軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下ごしらえ

「何用ですか? もしや、やはり敗者にたいして鞭を打とうとでも思われたのですか?」

「いや、そうではないよ、サラディアの騎士コフィン殿。貴殿と取引を行おうと思ってね」

「取引ですか? いいでしょう。あそこまで完敗した我らに、こうして青の聖女様に治療を受ける機会を用意してくれたのですから、話は聞きましょう」

「では、単刀直入に。現在、ラインザッツ領に対してリゾルテ王国が侵攻を開始した。我々バルカ軍はそれを察知し、動かざるを得ない状況だ。リゾルテ王国よりも早くラインザッツ領に切り込んでいく必要がある。こう言えば、こちらの言いたいことが分かるかな?」

「……なるほど。つまり、我らの主家であるサラディア家に対しての取引ということですか。ラインザッツ家を離れてフォンターナ側につけ。そういうことですね?」

「そのとおりだ、コフィン殿。貴殿には主家であるサラディア家を説得してきてほしい。これからラインザッツ領に入るバルカ軍に対して門戸を開き、頭を垂れるならばこちらから攻撃はしない。だが、不穏な動きがあれば躊躇せず攻撃を開始する。このことをサラディア家に伝える役目を買って出てはくれないだろうか?」

「……承知しました。だが、その条件だけでは主家も頷けないかもしれません。できれば、領地の安堵をお願いしたいのですが」

「サラディア家がフォンターナの軍門に下るのであれば、その主はリード家当主のカイル・リードになる。カイルに対して領地を安堵するように伝えておくことを約束しよう」

「ありがとうございます。では、サラディアの騎士としてその役目、見事に果たしてみせましょう」

「よろしく頼む」

ラインザッツ領にリゾルテ王国が侵攻を始めた。

それを見て、バルカも動く。

が、その前に準備もする必要があった。

それは、調略だ。

今、バルカ軍で動かせる数は限られている。

騎兵7000でラインザッツ領に切り込んで、戦果を挙げることは十分にできるだろう。

だが、攻略した街を管理するほどの人数が絶対的に不足していた。

攻め落としていったはいいが、その街などが再びバルカに敵対するかもしれない。

もしそんなことになれば、バルカ軍の危険が増大する。

そのために、攻略するよりも調略する。

バルカ軍対ラインザッツ軍の戦いで生き残り、捕虜となった者を使うことにしたのだ。

捕虜の中で騎士以上の身分の者に取引を持ちかける。

そいつに家に帰って降伏をうながし、フォンターナにつくことを説得するように頼み込む。

基本的にはこの取引をほとんどの者が承諾した。

まあ、それもそうだろう。

決して損な取引ではないからだ。

むしろ、今リゾルテ王国が動いているという情報を本家に持ち帰るだけでも喜ばれるかもしれない。

それになにより、ラジオ放送の効果がここで発揮される可能性が高いことを騎士らもわかっているのだろう。

自分たちがいかにして負けたかを、その場にいないリシャールの街の連中ですら詳細に知っていたのだ。

もしかすると、戦っていた当事者である自分たちよりも遥かに詳しく戦況を理解しているかもしれない者が多数いる。

それがリシャールの街だけに限らず、自分たちの地元でも同様だろうことは明白だ。

バルカは強い。

ラインザッツ家やリゾルテ王国も十分に存在感のある勢力ではあるが、高い武力を持ったバルカがこうして面と向かって取引に応じなければ攻撃すると言ってきている。

とりあえずは頷いておこうというのは普通の感覚だろう。

万が一、バルカやフォンターナ側が負けて撤退することがあれば、そのときはその時だ。

あのときは仕方がなかった、相手を騙すための演技だったと主張すれば自分の家が生き残れる可能性もあるだろう。

それに、領地が安堵されるのであれば話は受け入れやすい。

結局、なんだかんだと言って、貴族や騎士にとって一番重要なのは家の存続と領地の維持なのだから。

たとえ、自分たちの主人が代わったとしても自家の存続が約束されるのであればそちらを優先する。

そういう強かさがあったからこそ、そもそも独立した貴族家であったサラディア家も今はラインザッツ家に従っていて、その下のサラディアの騎士であるコフィンらもこうして戦場まで出てきているのだ。

つまり、この取引は利害関係が一致している。

なので、コフィンらを始めとした多くの騎士は主家や自家に対してバルカ軍の進む道を封じずに協力するという取引を認めさせるために動くことを約束したのだった。

「具体的にはどうするのがいいのでしょうか?」

「まずはコフィン殿の従士などに書状を持たせて先行させようか。そのうえで、コフィン殿はバルカ軍と一緒に行動する。そして、サラディア領に入る頃にコフィン殿自らが説得を行うために領都に向かう、というのはいかがか?」

「わかりました。それでいいかと思います。使役獣はお借りできるのですか?」

「もちろん。ラインザッツ軍の騎兵が使用していた使役獣も回収している。それの使用を許可する。ただ、注意してほしいのが説得が遅れれば、バルカ軍は攻撃する可能性もある。なにせ、こちらは急いでいるからね」

「わかっています。すぐに動きます」

こうして、ラインザッツ領に多数の説得要員が送り込まれることとなった。

そして、その動きに合わせて、バルカもラインザッツ領に入り、領地を切り取りながらラインザッツの領都に向かうことにしたのだった。