごかったんですね」

「そうだな。俺もカイルがまだちっさいときから知っているから余計にそう思うよ。今までは大将の影に隠れて目立たなかったが、これで一躍有名になるかもしれないな。というよりも、それが狙いだったんだろうな」

「あ、この放送でカイル君の名前が有名になるってことですか。そうですね。きっとそうなりますよ」

あっさりと終わってしまったリード軍対王都連合軍の戦い。

王都の南で行われるはずだったその大きな戦は、誰一人剣を交えること無く終えてしまった。

そこに残ったのはきれいな花畑と、その花畑によって睡眠や麻痺、あるいは毒状態に陥って行動不能になり倒れている者の姿だけだ。

だが、ここで放送を打ち切ってしまうのはちょっとまずかろう。

バルカ軍対ラインザッツ軍の戦いはなんだかんだで結構時間がかかっていた。

と言うか、普通の戦ならどうやっても時間はかかるものだろう。

特に大軍が動いているのだから、もっと時間がかかるものだとばかり思っていた。

そう思っていたのは何も俺だけではないはずだ。

おそらくは、このラジオ放送を聞いている者たちも、あるいは聞こうと思っていた者もそうだと思う。

特に、この戦の実況解説というのはいつ始まるかこちらにはわからない。

あくまでも、あと何日後のどのくらいの時間帯に両軍に動きが見られそうだ、と事前告知を流すくらいしかできないのだ。

ちょうど聞けていた者はそれでもいいが、今から聞き始めた者やこれから聞こうと考えていた者はもう終わりましたと言われても困るだろう。

なので、もう少しだけ放送を続ける必要があると判断された。

ラジオ放送局の職員に「話を引き伸ばして」と書いた紙を見せられたことで、俺たちは今一度この戦いのことを振り返ることにしたのだった。

「実際問題、これまでのカイルの知名度ってのはどのくらいあったと思う、キリ嬢ちゃん?」

「カイル君の知名度ですか? フォンターナ王国内に限れば、それなりに知られているはずですよね。各地にリード姓の人を配置して統治を行っているはずですから。でも、王都圏なんかや他の地域では、多分全然知られていなかったと思います」

「やっぱそうなのか」

「それは仕方ないですよ。リード家そのものがカイル君によって作られた新しい家の名前ですし。それに、ついこの前に領地を獲得するまではカイル君の扱いって貴族どころか騎士でもなかったじゃないですか。知名度なんてあるはずありませんよ」

「そう考えると、よく今のリード領を治められているよな。そこに住む住人にとっても、カイル・リードって誰だよ、って状態で領地運営が始まったわけだろ? きっと、俺が思っている以上に苦労が多かったんだろうな」

このことは俺も身にしみてわかる。

俺も今はアーバレスト地区をすべて任される身になっている。

が、もともとはこの地はアーバレスト家が治めていた土地だった。

当然、アーバレスト家に深い関係のある者が地域に根づいていた。

そんなところに、ただの農民出身の俺が統治者として上に立つことになったんだ。

かなり反発があった。

だが、それでも俺はまだマシだったのだろうと思う。

なんせ、そのときにはフォンターナ家の当主代行という地位についていた大将が俺の後ろにいたからだ。

俺に逆らうことは大将も敵に回し、それはフォンターナ家全体を敵に回すことにもつながる。

そんな力関係をチラつかせながら、なんとかうまいことやってきたんだ。

しかし、聖都近辺ではその手法もほとんど取れなかったに違いない。

リード家など知らん、といって言うことを聞かなかった者も多かっただろう。

それを抑えて領地の運営を行えたのは、やはりカイルだったからだと思う。

特に、【審判】なんていう魔法を作ったことが大きかっただろう。

あれは俺には使えないが話には聞いている。

頭の中に強制的に裁判の判決を迫る声が届くらしい。

領地に住むほとんどの者が毎日、日によっては何回も、何十回もカイルの声を聞いて裁きをくだされていくのを知ることとなった。

それがあったからこそ、自分たちの統治者が誰だというのを刻み込まれたことだろう。

とはいえ、それも完璧とは言い難い。

【審判】によって、リード領の中でカイルの名は認識されるようになった。

が、リード領をつつがなく運営していくには領地内だけに気を配っていればいいというものではない。

むしろ、領地の外こそが重要だろう。

王都圏を始めとして、ラインザッツ領の者や王都から北の貴族や騎士に対して、カイルの知名度はまだまだ少なかった。

【審判】の声も聞こえていないだろうし、あくまでも急に聖都跡地を手中に収めた勢力の棟梁だという認識くらいだろう。

そして、その実力も不明だ。

カイルはフォンターナ軍で将軍職について軍を動かしてはいた。

だが、それはあくまでも軍の一つに過ぎなかった。

つまり、全軍を動かす総大将になったことがなかったので、あくまでも武将の一人としてしか認識されていなかったのだ。

それも、知略や軍の巧みな動かし方に秀でている将軍だという認識がかろうじてあったというくらいなのではないだろうか。

そんな状態では、王都圏や各貴族と対等以上の関係で外交をしていくことも難しかったことだろう。

だからこそ、大将はこのラジオで放送させた。

カイル・リードの名を知らしめるために。

カイルがただの便利な文化系魔法を持っているだけの人間ではないと示す。

また、軍の差配がうまいだけの男でもないということをすべての貴族や騎士に認識させる。

そんな狙いがあったからこそ、大将はカイルの手助けに出向かなかったのかもしれない。

たった一人で120000を超える相手と戦っても勝てると証明するために。

そして、それは現実にうまくいくことになった。

カイルはその知られざる実力をいかんなく発揮して勝利を得た。

そして、そのことについて俺を始め、このラジオ局では連日のようにカイルの偉業を称えることにした。

こうして、リード軍対王都連合軍の戦いが終わった後もずっとカイルの活躍についてを放送が続いたことで、カイルの名は知らぬ者がいないのではないかと言うほどに知れ渡ることになったのだった。