軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

噂話

『みんな、おはよー。オペラの歌姫の華麗なる歌声を楽しんでくれたかな? その後はいつも恒例のキリの星占いの時間だよ。って、言いたいところなんだけど、今回は久々のお客さんが来てくれたんだー。フォンターナにこの人あり、神の盾ことアルス君です」

『キリの星占いをお聞きの皆さん、おはようございます。ご紹介に与りましたアルス・バルカです。よろしくおねがいします』

『真面目、いつもながら挨拶が真面目すぎるよ、アルス君』

『いや、こうしてキリの番組に出演するのも久しぶりだしね。挨拶くらいはきちんとしておこうかと思って』

『もう、そんなんじゃ私とアルス君の間に距離があるみたいじゃない。もっと仲良く楽しくお話してくれないと困るんだからね』

『はいはい、それじゃいつもどおり、気楽に話でもさせてもらうとしますか』

神界で神アイシャに【裁きの光】を封印してもらった。

俺はそれが終わった後、今度はバルカニアに戻ってきて、バルカ文化放送局へとやってきていた。

目的はキリのラジオ番組に出演することだ。

カイルがリードの魔法を広げて【念話】を使えるようになった者が増えているとはいえ、それはあくまでも一部の地域に過ぎない。

もう何年も前に作って普及させたラジオはより多くの人間に声を届けることができる。

とくに、各地の教会に無料配布していたこともあり、フォンターナの勢力範囲内ではない場所でもラジオを聞くことができるという点がいまだに魅力でもある。

なぜなら、それは取りも直さずフォンターナとは関係が悪い地域でも、ラジオの内容を聞くことができるからだ。

俺がキリの番組に出るのはもちろん狙いがある。

ただのお遊びではなく、伝えるための情報があったからだ。

『それで、早速なんだけどアルス君に聞きたいことがあるんだ。あの噂は本当なの?』

『あの噂?』

『フォンターナ王国がドーレン王家と和解する、って話。なんかそんな話があるって小耳に挟んだんだけど……』

もちろん嘘だ。

俺がヨーゼフと話したのはつい数日前であり、しかもそれはフォンターナとは距離がかなり離れたリシャールの街でのことだった。

そんな話をキリが小耳に挟むことなど絶対にない。

つまり、これは俺がラジオで放送するために仕込んだ導入話だということになる。

まるで、キリの周りではその話がよくあるかのように印象操作をしながら、俺はそれに肯定した。

『よく知っているな。と、いってもまだ確定ではないんだけどな。今は双方で話をまとめてお互いの妥協点を探り合っているところでもある。だが、双方にとっていい結果になることになると個人的には考えているよ』

『そっか、そっかー。いやー、そうなったら私としても嬉しいかな』

『キリにとってドーレン王家との和解の件はそんなに気になるのか?』

『そりゃ、もちろんそうだよー。なんたって、私の実家は王都にあるからね。知り合いも向こうに多いんだよ? 私は家を飛び出してバルカに来たけど、それでもやっぱり実家のことが心配になっていたからね』

『そうか。王都圏はここ数年でいろいろあったからな。元気そうに見えて、キリもいろいろ気にしていたんだな』

『もっちろん。元気いっぱいの私といえども知り合いの心配くらいするって。でも、ドーレン王家とフォンターナ王国が和解すれば、もっとお互いに交流が生まれるんじゃないかなって期待しているんだ』

『交流か。確かにそうなればいいけど、王都圏から離れたくない者も多いんじゃないかな?』

『そうかもね。でも、フォンターナ、とくにバルカだって注目されているはずだよ。いろんな変わったものがあるし、なにより文化に力を入れているからね。ほら、王都圏は文化系の魔法を持つ貴族様も多いでしょう?』

『そうか。確かにそういうところと文化的な交流が持てれば、もっといろんな面白いことができるかもしれないな』

『うんうん、そうなんだよ、アルス君。やっぱり、平和じゃないと文化って育たないと私は思うんだ。今回の話、なんとしてもうまくいってほしいね』

『そうだな。俺としてもそう期待しているよ』

ラジオというこちらが一方的に情報を発信する装置を使って情報を垂れ流す。

その狙いは既成事実作りだった。

今、ヨーゼフはドーレン王家に対して積極的に動いて周囲を説得しているはずだ。

ドーレン王家の失われた継承権を取り戻すためにフォンターナと和解する。

それを後ろから強引に押すように後押しする。

キリという王都出身の人間を使って、フォンターナとドーレン王家の和解がいかにも皆にとっていいものであるかのように吹聴する。

そして、フォンターナ側では俺もこの和解の成立を希望している、とラジオで発信する。

このラジオ放送の内容をどれほどの人が聞いているかは知らないが、かなりの人数になるはずだ。

その全てが証人となる。

もしも、この後、和解がご破産になれば、それはドーレン王家がこの話をポシャらせたのだと思われるだろう。

俺が特別にラジオに出るのはこの一回でも十分だ。

だが、この後は他の番組などでもこの和解話をちょくちょく取り上げさせよう。

まるで、この話が以前からフォンターナ側では当たり前に出回っている既出の話であるかのように、ほぼ確定した内容であるかのように発信させるのだ。

こうして既成事実を作れば覇権貴族であるラインザッツ家も強固に反対意見を出しにくかろうという狙いがあった。

が、もうひとつはキリの言う通り、王都との交流という面も考えている。

王都圏はもともとかなり特殊な場所だった。

ドーレン王家が力を失い、各地にいる貴族が自分の領地を確立していった中で、攻撃魔法を持たない文化系の貴族は王都圏に集まって生き残りを図ったのだ。

ドーレン王家は時代の強者と同盟を組み、覇権貴族に守られながら生き残ってきたが、それらの文化系貴族も同様に王都圏で生きながらえてここまできていた。

それらの貴族へとラブコールを送る。

フォンターナと、バルカと仲良くやっていきませんか、と。

本来ならば、王都圏の貴族はそれを受け入れ難いに違いない。

いかにフォンターナが強くなったといえども、もともとは王都からみれば辺鄙な北にある貴族領の一つだったのだ。

そこが、急速に力をつけて勢力を広げたものの、自分たちは長い歴史の中で文化をつないできたという自負を持つ。

ゆえに、これまで何度も覇権を取る貴族が出てきても、あくまでも自分たちはドーレン王家のもとにありとして王都にとどまり続けてきたのだ。

が、そんなプライドだけではもうさすがにやっていけないところまできているのではないだろうか。

なにせ、それまでは踏み込まれなかった王都圏にメメント家とそれに与する貴族軍がズカズカと入り込んできて、圧倒的な力で暴虐の限りを尽くしたのだ。

襲われて、奪われて、しかも、今年は王都圏の南が死の大地となり、不作となった。

どんなに高潔な精神を持ち合わせていようとも、貧すれば鈍する。

歴史的に文化を維持し続けてきた者にとって、それはなにより受け入れ難いことだろう。

そこにつけ込む。

フォンターナとの和解が成立すれば、こちらからも支援ができるかもしれない、とラジオで発言したのだ。

この内容を王都圏でも聞いているのであれば、どうしても心は揺れるだろう。

できれば、貴重な文化系魔法を失うことは俺もしたくない。

可能ならばこちらに取り込めないだろうかと思いつつ、俺はラジオでキリとあーだこーだと言い合ったのだった。

こうして、ドーレン王家との和解話はにわかに話題となり、全国各地で注目されることとなったのだった。