軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

玄人好み

「おーい、アルス。あそこの工事は終わったぞ」

「ありがとう、バイト兄。なら、次は向こうを頼む」

「……なあ、俺はこんな土木工事をするためにこっちに来たんじゃないぞ? カイルの領地獲得のための手伝いに来たんだからな」

「わかっているよ。でも、今はカイルが軍を引っ張って出かけているからバイト兄はここの守備を任されている。勝手に出かけたらカイルが困るぞ」

「わーってるよ。言ってみただけだ。あー、けど戦いてえな。早く出番が来ねえかな」

「ま、そのうち嫌でもあるでしょ。カイルも説得が通じなさそうな相手はバイト兄にまかせてもいいって言ってたしな」

「でも、今カイルが相手にするために出かけていった連中も言うことを聞かなさそうなんだろ? 今頃、もう戦ってんのかな?」

「そうだね。多分、今は戦いになっている頃じゃないかな。まあ、もう勝ったあとかもしれないけど。……あ、誰か帰ってきたみたいだ。あれはカイルについていってた聖女様かな?」

聖湖のほとりにあるリード家の前線基地。

そこを俺は援軍に来ていたバイト兄と一緒に工事をしていた。

カイルが用意していった都市設計図を基に、バイト兄が工兵たちを率いて壁と道路を作り、俺はその町並みに合わせて下水処理も作っていく。

だが、どうやら与力として軍を率いてきたはずのバイト兄はそれが少々不満だったようだ。

よくもまあ、そんなに戦いたがるものだと思ってしまう。

が、先にバイト兄を出撃させるわけにもいかなかった。

ただの手伝い戦に来ただけのバイト兄が活躍しすぎるのはよろしくない。

この戦いはあくまでも土地を得るためでもあり、今後の統治のためでもあるからだ。

いずれはリード家の支配には絶対に与しないと主張する盗賊たち相手にバイト兄の力が必要になることもあるとは思う。

だが、いまではない。

今必要なのは、リード家としての力を見せるときだ。

そのために、カイルは出陣していった。

そして、その戦いぶりを協力者として手を組んだ聖都復興委員長である青の聖女ミリアリアも見に行っていた。

リード軍についていき、その戦いぶりを見学することでカイルにこの地を任せられるかを自らの目で確認する。

ついでに、リード軍は聖都を復興するためのものであるというアピールにもなり、それが大義名分につながる。

そのために出ていったはずのミリアリアが帰還してくる姿が見えた。

ということは、もう戦いを見学したのだろうか。

いや、帰ってきたということはとっくに戦闘終了になっていたのかもしれない。

それを確認するためにも、俺たちは帰ってきたミリアリアを迎えてどんな戦況だったのか話を聞くことにしたのだった。

※ ※ ※

「おかえりなさい、聖女様。もう、リード軍の戦いは終わったのですか?」

「……はい。なんの問題もなく、アルベド村周辺に地盤を築いていた盗賊たちを鎮圧し、その付近を勢力範囲に取り込んでいました」

「そうですか。それは良かった。特に怪我などはないでしょうか? 危険はありませんでしたか?」

「はい。なんの問題もありませんでしたよ。ご心配ありがとうございます、アルス・バルカ様」

「……なにか、気になることでもありましたか? ちょっと様子が変ですが」

「いえ、そんなことはありません。ですが、見学していたリード軍について少々思うところがありまして……。カイル・リード様はあの若さで軍を率いて何度も戦場に出ておられたのですよね? いつも、あのような戦いぶりなのでしょうか?」

「え? いつもと言われても今回どうしていたか知らないのでなんとも。ただ、そうですね……。カイルは個人としても強いのですが、どちらかと言うと指揮官として強いですね。私やバイト兄のように自分が前に出て戦う姿を見せるよりは、命令して軍という組織を使って戦うって感じでしょうか」

「……なるほど。実ははっきりと申し上げるとよくわかりませんでした。今回のリード軍についていき、その戦いを拝見しました。ですが、リード軍が強いのか弱いのか、私にはわからなかったのです」

「わからない? リード軍は勝ったのですよね? 盗賊相手に、特に問題もなく、危険な目にも遭わないで」

「はい。ですが、私から見ていると、それはあまりにも簡単に終わってしまったように見えたのです。まるで、何一つ障害なく、ただ軍を移動させて相手の拠点にたどり着き、お互いが戦力を出し合って戦った。ですが、何事もなく、いつの間にか勝っていたという感じで……。正直、リード軍がどう強いのか、いえ、語弊があるかもしれませんが盗賊たちが弱すぎたのではないかと思ってしまって」

ああ、なるほど。

どうやら、リード軍と盗賊たちを見て彼女はそう感じたのか。

何一つ大きな動きも、派手な展開もなく、普通に勝利した。

だからこそ、ミリアリアはわざわざ軍についていって戦いを見学したにもかかわらず、リード家の力を見極めることができなかったのだ。

だが、これは単純に盗賊たちが弱かったというだけではないと思う。

なにせ、もともとは全員魔法を使えるという荒くれ者達で、他の貴族や騎士が手を焼いていたくらいだからだ。

であるというのに、盗賊たちが弱く見えたというのは、カイルの戦い方そのものがかなり変わっているからだろう。

というよりも、うますぎる、というべきなのかもしれない。

これまで、従来の戦い方とでも言うべきセオリーがこの世には存在した。

貴族は軍を用いて戦をする。

その際は、貴族が自分の配下の騎士に号令を出すのだ。

それぞれの騎士に農民たちを集めさせて軍団を作り上げ、戦場へと向かう。

それはつまり、貴族軍というのは複数の小さな騎士の軍の集まりでもあった。

当たり前だが、機械などで遠距離通信する技術もない。

なので、そんな騎士が率いる小集団をまとめ上げて貴族が戦う場合は指揮官として大雑把な命令を出すくらいだったのだ。

例えば、フォンターナの祖王であるカルロスならフォンターナ軍の中のバルカ軍は西に行って戦え、と命じるくらいしかできなかった。

あとは、そのバルカ軍の行動はカルロスではなく俺がその場で判断して動いていたに過ぎない。

だが、リード軍は違う。

カイルが率いているリード軍は現状5000ほどの数しかいない。

が、その全てに魔法を授けているのだ。

カイルの魔法を、リード家の魔法をだ。

つまり、軍を構成する兵全員が【念話】や【並列処理】という魔法を使える。

そう、それは要するにカイルは軍を構成する兵全員に対してリアルタイムで同時並行的に命令することが可能なのだ。

それこそ、行軍するだけでも誰も遅れることのないように細かに指示を出して軍を動かしている。

ミリアリアは今までそんな軍を見たことがなかったはずだ。

カイルの意思のもと、5000人の兵が無駄なく、トップの思考から出された命令を完遂するために手足となって動くその姿は一個の生物であったに違いない。

そして、もちろんそんな軍を動かしているカイルの頭脳は優秀だった。

戦って、勝つ。

その目的のためにどう動くべきか、それも自分たちの被害が最小限に、あるいは最短で戦闘を終わらせるためにどうすべきか、相手の動きも含めて全て計算できているのだ。

なので、リード軍と盗賊の戦いは非常にあっけないものだったに違いない。

まるで世界チャンピオンクラスの格闘家とド素人が戦ったときのように、あるいはチェスのチャンピオンとそのへんのアマチュアが戦ったときのように。

なにがどう、強いのかさえわからないままに戦闘が終了してしまったのだろう。

結果だけをみれば、リード軍はほぼ無傷で勝利したらしい。

そのために、ミリアリアもリード軍が強いらしいことはわかった。

だが、派手な応酬もなく淡々と処理して勝利を得たことで、その凄さがわからなかったのだ。

まあ、カイルの戦い方は言ってみれば玄人好みというやつなのだろう。

多分、今まで戦場で指揮をとった優秀な者であればあるほど、その戦いぶりを外から見ていれば驚いたに違いない。

が、教会の大司教という立場で聖都にいたミリアリアではそれが全く理解できなかった。

リード軍についていって戦いぶりを見させるなら、解説役でも用意したほうが良かったのかもしれない。

俺はミリアリアの話を聞いてそんなことを思ってしまった。

だが、そんなことをする暇もなく、カイルはそのまま転戦を続けて各地の盗賊たちを討伐し、服属させ続けていったのだった。