軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

史上初の戦い

ラジアル山と呼ばれる山が王都とラインザッツ領の間にある。

大雪山という天をつくほどの高い山々と比べれば低いが、それでも十分な標高を持つラジアル山はこのあたりでは有名な山として知られている。

冬になれば雪が降り積もり、春になるとその山頂から雪が減っていくのが王都からでも見えるという。

なので、王都に住む者は昔からラジアル山の雪解けを見て春の到来を感じ取っていると言われている。

そして、そのラジアル山の向こうからラインザッツ家が大軍を率いてやってきていた。

俺たちバルカ軍はそのラジアル山の麓にある平原でそれを待ち構えて迎え撃とうという算段だ。

ここならば、大軍を布陣して戦うだけの広さがある。

すでにラインザッツ家に使者を派遣し、この場所でラインザッツ軍とバルカ軍が勝負をつけようと申し合わせていた。

「質問よろしいでしょうか、アルス・バルカ様」

「どうしたんだ、アイ? なにか気になることでもあるのか?」

「なぜ、合戦などという形式で戦うのでしょうか? ラインザッツ家に対して勝利を収めるのであれば他に方法があるように思います」

「例えば?」

「一例としては魔導飛行船の使用です。魔導飛行船にて空を移動し、ラインザッツ領の領都などに奇襲をかけるだけで戦果が見込めます」

「確かにそれも一つの案として有効だと思う。けど、それは駄目だよ、アイ。今回は不採用かな」

「どうしてでしょうか?」

「その方法で勝利すれば、おそらくはラインザッツ家は撤退するだろう。だけど、ラインザッツ領を切り取れない。ラインザッツ家やラインザッツ家に臣従している貴族家や騎士家はバルカの勝利やリード家の支配を受け入れない。もし、そうなれば領地を手に入れても各地で反乱が起こり続けて、リード家はその対応で消耗する」

「ですが、確実に勝利できるかと思います」

「まあ、それは確かにそうなんだけどね。けど、前提が違うよ。魔導飛行船は俺の所有物であり、俺はそれを自分のためにしか使わない。魔導飛行船や角ありヴァルキリー、あるいは転送魔法陣なんてものもそうだけど、俺しか扱えないものを前提に勝利をもぎ取っても、今度は俺がいないと勝てないってなっちゃうだろ? ようするに、簡単に言えば俺がいなくても勝てる戦法を使って勝つのが望ましいんだよ」

「アルス・バルカ様がいなくとも勝てる戦法ですか」

「そうだ。理想を言えばリード軍でも使える戦法であるほうがいいな。こうやればリード軍もラインザッツ家やほかの貴族軍相手でも勝てるという戦法を使って勝利する。そして、そのうえで、ラインザッツ家や他の貴族軍にはバルカやリードには敵わないって思わせたいのさ」

「ただ勝利するだけでは駄目だということですね。しかし、その割には今回の作戦はリード家には真似できない要素も多く含まれているように見受けられます」

ラジアル山の麓でバルカ軍を展開していると、アイが話しかけてきた。

どうやら、アイとしてはもっといい戦い方があるのではないかと言いたいようだ。

それは当然の疑問だと思う。

なぜなら、アイの持つ情報の中には今まで俺が戦った戦場でのデータも入っているのだから。

特に、アイが思ったのは魔導飛行船によるラインザッツ領の領都への攻撃だったようだ。

魔導飛行船という空飛ぶ乗り物で領都へと行き、そして上空から魔装兵器を落とすという俺の必勝戦法を駆使すれば勝利をつかめるのではないかというものだった。

それは確かにそうだろう。

そうすれば、こちらの被害を抑えつつ勝利をつかめるに違いない。

そして、その作戦は俺の中にもある。

いざとなれば、その戦法でラインザッツ家に打撃を与えて軍を退かせることも視野に入れている。

だが、その方法は領地と領民の心を掴むにはあまりいい作戦だとは言えなかった。

ラインザッツ家の領都は当然ながら広い領地の中のほうにある。

そこだけが被害を受けて、占領されたとしても他の土地は無傷で残っているのだ。

バルカやリードに従わない気骨ある者たちは徹底抗戦するだろう。

そして、その反乱を抑えるために再び魔導飛行船による必勝戦法を使うとなれば、すべての街を滅ぼしていかねばならない。

もちろん、そんなことをすればバルカの印象は大暴落してしまうだろう。

なので、今回は必勝戦法を一時的に封印して合戦で戦いましょうと決めたわけだ。

合戦形式の戦いはもともと普通に行われていたこともあり、割と両者にとって戦いの結果を受け入れやすいという面がある。

そして、できればそのときの戦い方はリード家でもできるものであるほうが望ましい。

なんといっても、このあたりの土地を切り取るのはあくまでもリード家であり、維持していく必要があるのもリード家なのだから。

「それで、アルス・バルカ様はアイに対して実況をしてほしいということでしたね? どういうことでしょうか?」

「簡単なことだよ。アイにはここでのラインザッツ軍とバルカ軍の戦いを上空から見てもらう。魔導飛行船に乗って空の上から両軍の戦いを観戦して、その戦いぶりを実況してもらいたいんだ。ラジオを通して全土にその戦いの結末を報じてほしい。できるな?」

「はい、可能です」

この合戦の真の狙いは「心を掴む」ことにある。

正々堂々と戦い勝利することで人々の心を掴む。

あるいは心を折るといったほうがいいかもしれない。

が、それはなにもラインザッツ領に住む者たちだけが対象ではなかった。

ラインザッツ領に限らず、全土に対してバルカの戦いを見せつける。

バルカと戦えば10倍差の戦力でも負けるということを知らしめる。

そのために、俺は一つの手を打つことにした。

それが、アイを使ったラジオ実況というものだ。

アイを魔導飛行船に乗せて、両軍の戦いを観戦させる。

そして、その状況をバルカニアにあるバルカ文化放送局に置いている別端末のアイを使ってラジオで実況させるのだ。

いかにして戦い、どちらが勝利するのかを、ラジオを通して全土にお届けする。

そのために、アイにはバルカニアにある使役獣レース場などで場内実況を学ばせているという準備もすでにしてあった。

こうして、バルカ対ラインザッツの戦いは史上初のラジオ実況解説付きの合戦として放送されながら行われることになったのだった。