軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

数日の猶予

「ラジアル平原の合戦が終了いたしました。バルカ軍10000対ラインザッツ軍100000で始まった今回の戦闘ですが、バルカ軍の死者394名に対してラインザッツ軍は死者60000以上を確認。負傷者は更に多数で今後死者数の更新があるかと思われます」

「ものすごい大差だな。相変わらず大将の戦いはエグい結果になりやすいぜ」

「……普通はここまで差がつかないですよね、バルガス様? というか、ラインザッツ軍の被害規模がとんでもないことになってますよ」

「そうだな。おそらく、最後の押し込みが効いたはずだ。ラインザッツ軍の戦死者のほとんどは味方に踏みつけられて命を落とした者が多いと思う。逃げるときの混乱で味方を押し倒してでも逃げようとするとそうなりやすいからな」

「なるほどー。まあ、言われてみればたしかにそうかもしれません。いきなり現れたヴァルキリーちゃんに乗ったバルカ軍に追いかけられて逃げているときのラインザッツ軍の混乱はすごかったですから」

「しかし、大将はこれからどうする気なんだろうな?」

「どういうことですか? ラインザッツ軍に勝ったばかりですけど、なにかする必要があるのですか?」

「おいおい、この戦いの意味を忘れたのか、キリ嬢ちゃん? この戦いはあくまでもフォンターナ王国に対してドーレン王家が宣戦布告をしてきたことに端を発する。つまり、本命は王都にいる王都連合軍とリード軍の戦いの結果による。このバルカ対ラインザッツはあくまでも前哨戦にすぎないんだ」

「そう言えばそうでした。あまりの光景にもうこれ以上戦う必要ないんじゃないかと思ってましたけど、まだなにも終わっていないんですよね。でも、それならアルスくんはこれから王都方面に戻るのかな?」

「いや、それはできないかもしれない。国際法なんてものがあるからな」

ラジアル平原での戦いが終わった。

こうして外から大将の勝ちっぷりを見せられると背筋に冷や汗が流れる。

いつもながら、味方は最小限の被害に抑えながら相手に大損害を与えるものだ。

特に今回の戦いではラインザッツ軍の死傷者数は半数を軽く超えている。

が、問題はそこではない。

いちばん重要なのは当主級の被害の多さだろう。

基本的に相手の軍に当主級がいる場合は自軍にも当主級がいなければ相手とまともに戦うことができないと言われている。

そして、例外も多いだろうが、貴族が当主級率いる軍を動かすときには当主級一人あたり5000〜10000ほどの規模の人数の指揮をとることが多い。

このラインザッツ軍は今回張り切って20人ほどの当主級がいたようだ。

だが、そのことごとくが戦場に散った。

アイはあえて解説していなかったが、おそらくは光の剣による攻撃によってだろう。

これはいくら覇権貴族であると言えどもラインザッツ家にとっても大打撃になるのではないだろうか。

戦場に出てくる当主級ともなれば、当然継承権のある子が家にいるだろう。

だが、強敵であると認識していたバルカを相手に戦場に出向く当主級は実戦経験も豊富だったはずだ。

それらが一気に大量にいなくなった。

その当主級に仕えていた騎士も一緒にだ。

そうなればたとえ継承権を引き継いだとしてもその家はかなり弱体化することになるだろう。

いくら魔力が多くてもまともに軍を率いたこともないような者では集団としての脅威度は減るからだ。

そして、そんな弱体化したラインザッツ家を前にしてバルカがどう動くかは選択肢がいくつかある状態だ。

このままラインザッツ領に侵入して領地を切り取るか。

あるいは、カイルの心配をして王都方面へとバルカ軍を率いて移動するか。

なにをするのも一考の価値ありというところだろう。

だが、国際法とかいう最近になってできたものが足を引っ張らないかという気もする。

あれは確か、捕虜の扱いなんかの規定もあったのではなかったか?

戦場で相手の兵を捕虜にした場合は、その捕虜に対して一定の配慮がいるとかなんとか。

あんまりひどい扱いをしてやるなよ、という内容だったはずだ。

あの規定をラインザッツ家相手に適用させるべきなのかどうかはよくわからない。

俺からするとそんなもんをなんで守らないといけないんだという気もする。

今までそこまで相手の兵に対して気を配って戦ったことなどないからだ。

だが、大将は気にするのかもしれない。

それは優しさなどではなく、単純に国際法の制定に関わった張本人であるということが関係している。

国際法を作るために動いた人間がそれを破るなら、誰もそれを守らないだろう。

だからこそ、大将はラインザッツ家相手でも国際法に則って対処しそうな気がするのだ。

しかし、そうなるとバルカ軍の動きは遅くなるかもしれない。

今回の戦いではラインザッツ軍にはたくさんの負傷兵がいるからだ。

魔銃による攻撃は命を奪いきらずに相手に損傷を与える。

それによって、動きづらいが命には別状はないという者も多いだろう。

そいつらを放置して軍を動かすかどうか。

「それは問題ないかと思われます。すでに捕虜の搬送は開始されています」

「なに? 捕虜の搬送ってどういうことだ、アイ?」

「ラジアル平原から転送魔法陣を用いてリシャールの街にラインザッツ軍の捕虜を移送中のようです。多少の時間はかかるかと思われますが、数日で負傷者を含めた捕虜をすべて移すことができると思われます」

相変わらず結構な二枚舌だな、大将は。

自分がいないとできない作戦はしない、とかなんとか言っていたが蓋を開けてみればかなりの割合で大将がいないと実現すらできない戦いだったんじゃないだろうか。

特に一瞬で場所を移動できる転送魔法陣なんてものを作れる時点で明らかに他と違いすぎる。

が、それを抜きにしても今回の戦いでバルカ軍の強さはよくわかったのではないだろうか。

このラジオを聞いていて、それでもなおバルカが弱いと思う奴は少ないだろう。

そして、このラジオは王都にいる王都連合軍も当然聞いているはずだ。

そいつらもバルカの怖さに身を震わせているころだろう。

だが、不安はある。

今のアイの発言によって、バルカ軍は捕虜の搬送にあと数日は手を取られるということがわかった。

だとしたら、王都にいる連合軍はどう動くだろうか。

俺がそいつらの立場ならば、せめて一太刀入れたいと思うだろう。

そもそも、戦わずに負けを認めるなんてのはさすがにできない。

ならば大将という鬼の居ぬ間にリード家と一線交えて、なんらかの形で戦果を掴んで交渉に持ち込もう。

そんなふうに考えてもおかしくないのではないか。

こうしてラジアル平原の戦いが終わったことで、新たな戦いがすぐに始まるのではないかという予感が俺の中で急速に膨れ上がっていったのだった。