軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出陣

「よっしゃ、アルス、出陣するぞ!」

「は? どこに行く気だ、バイト兄。フォンターナ家はまだこっちに向かってきてないんじゃないか?」

「馬鹿かおまえは。わざわざ相手が来るのを待つやつがあるかよ。先手必勝だ、こっちから行かなくてどうする」

俺が魔力回復薬を片手にひたすら招集に応じた村人たちにバルカ姓を与え終わったときだった。

それを隣で見届けたバイト兄が勢いよく立ち上がってそういい出した。

急に何を言い出すのか。

まさかもう戦闘モードに入っているのだろうか。

だが、改めて考えてみると人数をとにかく集めるということに意識を囚われすぎていた。

今後の動きをどうするのかということを全く考えていなかったのだ。

せいぜい行商人のおっさんが情報を集めてきてくれるのを待つくらいしか考えになかったと言っていい。

それによく考えるとバイト兄が言うことも一理あるかもしれない。

このバルカ村には俺が建てた外壁に囲まれた土地が存在している。

だが、この土地はさすがに広すぎるだろう。

100人もいない人数でこの一辺4km程もある土地を守るのは不可能に違いない。

それに壁は分厚さこそあるものの、城壁のようにはできていない。

あくまでも大猪の突進を受けても大丈夫なように建てただけで、襲ってくる人間を迎撃するための造りにはなっていないのだ。

しかし、だからといってバイト兄の言うように今から出陣するというのも考えものだろう。

あえて相手の本拠地に押し寄せるというのは危険すぎる。

曲がりなりにも向こうも戦力を持つ集団なのだ。

もともと近年は農民を徴兵して戦をしていただけに、戦力差もあるだろう。

少し策をめぐらしたほうがいいかもしれない。

「よし、出陣しよう。ただし、行き先は街じゃない。隣村に行くぞ」

しばらく考えたあと、俺は他の村へと行くことにしたのだった。

※ ※ ※

北の森近くにあるバルカ村から3日ほどの距離にある南のフォンターナの街。

当然だが、俺の村と街までの間はなにもないというわけではない。

いくつかの村が存在しているのだ。

俺はバルカ村から一番近い村へと向かうことにした。

と言っても村を襲撃して略奪するというような目的ではない。

俺たちバルカの人間が今回決起した理由を告げに行くことにあった。

あくまでも非道はフォンターナ家にあり、俺達はそれに耐えかねて反抗するために立つ。

村人に招集をかけるときに使った話を他の村へと広げようというわけだ。

一種のプロパガンダと言ってもいいだろう。

正義は我らにあり、というわけだ。

もちろん、そんな話を聞かされても他の村にとっては知ったことではないだろうし、迷惑なだけかもしれない。

だが、話を聞いてくれる連中は一定数いると睨んでいる。

日々食うにも困り、毎年冬になると凍死、餓死で死ぬ人間が結構いるのだ。

明日をもしれぬ生活を送っている人たち。

そいつらに「お前らが大変な生活をしているのはすべて貴族のせいだ」と洗脳するかの如き説得を行い、さらに魔法を披露する。

今なら食料の提供とともに、この魔法をあなたも使えるようになりますよ、とアピールするのだ。

多分、多少の人数が集まると思う。

バルカ村からやって来た集団が全員見たこともない魔法を使い、さらに目の前で1人か2人に魔法習得の現場を見せつけてやろう。

そうすれば、自分も魔法が使えるようになるというのを疑うものもいなくなるだろう。

そこまで成功したら、あとはその後の流れ次第だ。

街に向かうもよし。

どこかで野戦をするのもよし。

バルカ村に戻って籠城するのもありだろう。

というか、相手の出方次第ということになる。

こちらが主導権を握りたいが、向こうがとんでもない数の戦力を投入してくるようなら突っ込むような真似はできないからだ。

結局のところ、臨機応変に、その時考えるしかないだろう。

こうして、俺たちバルカ村から80人近い人間が隣村へと押し寄せていったのだった。

※ ※ ※

「うーむ、予想外だ。聞く耳も持たないって感じだな」

「当たり前だろ。どこの村もこんな人数が武器を持って近づいて来たら、話し合おうなんて気にはならんだろ」

「いい考えだと思ったんだけどな。父さん、どうすればいいと思う?」

「父さんがわかるわけ無いだろ」

バルカ村から斜め下の方へと移動するようにしてやって来た隣村。

さあ、話し合いをいたしましょう、と思っていたのはどうやら俺だけのようだった。

集団で近づいてくる俺達の存在を察知した隣村の連中は即座に武器を持って集まったのだ。

なんというか、戦い慣れてやがる。

うちの村でもそうだったが、どの家もいざというときに武器として使う得物を用意してあり、何かあったときにはすぐにそれを持って集まってくるのだ。

その動きは前世での防災訓練でちんたらと動いているようなやる気の無さとは違い、自分たちの命がその速度にかかっていると言わんばかりの速さだった。

もしかして、俺の村では経験なかったが、急に何らかの集団に襲われるような経験があるのかもしれない。

それに対して、こちらの人間もかなり気が立っている。

これも考えてみれば当然のことだった。

俺はあくまでも隣村へと話し合いに来ただけのつもりだった。

だが、それを集団全体に通達していたわけではなかったのだ。

あくまでも周りの人間に目的地を伝えてから隣村に向かったに過ぎない。

もしかすると、こっちの人間のなかには隣村に襲撃をかけに来たと思っている連中もいるかも知れない。

武器を手にした集団を引率するなどという経験は前世でもなかった。

俺はみんながどう考えるかを深く考えずに動きすぎたのかもしれない。

お互いに殺気立ちながら集団同士でお見合いし合うという状況で思わず天を仰いでしまうのだった。