軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦場の法則

「ラインザッツ軍の被害規模は今、どれくらいなんでしょう、アイさん?」

「死者はすでに15000を超えています。ただし、負傷者も入れると更に被害規模は大きいと推測されます」

「魔銃の効果だな。あれは兵を傷つけて撤退させにくくする効果もある。意外と死なずに傷ついて動けないだけの味方の兵ってのは、軍にとっては撤退の際の重しになるからな」

「そう言えば、魔銃はそこまで攻撃力が高くないって言っていましたもんね。ということは、かなりの数の人が怪我しているってことになるんですね」

「ああ。だが、ここまで一方的な流れになるとは俺も思わなかったが。あとは、ラインザッツ軍が一発逆転を狙って大将のいる本陣を狙うくらいしか逆転の目はないんじゃないかな?」

「この戦いのここまでの進行はアルス・バルカ様の計画通りであると推測されます。アイの予想した事前の戦況予測も概ね予想通りでした」

「おいおい、本当かよ? アイはこの戦いがこうなるって予想できていたっていうのか?」

「肯定です。アルス・バルカ様により授けられた知識の戦場の法則により、予測していました」

ラジアル平原の合戦が始まってから少し時間が経過した。

魔銃による掃討攻撃と騎兵による遠距離攻撃、さらには投石機などの攻撃によりラインザッツ軍の被害は収まるところを知らない。

普通ならば、ここまでくればラインザッツ軍は撤退せざるを得ないだろう。

だが、ラジオ放送の効果と負傷兵の多さがその選択肢をとることを奪っていた。

しかし、これはこれで逆に怖い。

ラインザッツ軍にはなんと言っても切り札があるからだ。

どうにかして大将がいる本丸へと切り込んで、なんとかして封魔の腕輪の効果を打ち消して【刹那】を使えば一発逆転はありうる。

どれほど有利に戦いを進めていたとしても、一瞬の油断が命取りになる相手だ。

だから、戦いを見ている外野ほどには現場にいる大将は安心していないだろう。

そんなことを言っていると、アイがこの戦いにおける戦果を事前にある程度予想できていたと言うではないか。

いや、無理だろう。

だが、仮想人格であるアイは嘘は言わないはずだ。

ということは、本当にここまでの流れがわかっていたのだろうか?

「なんだ、その戦場の法則ってのは? 大将がアイに教えたのか?」

「はい。まだ検証が終わっていませんが、ランチェスターの法則を教わりました。双方の戦力差から、戦いが発生した場合にどれだけの被害が出るかを予測する法則です」

「なんだそりゃ? 聞いたことねえな。本当にそんなのあるのか?」

「面白そうですね。アイさん、そのランチェスターの法則ってどういうものなの?」

「軍という組織による戦闘での生存人数を想定する法則です。バルカ軍やフォンターナ軍などの近代的組織軍における戦闘の場合、双方の戦力の自乗により、その結果を割り出すことが可能となります」

「……よ、よくわかんないんだけど、簡単に具体的に言えばどうなるのかな?」

「例えば片方の軍が1000人で、もう片方が600人の軍が戦ったと仮定します。その際、どちらかが0人になるまで戦闘が続行した場合、生き残るのは何人になるかというものです」

「どっちかが0になるまでってことなら、単純に1000から600を引いて400人が生き残るって感じじゃないのかな? そんなに単純ではないかな?」

「組織化されていない古典的な軍であれば、一次法則としてその結果で概ねあっているのではないかと予想されます。ですが、近代軍であれば二次法則が適用されます。その場合は600人の軍が全滅し、1000人の軍が800人生き残ることになります」

「え、そんなことになるんだ? すごい圧勝じゃない。……あれ、でもその話なら、戦力が多いほうが圧倒的に有利になるんじゃないのかな? この戦いであれば数はラインザッツ軍のほうが10倍も多いんだよ? だったら、バルカ軍が全滅して、ラインザッツ軍がほとんど被害なしになると思うんだけど」

「先程の例はわかりやすく具体例を示したにすぎません。先ほどであれば1人の戦力は同じであると規定しての計算です。が、現実的にはそうではありません。一般兵よりも騎士は強く、さらに当主級はより強い。1000対600でも当主級や騎士がどちらに何人いるかによって結果は変動します」

「あ、そうだよね。昔からよく言うのは騎士に仕える従士は一般兵10人相手に戦っても勝てて、その従士10人を相手にして勝てるのが騎士だって聞いたことあるね。で、その騎士を複数相手にしても勝っちゃうのが当主級って感じだったかな?」

「はい。そのため、戦場の法則を用いて計算する場合には概ね従来言われているその数値を戦力として盛り込んで計算しています。ですが、そのほかにも戦力を考える場合には外せない要素があります」

「そうか。分かったぞ、アイ。装備の質のことだな? たとえ、騎士や当主級が少なくても装備が充実していれば軍としての戦力は上がる。人数だけじゃなく、双方の戦力から結果を予測するっていうのは、そういうことだろう。魔銃や魔法剣、鎧なんかが充実しているバルカ軍は数は少なくても実際の戦力はラインザッツ軍よりも大きいってことなのか?」

「その通りです、バルガス・バン・バレス様。戦場の法則を用いて計算する際に人数、装備の質、騎士や当主級の数などを複合的に考える必要があります。そして、このバルカ軍とラインザッツ軍では総合的にはバルカ軍のほうが戦力的には上であり、このような結果になったとしても不思議ではありません」

なるほど。

その法則とやらが果たして本当に正しいのかは俺にはわからない。

が、言いたいことは分かる。

俺が大将の下に付く前までの戦場というのは、基本的には数だけはいる個人戦だった。

目の前にいる相手と戦うだけで、どれほど数がいる軍同士のぶつかりあいだったとしても結局は一対一の戦いを大勢でやっているだけだったのだ。

だからこそ、強い者が戦果を上げて味方の士気を高めればそれだけ勝ちやすくなったりもした。

だが、大将がフォンターナ軍を作り始めたあたりからその様相が大きく変わり始めてきたように思う。

一対一の延長線ではなく、組織同士の戦いになった。

工兵や騎兵、通信兵なんて形でいろんな役割を兵に与えたからこそ、組織による集団戦になったように思う。

そして、そうなってからは単純に数が多いほうが勝てるというものではなくなってきたように感じていた。

軍の運用がうまいカイルが指揮をとると、面白いように勝てるのは組織戦ならではといったところではないだろうか。

だが、そんな戦果を予測できるような法則なんてものを大将が持っていたというのは初耳だ。

今まで聞いたことがなかったぞ。

が、それを知っていたからこそ、大将は軍の戦力を向上させるために装備をよくするように軍に金をかけ続けていたのかもしれない。

ということは、やはり昔からわかってやっていたのだろう。

これは俺もうかうかしてられないかもしれない。

昔ながらの、農民からの叩き上げで大将に取り立ててもらった俺だが、これからは軍を率いていくにはそういうことも考えて指揮を執らないとついていけないのかもしれない。

俺は覇権貴族相手に少人数ながらも圧倒的な戦果を叩き出し続けている大将を思いながら、心のなかで焦りを覚えたのだった。