軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

反転攻勢

「おい、アルス。騎兵団はまだ突っ込んだら駄目なのか?」

「まだだ、バイト兄。まだできるだけ数を減らせ。突入するときにはこちらから合図を出す」

「わかった。けど、早くしろよ。いくらなんでもいい加減相手も引くかもしれない。戦果を挙げるべき時を逃せば勝利の機会をみすみす逃すことになるぞ」

「わかっているよ。だけど、まだ相手には当主級の数が多いんだ。ちょっとでも減らしておかないと騎兵団の突撃は跳ね返されるからな」

ラジアル平原での戦い。

すでにこの戦いが始まってから数時間が経過していた。

数の多いラインザッツ軍がその人数に物を言わせるように次々と押し寄せてくる。

それに対して迎え撃つバルカ軍。

そして、その結果、死傷者はラインザッツ軍のほうが圧倒的に多かった。

持ってきていたラジオからはアイとキリ、そしてバルガスの声が聞こえてくる。

その情報を戦いながら拾っていると、どうやらラインザッツ軍の被害規模はすでに2割を超えているようだ。

もはや勝利宣言してもいいような数字であると思うが、それでもラインザッツ軍はまだ引く様子を見せていない。

やはり、このまま引き下がるのは武門の名折れだとでも考えているのだろう。

ならば、こちらも最後まで集中して戦わなければならない。

一瞬の油断が命取りになる。

なので、まだバイト兄の率いる騎兵には完全な突撃攻撃を敢行させずに外から雷鳴剣などを用いて削り作業に入ってもらっていた。

どっちかというと、まだラインザッツ軍にいる騎兵の数を減らしていてもらいたいというのもある。

「しかし、すごいなこれは。【念話】なしで遠く離れた相手と会話できるようになるとは父さん思わなかったぞ、アルス」

「えへへ。いいでしょ、これ。ずっと、カイルが使う【念話】はいいなって思っていたからね。【念話】なしでも遠く離れた相手と会話できるようになる道具を作るように研究していたんだよ」

「それがこれか。壁の向こうで戦っているバイトの声が聞こえてくるっていうのは、バイトの無事がすぐに分かるから父さんとしては安心できるよ」

そして、そんな戦場にあって俺は【壁建築】で囲った陣地の中からあちこちにいる指揮官たちに向かって指示を飛ばしていた。

もちろん、壁の外にいる騎兵団の指揮を執っているバイト兄にも指示を出している。

従来ならばそばにいる通信兵に対して命じたいことを伝えて、その通信兵がバイト兄のそばにいる通信兵に【念話】で伝えるというスタイルをとっていた。

だが、今回はそれができない。

なぜなら、相手の魔法を防ぐために封魔の腕輪を使用しているからだ。

封魔の腕輪に魔力を込めて効果を発揮すると、周辺一帯で魔法が使えなくなる。

それは誰か特定の人に対して効果を発揮するものではなく、フィールド効果とでもいうようなもので敵味方関係なく発動する。

なので、【念話】なども使えないのだ。

そのことを考えていたこともあり、今回は特別に通信機器を持ってきていた。

骨伝導通信器。

今回の戦で俺が新たに導入した道具のうちの一つだ。

使い方は簡単でヘッドフォン型をした骨伝導通信器を左右の耳に引っ掛けるだけだ。

その際、耳から下の顎の骨の上などに通信器がかぶさるようになっている。

これはヴァルキリーの角から作ったもので、全て同じ形に加工している。

ヴァルキリーの角は共振動現象なるものが発生するよくわからない特性を持っていて、同じ形にしたものに振動を与えると別の同じ形のものも一緒に振動するという効果があるのだ。

俺はこれを利用してラジオを作っていた。

それを通信器としても使うことにしたのだ。

普通の通信器であればマイクなどで音声を拾って、その空気の振動を感知する。

だが、今回の通信器は骨伝導式だ。

骨伝導というのは骨に振動を与えることで耳を使わなくとも音を認識できる現象だ。

人間は相手の言葉を耳の奥にある鼓膜の振動を電気信号に変換して脳で理解しているが、それ以外にも直接頭蓋骨を振動させることでも似たような効果があるらしい。

顎の骨にピタリと付けて震える骨伝導通信器はその原理を利用して、戦場で遠く離れた場所にいるバイト兄や他の指揮官と話せることを可能としてくれたわけだ。

「父さん、引き続き壁を越えてこっちに近づいてくるラインザッツ軍に対処してくれ。俺は当主級を減らす」

「わかった。けど、バイトの言うことももっともだ。もうそろそろ反転攻撃してもいい頃合いだと思う。なるべく早く当主級に対処してくれ、アルス」

「わかっているよ。相手の前衛部隊にいる当主級は多分ほとんど仕留めたはずだ。後は向こうにまだ残っている本丸の連中を減らすだけだね」

骨伝導通信器と一緒に今回の戦で導入した新装備の魔銃。

それがラインザッツ軍に大きな被害を出し続けていた。

まあ、これは完全に前世の知識を利用してできた産物だ。

大きな岩を飛ばす岩弩杖ではなく、弾丸の形をしてライフリング加工した筒の中を通過して飛ばすように作られた魔銃。

これにより、魔法陣を描いた精霊石から硬化レンガの弾を飛ばしたときに飛距離が延びて、命中精度が向上した。

それを一般兵が次々と放ち続けて、相手の兵をバタバタと倒している。

が、この魔銃は優秀な武器ではあったが完全な武器でもなかった。

というのも、この世界の人間は魔力によって肉体を強化できるからだ。

バルガスもそうだったが、騎士クラスの連中になると魔法を使わなくとも幾多の戦場での経験からか無意識に魔力で肉体を強化している。

攻撃力だけではなく防御力も高めることで、魔銃による攻撃すらも耐えられるようになるのだ。

そして、当主級と呼ばれる連中はほとんどが魔銃による攻撃に耐えることができた。

つまり、いくらラインザッツ軍の雑兵を魔銃の掃討攻撃によって減らしても、一騎当千の連中は大暴れしてくるのだ。

そいつらが暴れて戦線を崩されたら、それだけでも脅威だ。

そこから突破されて乱戦になってしまえば、せっかくの遠距離攻撃を可能とする魔銃を持っていてもバルカ軍の分が悪くなる。

なので、そんな危険な連中は退場願うことにした。

俺が光の剣を用いて攻撃したのだ。

この光の剣はもともと空絶剣という呼び方をしていたものだ。

空絶剣グランルークはグランとブーティカ家のルークが協力して作り上げた一品であり、魔力を込めると離れた空間を斬ることができるという壊れ性能を持っている。

その空絶剣に対して【聖域】を使ったことで不死者の王ですら浄化できる剣になったわけだが、当然もともと持っていた空間を斬るという能力は失われてはいない。

そして、この光の剣もまた、魔法を封じる封魔の腕輪を発動中でも魔力を込めさえすればその類まれな効果を発揮する。

光の剣を片手に持ちながら、塔の上にいる俺は双眼鏡を覗き込んでラインザッツ軍を見る。

すでに壁を越えてこちらに肉薄してきた部隊にいる当主級などはこの光の剣によって斬った。

なので、今見ているのは壁の向こうにいるラインザッツ軍の本陣などにいる当主級だ。

目に魔力を込めることで相手の持つ魔力を視覚化できるので、魔力量が多い者を探し出す。

そして、危険な相手となりうる当主級の場所をあらかたチェックし終えた。

「やっぱ、覇権貴族の軍ともなると当主級の数は多いな。けど、これでほぼ当主級の場所は特定した。父さん、バイト兄、準備はいいか? これから、ラインザッツ軍の本丸にいる当主級を全員斬る。多分、相手の軍は乱れるはずだ。俺が合図を出したら反転攻勢に出る。乱れたラインザッツ軍を一気に叩くぞ」

「よっしゃ、いよいよだな。こっちはいつでもいいぞ、アルス」

「わかった。父さんのほうも準備を進めておくよ」

「反転攻勢に出る際は封魔の腕輪の効果を切るからな。【氷精召喚】なんかを使って戦果を挙げてくれ。だけど、もしかしたら生き残っている相手の当主級がいないとも限らない。くれぐれも注意だけは怠るなよ。特に先行するバイト兄は気をつけてくれ」

「了解だ」

「よし、じゃあ、斬るぞ。突撃だ」

塔の上から双眼鏡を用いてラジアル平原にいる当主級に対して光の剣を振るう。

その結果、ここにいたラインザッツ軍の当主級はそのほとんどが命を落とすことになった。

【刹那】という気がついたら死んでいるというチート級の魔法はたしかに怖い。

が、それはなにも相手だけが使えるチートではない。

こちらにも似たように気が付かないうちに攻撃が可能な武器がある。

それを用いて攻撃を行ったことにより、ラインザッツ軍は一度にほぼすべての指揮官を失うことになった。

こうして、ラジアル平原で行われていた合戦は開始から5時間ほどが経過した頃、ついに攻め方がラインザッツ軍からバルカ軍に切り替わることになった。

そして、この反転攻勢により、ラインザッツ軍はさらに大きな被害を出すことになったのだった。