軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

解説者バルガス

「みんなー、おはよー。今日はこれから特別放送が始まるよー。な・な・なんと、驚きの放送内容はバルカ軍対ラインザッツ軍の戦いを生中継でお送りするっていうことなんだ。すごいよね。バルカニアとは離れた土地で行われている合戦をバルカ文化放送局で中継することになるとは思わなかったよ。えっと、それじゃあそのことについて説明してもらおうかな。バルカの騎士であるバルガス・バン・バレス様、お願いできますか?」

「お、おう。バルガスだ。よ、よろしくな」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。普通に話していただければ平気ですので」

「そ、そうか? じゃあ、ちょっと失礼する。……ふー。えっと、なんだっけか? どうやって離れた土地の戦いを中継するのかってことだったな?」

「そうです。合戦が行われる見込みのラジアル山の麓にあるラジアル平原ってものすごい遠いはずですよね? そんなところでこれから戦うことになるバルカ軍とラインザッツ軍の戦いをどうやって放送するのかって、これを聞いている人は不思議に思うと思うんです」

「だろうな。というか、俺も驚いている。相変わらず大将もとんでもないことを考えるもんだな。まさか、自分の戦う戦をラジオで実況解説させるとは思わなかったよ」

「バルガス様のいう大将というのはアルスくんのことですよね? フォンターナ王国建国の立役者であり、バルカ家の若きご隠居で、神と面会することのできる神の盾のアルス・バルカ様」

「そうだ。キリ嬢ちゃんも大将のことはよく知っているみたいだな。その大将が今回の実況解説という仕組みを作り上げた。まあ、なんだ。空の上から神の目を使ってその戦いを観察する。それを神の巫女がここで実況してくれるってことだな」

「神の巫女! アイさんのことですね。えっと、皆に説明するね。ここにはバルガス様以外にもうひとりいます。アイさんといってとってもきれいな人なんだけど、実は人ではないの。神界にいる神様の使う依り代に宿って神様の身の回りのお世話なんかもしているアイさんが、今回の放送のためにバルカ文化放送局に来てくれているの。それじゃあ、アイさん、なにか一言頂いていいですか?」

「アイです。この度、ラジアル平原の合戦の実況解説を担当いたします。どうぞよろしくお願いいたします」

うおー、なんだこれは。

大将にこんな仕事を言われるとは夢にも思っていなかった。

まさか、自分がラジオなんてものに出演するとはな。

俺の向かいには人気のあるキリ嬢ちゃんとアイがいる。

普段、男所帯の軍にばかりいるからか、こんなきれいどころと向き合っているのはなかなか緊張するものだな。

先日、急に大将がやってきた。

そして、俺に「バルガス、お前ラジオに出演して今度の戦の解説役をしてくれないか?」と言われたのだ。

最初は大将が何を言っているのか、何一つわからなかった。

ラジオで戦の実況解説をするってどういうことだ?

思わずそう聞き返してしまった。

だが、話を聞いていくうちに大将の言いたいことが理解できた。

どうやら、大将は最近カイルと作り上げたアイという自律型魔導人形? とかいうよくわからんものを使って、遠く離れた場所での戦の状況をバルカニアのラジオ放送局で中継しようと考えているらしい。

相変わらず誰も考えたことのないようなとんでもないことを考えつくもんだ。

もう、俺は大将とは長い付き合いになるが、いまだに次に何を言い出すかわかったものじゃないと思ってしまう。

だけど、その計画は突拍子もないものだったが、実現不可能というわけではなかった。

というよりも、十分可能だった。

アイはたくさんいるが、別個体の情報が常に他の個体も把握できているとかで、バルカニアから遠く離れた地での戦いも十分に実況できるからだ。

が、その実況だけではラジオを聞いている者に話が伝わるか大将は不安だったんだろう。

だから、俺を呼んで解説役をしろと命じた。

アイが戦場での動きを実況しつつ、それを手元に置いた地図を見ながら俺が戦の素人であるキリ嬢ちゃんに解説していく。

そうすることで、ラジオを聞いている者にもなるべくわかりやすい放送をしようという狙いがあるらしい。

大将からは気楽にやれと言われているが、俺もこんなことは今まで経験したことがない。

すっごい緊張してきた。

これなら俺も大将に願い出て実戦に出ていたほうがよっぽど緊張せずに済んだんじゃないだろうか。

くそ、とんでもない役割を押し付けられちまったぜ。

「まあ、なんだ。要するに神の巫女たるアイによって、遠隔地での戦いの様子が事細かに伝えられる。それを聞いて、キリ嬢ちゃんがなにかわからないことがあれば聞いてくれ。俺がなるべくわかりやすく説明させてもらうから」

「はい、よろしくおねがいしますね、バルガス様。えっと、それじゃあ、最初の質問です。今ってどんな状況なんでしょう? まだ戦いは始まっていませんよね?」

「その質問にはアイがお答えいたします。現在、ラジアル平原にてバルカ軍、及びラインザッツ軍の布陣は完了しています。本日のラジアル平原の天候は晴れ。このあと数日は天候が崩れることもありません。両軍はおそらくは本日中に戦端を開くことになる模様です」

「え、すごい。数日先の天気まで予測できるの、アイさん? それって占星術をするうえですごい有益な情報なんだけど」

「アルス・バルカ様により天候予測の精度を上げるようにアイは求められています。現在の天候予測精度は3日後までで約9割程度となっています」

「9割? すごいすごい。アイさん、それってものすごいことだよ」

「ちょっと落ち着け、キリ嬢ちゃん。天気のことはまた後でな。それより、アイ。もう少し両軍についての情報を戦が始まる前に知っておいたほうがわかりやすいだろう。それぞれの軍の規模なんかを教えてくれないか?」

「承知いたしました、バルガス・バン・バレス様。ラジアル平原にて西に布陣するラインザッツ軍の構成人数は約100000ほどです。それに対してバルカ軍は10000程度で、おおよそ10倍ほどの兵数差が存在しています」

キリ嬢ちゃんとアイと一緒に話をする。

俺はきちんと喋れているだろうか?

いや、これ以上緊張なんてしていてもどうしようもない。

いつもどおりにいようと思って俺は手元に置いていた銘酒カルロスをぐいっと喉に流し込んで気分を落ち着かせる。

アイはきちんと話ができているように思う。

どうやらアイに対しては大将も事前に仕込みをしていたようだ。

学習能力のあるとかいうアイを使ってバルカニアにある遊技場で、場内放送を使って練習をさせていたらしい。

それだけじゃなく、フォンターナ軍で行われている軍事演習を利用して戦の実況も大将自らが確認していたようだ。

なので、アイは特に問題なくラジオでの放送に馴染んでいた。

ちなみに、アイは神の巫女という敬称が用いられることになったようだ。

まあ、たしかに自律型魔導人形なんて言われても普通はどんなものかすらわからんわな。

俺もいまだに魔導人形や魔装兵器が動いているのを見てどういう理屈なのかはさっぱりだし、見たこともない人間ならどんなものか全くピンとこないだろう。

なので、神界にいる神様に奉仕する巫女であるとしたそうだ。

神の巫女であるアイが遠く離れた場所の出来事を実況していても、「神の巫女ならそういうこともできるのか」とラジオを聞いている民衆が自分の中で勝手に納得するだろうと大将は考えたようだ。

そして、おそらくはそうなるのだろう。

なんとなく、よくわからないが神様の力かなにかでそういうこともできると思ってしまうはずだ。

なぜなら、俺もそう言われればそうだろうと納得するたちだからだ。

こうして、俺は初めてのラジオ出演で戦の解説役をすることになった。

あとで大将には酒でもおごってもらおう。

いや、一緒に飲んでもらう必要があるだろうな、これは。

俺は終わったあとのことを考えて気を紛らわせて緊張を解しながらも、そのまま解説を続けていったのだった。