軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未然の対策

「わ、私は反対です、アルス・バルカ様。いくらパウロ教皇と距離が離れた者が教会組織内にいたとしてもです。それを取り込むために教会を二つに割るのは反対です」

「二つに割るのではありませんよ、聖女様。あなたがこの聖地で新しい教会を作るのです。既存の教会を二つに割るわけではありません」

「何を言っているのですか。教会というのはたった一つしか存在しないものなのです。それが二つあるというだけでおかしいではありませんか」

「いえ、違いますよ。それは違います、聖女様。あなたは自身が知っている世界が狭いだけだ。この世には無数の宗教が存在し、そして、それらによって教会組織が乱立している。教会というのはいくつあってもおかしいものではありません」

「う、嘘を言わないでください。教会はずっと一つでした。二つと存在しないものです」

「いいえ、違います。現に東方では複数の教会があります。そして、それらはそれぞれ共存しながら社会を形成しているのです。聖女様が新しい教会を作っていてもなんらおかしなことはありません」

「と、東方? あなたが行ったという大雪山の向こうの世界ですか? し、信じられません」

ふむ。

思った以上にミリアリアの抵抗が強いな。

おっとりした雰囲気の彼女にしては、かなり強い口調で抗議してくる。

教皇になりたいと思っているのではないかという俺のプロファイリングは外れたのかもしれない。

彼女が教皇になりたいと願っているのであれば、この話に乗るのではないかとも思っていたのだが。

いや、彼女はまだ知らないのかもしれないな。

神であるアイシャが【神界転送】という魔法を封じたことで、もう彼女がどれだけ魔力を高めようと最後まで位階が上昇することはなく、故に教皇にはなれないということを。

すでに使用できる魔法で位階の上昇を判断して教会内部で昇進するという仕組みは今までとは違ってしまっているのだ。

そう思ったからこそ、俺はミリアリアにそのことを伝えることにした。

「そ、それは本当ですか? ……いえ。それが本当であったとしてもです。たとえそうであっても、教会を新たに作るというのは反対です」

「どうしてですか? というか、現実的に考えてもパウロ教皇についていかなかった者がいる時点でいずれはそうなる可能性もあると思います。いえ、現に地方ではその動きもあるのですよ」

「まさか、そんなことが……」

「本当です。パウロ教皇によって各地の有力司教が大司教待遇で北に集められました。そして、戦禁止令を出した。その命令を聞けない統治者がいる土地からは教会を引き上げると言ってね。それを聞いて、独自に教会を設立しようと画策している者たちはもういるのですよ」

「な、なんということ……。ですが、そうだとしても私は反対です」

「ふーむ。分かりました。では、こうしましょうか。南方教会の設立は白紙に戻しましょう。ですが、この聖都跡地で聖都を復活させるにはどうしても王都圏や南部地方にも顔の利く聖女様の力が必要です。ですので、やはりあなたがここで復活した聖都を導いてほしいのですが」

「わ、分かりました。教会を二つに分けないというのであれば、謹んでお受けいたしましょう」

「ああ、ですが、こちらも譲歩したのですからちょっと聞いてほしいお願いがあるのですが……」

「な、いい加減にしてください。次は何を言うつもりなのですか?」

「いえ、別に無理難題を言うつもりはありません。ただ、念書を書いてほしいだけですよ。復興した聖都を管理運営する責任者として、フォンターナの街にある教会本部の教皇の意思決定には必ず従う、と。新たに独自の教会組織を作り上げることはなく、きちんと教会本部の指示を仰ぐことを約束した念書の提出をお願いいたします」

「あ、え、はい。わかりました。それであれば、いくらでも」

さっきまではきれいな顔を真赤にして怒っていたミリアリア。

だが、俺が最後に出したお願いが予想外だったのか、すぐに返事ができなかった。

が、俺のしたお願いは先程までミリアリアが主張していた内容を踏襲したもので、いわば彼女が言ったことを書面にしてほしいというだけのものだ。

これを彼女は断ることはできない。

どうやら、話はうまくまとまったようだ。

カイルの領地獲得の話が出て、それを狙うために聖都近郊にも手を出すことに決まったときに一番頭を悩ませたのが教会との関係だった。

フォンターナ王国に集結させて再結成した教会組織は今のところパウロ教皇のもとで一本化できている。

バルカ銀行が貸し付けたお金を使って聖都が滅んだ直後に動いたからこそ、教会組織は崩壊せずにすんだとも言える。

だが、その内実はまだ完全に安定しているとは言いづらいものだった。

基本的に教会組織の仕組みは神界や聖都が失われた時点で修復不能になっているのだ。

それを無理やりくっつけて、なんとか維持しているだけに過ぎない。

だというのに、今でも教会関係者やあるいは各貴族や騎士、そして一般人からも特別な聖地であると認識されている聖都が復興したとしたら、どうなるだろうか。

やはり、教会の一番の本拠地は聖都である、となりかねない。

が、そうなった場合、教会組織を再び聖都に戻すのかという問題にぶち当たる。

ドーレン王家の王都の近くにあり、今は覇権貴族であるラインザッツ家が支配しているとされる場所に教会組織が戻ることを止められるのか?

そうなった場合、フォンターナ王国やバルカと教会の関係はどうなるのか。

全く未知数だった。

だからこそ、聖都跡地を空に浮かべるという無茶をして、人々が信仰する聖地を物理的に他の勢力と切り離した。

そして、その聖都は、あるいは教会はどうあるべきかを今のうちに規定する。

聖都の管理者候補であるミリアリアが認めるのだ。

教会の本部はフォンターナの街にある、と。

そして、そのフォンターナの街にある大教会にいる教皇こそが聖都の管理者に対する命令権を持つ存在だと。

ちなみに念書の署名はミリアリアの名前でもあるが、役職が聖都の統括管理者として、となっている。

なので、もしも彼女が亡くなり、他の者に引き継がれてもこの念書の効力は消えたりはしない。

つまりは、今後はずっと教会の本部はフォンターナの街にあり、そこでの最高役職の教皇こそが聖都の主なのだと、今この時を以って規定された。

これで、たとえパウロ教皇に従わなかった者が青の聖女ミリアリアを頼って聖都跡地に集まってきても問題ない。

彼女はもう認めたのだから。

教会を二つに割るようなことは絶対にしない、と。

こうして、俺は少々危険な賭けをしながらも、未然に宗派対立が起こらないよう防ぐことに成功したのだった。