軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領民の証

「【審判】か。すごい魔法を作ったもんだな、カイル」

「うーん、でもそんなに大したことはないよ、アルス兄さん。もともと、【念話】を使えば離れていても会話ができたんだし」

「そうは言っても【念話】は実際に会ったことのある相手とだけなんだろ? それが、【審判】だと会ったことのない相手でも全員が対象になるんだからすごいもんだよ。というか、それが成立するなら俺の作ったラジオ局の立場がなくなりそうだな」

「まあ、けど、ラジオは魔法がなくても使えるから便利だと思うよ。【念話】なんかは魔法を授かっていないと使えないしね」

「……そのことだけど、今後はどうするつもりなんだ? 今は新しく得たリード領の中に住んでいる多くの者が【念話】なんかの魔法を使える。だけど、使えない者もいるんだろ? それに、いずれはそっちのほうが多くなるだろうし、【審判】による裁判制度は持続的に可能かどうか微妙なんじゃないか?」

リシャールの街に新しく建てているシャーロット城。

今はまだ建設中だが、とりあえずリード家の面々が仕事をできるだけの建物は完成している。

その一室で俺はカイルと向き合って話し合っていた。

もう季節は年の暮れになっていた。

もうすぐ新年の祝いでフォンターナの街に国王であるガロードに対して挨拶に行く必要があるだろう。

そのため、年内に終わらせておく仕事をこなすべく、意外と城の中は慌ただしかった。

だが、この南の地は北国であるフォンターナ王国とは違って冬でもだいぶ暖かかった。

もちろん、寒くないわけではない。

が、雪は降り積もってもそれほど深くならないようだ。

フォンターナでは冬季の移動でそりを利用したこともあったが、そこまでは必要ないくらいだ。

まあ、それでも寒さで人が亡くなることは珍しくもないらしい。

なので、この街にも吸氷石の像を建てて寒さを軽減している。

そんなふうに季節が移り変わってくると、冬になる前頃からリード領には続々と人が流入してきていた。

どうやら、難民というやつらしい。

死の土地と呼ばれ、周囲一帯が不作になり、しかも、それによって多くの盗賊団が出現し、食べ物を奪い合った。

その盗賊団たちはすでに大方をリード家が取り込んだか、あるいは潰している。

それでも、この一年に渡る土地と社会の荒廃は大きかったようだ。

盗賊団も別に全員がこの周辺で拠点を構えていたわけでもない。

各地に散らばるようによその貴族の支配する領地に行って、荒らし回っていた。

そのために、広範囲に渡ってこの冬を越せないほどの貧しい者たちが出現したのだ。

そんな人間が続々と集まってきて、それをリード領は受け入れている。

受け入れを拒否することはできない。

なぜなら、それが青の聖女ミリアリアとの約束でもあるからだ。

貧しい者に救いの手を。

それが、この地をリード家が統治するための条件だった。

もちろん、そんな難民たちを受け入れるだけの余力はリード家にはない。

なので、そこはバルカが引き受けた。

多くの食料や衣服を提供し、移住希望者にはリード領ではなく、バルカの領地で受け入れることも視野に入れている。

なんらかの技能を持つ者はバルカラインなどで、それ以外は鉱山か西で冒険者になってもらおう。

バルカには夢のある仕事が一杯だから、きっとこの救いの手を難民の皆さんも喜んでくれるに違いない。

が、全員をリード領から出すというわけでもない。

むしろ、大多数がここに残ることを希望するだろう。

そして、それをカイルも可能な限りは聞き届けるつもりでいた。

なぜなら、土地が余っているからだ。

まだリシャールの街には住む余裕があり、そして、リード領はほかの周辺勢力を跳ね返すためにもある程度の人数がいる。

しかし、そうなると問題もあった。

それが、先程カイルとも話していた裁判制度についてだった。

カイルはリード家がこの地を治めるために、全住民参加型の裁判という行為を通じて、ここに住む者たちの心を掴んでいたのだ。

が、周辺からどんどん難民が流入してくればそれが崩壊する。

【審判】では繋がりのない、魔法を使えない者が増えれば住民たちの一致団結にはならないのだ。

この問題についてカイルはどうするつもりなのだろうか。

「それなんだけど、新しい住人たちにも魔法を授けようかと思っているんだ」

「新しい連中にも? 騎士として取り立てるわけでも、勉学で一定程度の学力を備えていてリード家で雇い入れるわけでもなく、住人に対してってことか?」

「うん。駄目かな、アルス兄さん?」

「……駄目かどうかはわからんが、ものすごい金がかかるだろ。教会に新しい騎士一人を生み出すために名付けを頼むだけでも、結構な金額になるのはカイルも知っているだろう?」

「そうだね。だから、そのためのお金は住民から払ってもらうように考えているんだ」

「住民に金を出させて魔法を授けるってこと? 難民たちは食料すらないんだぞ?」

「えっと、どう言えばいいかな。最終的には税金で賄えないかなと思っているんだ。例えば15歳になったリード領に生まれ住む者には領民証を発行する。で、その領民証を発行された者はリード家の魔法が授けられるけど、それを維持するにはそれ相応の税を納め続けなければならない、って感じでどうかな?」

「……なるほど。軌道に乗れば新しく名付けされる者の必要経費は税でまかなえるようになる、か? その場合、最初が問題だな。金のない難民たちに対してかなりの数の名付けをする必要があるだろうけど」

「別に全員を今すぐ名付けしないといけないわけでもないんじゃないかな? 最初はお金を払える人に対して名付けをする。お金を持っている人は裁判にすぐに参加できるけど、そうじゃない人は後でお金を貯めて領民証を得るようにしてもらえばいいかなと思っているんだけど」

ようするに、リード領に住み、権利を手に入れるためにはお金が必要だ、ということにするのだろうか?

金を払えるやつはすぐに払って魔法と裁判権を手に入れられる。

が、今すぐ払えないやつは払わなくともいい。

その代わり、判決には口を出せない。

しかし、何年あとになるかはわからないが、いずれは税金を使って住人全員が強制的に領民の証を受け取り、それ相応の税を納めることになるのか。

お金を払えるやつってのはどのくらいいるものなのだろうか?

その割合次第ではやってみてもいいのではないかという気もする。

あるいは、このリード領で新たに土地などを得るには領民証が必須である、などと条件をつければ出し渋りなく金を出させることもできるのだろうか。

もうすこし、協議して詳細を詰めていかないといけない議題だろうな。

俺とカイル、そしてリード家の面々で住民に対しての魔法を授けることについての意見を出し合うことにしたのだった。