軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリアリアの苦悩

なんということでしょうか。

人の心はここまで荒んでしまうのでしょうか。

いえ、そうではありませんね。

食べるものがなければどんなことでも人はする。

そこには善悪はなく、本能が働くのでしょう。

しかし、このような状態に陥ってしまうとは思いませんでした。

聖都や他の街などが神敵ナージャによって【裁きの光】で滅び、そして残されたものへの影響の大きさゆえでしょう。

大量の塩によって周囲の土地は甚大な被害を受けてしまったのです。

いくつかの滅んだ街の近くだけではなく、そこから雨などの影響でより広範囲の土地に塩害が起こったようです。

それにより、農作物の収穫量は大きく下がり、また食料が保管されていた街が消滅したのが社会に深刻な打撃を与えました。

人々は食べ物を求めて争いあったのです。

本来であればこのような事態を解決するのは、その土地を治める権力者でしょう。

ですが、塩害の影響が大きかった土地はナージャによって貴族そのものが殺されていました。

では、次に一番頼れる存在となるのは誰かというと、聖都から距離的にも近くにある王都になるでしょうか。

しかし、ここ数年で王都も他の地域を助けられるほどの力は残っていなかったのです。

東の雄であるメメント家が王都に居座り、その財貨をことごとく浪費し、そして逃走したのです。

貴重な財宝なども持ってメメント軍は自分たちの領地へと引き上げていきました。

そして、その代わりに王都を解放し、覇権貴族となったのはラインザッツ家でした。

ラインザッツ家はなんとしても荒廃した王都を救済しなければなりません。

もしも、なんの手立ても打たずにいれば、メメント家から王都圏を救い出したはずの自分たちが現在の貧困の責任を負うことにもなりかねなかったからです。

このような事情から、覇権貴族になったラインザッツ家は王都圏救済に大きな支出をしていたのです。

そこにきて、さらに聖都やいくつもの貴族領の崩壊。

それをすべて救うにはいかにラインザッツ家であろうとも困難を極めました。

ラインザッツ家の対応は後手に回ってしまいました。

聖都跡地の近郊はまだそれでも良かったのです。

ですが、聖都以外の滅んだ貴族領は満足に救済されなかった。

それは、後から考えると大きな間違いでした。

なぜなら、その地には数多くの魔法使いの存在があったからです。

ナージャによる一連の事態は実はまだ終わっていなかったのです。

ナージャが支配圏に置いていた旧へカイル領や旧ギザニア領などの土地。

そこでは、なんと恐ろしいことに教会の神父までもがナージャの手にかかっていました。

そして、その神父たちが名付けを行った者がその後、いくつもの魔法を使えるようになっていたのです。

複数の貴族が持っていたであろう魔法を使う、食うに困った者たち。

彼らの取るべき行動は非常に単純な理にかなったものでした。

食べるものがなければ他者から奪う、という方法です。

このようにして、周囲には一気に盗賊となった者で溢れかえりました。

そして、これにもラインザッツ家や周囲の貴族たちは対応が遅れました。

いえ、それは彼らの言い分もあるでしょうか。

あまりにも数の多い、しかも魔法までもを使うたちの悪い盗賊の対処は困難を極めたのです。

こうして周辺地域は一気に殺伐とした地獄のような状況に変わっていきました。

力のある者が糧を得る。

力がない者がそれに対抗するには徒党を組むほかない。

そうして、いくつもの盗賊団とでも言うべき組織が出来上がりつつ、さらにはその複数の盗賊団同士で食料や物を奪い合う事態にまでなってしまいました。

本来は食べるものに困っただけのはずのごく普通の人々。

であるにもかかわらず、いつしか、力を持つ者や組織が富を独占しようと動き始める。

こうなると困るのは力のない者たちです。

特に身寄りのない子どもや女性などは、盗賊団にいいように利用されるだけの存在になりつつありました。

私はそれをなんとしても止めたかった。

なので、聖都の跡地の近くで居を構え、そのような子どもたちを集めたのです。

盗賊団も大司教たる私や私が保護している者には手を出しはしませんでした。

なんといっても、【回復】などができる存在は彼らにとっても必要だったからです。

ですが、それも今後どうなるかわかりません。

私は入り乱れるように乱立し、争い合っている人々をうまく制御下に置けないだろうかと思案していました。

その時、一人の子どもが言ったのです。

聖都跡地で植物が生えている、と。

それを聞いた時、私はありえないと思いました。

聖都は一番塩害の被害がひどい場所で草一つ生えないと考えていたからです。

ですが、何人もの子どもたちが言うので自分の目で見に行きました。

そして、見つけたのです。

塩草という奇跡の植物を。

この塩草は土地に影響を与えている塩を除去する働きがある。

さらに、うまく使えば盗賊団を掌握するための武器ともなり得る。

塩草を見た瞬間、私の中で悪魔の囁きが聞こえた気がしました。

かつて、神の使徒が愛用したとされる媚薬を使って、周囲で勢力のある組織を取り込めるのではないか、と。

食べ物と金銭を求めた者たちが、次に欲するのは異性でしょう。

であれば、この塩草は禁断の果実となり得る。

一度使えば、他では満足できないほどの虜になると聞いたことがあるからです。

そして、私のもとには行き場のない女性たちもいる……。

ですが、このようなことを考えたことにバチが当たったのでしょうか。

何度目かの聖都跡地での塩草採取を子どもたちとともに行い、いよいよ薬の調合を開始しようかと考えていたときでした。

彼が現れたのです。

深夜、月明かりの下に突然現れた少年。

神秘すら感じそうな真っ白に輝く神獣にまたがり、優しく光る剣を手にしたその少年によって、私は聖都の跡地ごと天へと連れ去られました。

こうして、私は出会ったのです。

神の盾を名乗る少年、アルス・バルカと出会い、そして協力という名の下に私の未来はあっという間に彼の手に握られてしまったのでした。