軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミリアリアの回想

私は夢でも見ているのでしょうか。

今でも目の前のことが信じられません。

というよりも、この一年であったことがあまりにも予想もつかないことばかりでした。

昨年、神敵ナージャによって聖都が滅ぼされてしまいました。

私が今でも生きているのはただの偶然。

その時、本当に運良く聖都から離れていたがために私は九死に一生を得たのです。

その日を境に聖都はこの世から消滅してしまいました。

ドーレン王家だけが使えるとされた、しかも、すでに失われたとも言うべき状態の大魔法【裁きの光】がナージャによって使用されたのです。

聖都にある全ての建物も人も物も、あらゆるものが塩に変えられ、散っていきました。

歴史ある教会の建物も、多くの仲間たちも、貴重な資料も、何もかもが一瞬にして失われてしまいました。

そして、私はそれをこの目で見ることすら叶いませんでした。

聖都の消滅を知ったのは、他の人と同じようにただ聞いていたから。

ラジオを通して、神敵ナージャが聖都に向かっていることと、そしてその少し後に滅んだこと、そして、ナージャがすでに倒されたことを聞いたのです。

ラジオという不思議な装置。

はるか彼方の土地から発信された声を遠隔地に届けるという魔法の道具。

このラジオを使って聖都の消滅を報告したのは、フォンターナ王国が誇る大将軍にして宰相、そして教会から聖騎士として認められたこともあるアルス・フォン・バルカでした。

彼は事前にナージャが【裁きの光】を得たことを知り、そして、聖人として認定されたパウロ大司教とともに聖都へと駆けつけた。

ですが、間に合わなかったと言います。

彼が報告した内容をそのまま信じるのであれば、【裁きの光】によって消滅した聖都では唯一生き残った者がいたそうです。

いえ、それは人とは認められない存在でしょう。

封印されていた不死者の王。

その危険な存在が復活し、そして、なぜか神界へと不死者の王が入り込み、そこに住む神の使徒をことごとく殲滅した後、消息を絶ったそうです。

そして、その不死者の王によって同じく不死者となったナージャを倒したことで、アルス・フォン・バルカとパウロ大司教は北へと戻っていったのだと言います。

その後、彼らはフォンターナ王国で教会の再編を訴えました。

そして、それは実行されました。

各地にいる残された教会関係者のなかでも位階が高く、人民の信頼も厚い者をすべて北へと集結させたようです。

位階を上昇させたパウロ大司教が新たな教皇となって教会を立て直す。

そのことを訴えた使者は私のところへもやってきました。

莫大な金銭的支援も約束する手形を持ってです。

おそらくは、他の者たちにも同様のことをしたのでしょう。

既存の情報網が一切役に立たなくなってしまった状態ではどこも教会の持続的な運営に不安を抱えていたことでしょう。

そんなときに、目の前に大金を用意されたら普通はそれに釣られてしまう。

ですが、私はそれに釣られて北へと赴くわけにはいきませんでした。

なぜなら、私はかつて亡くなられた教皇によって話を聞いていたからです。

教皇だけが使える【神界転送】という魔法と、神界からの帰還方法についてを。

空に浮かぶ天空の楽園。

そんな呼ばれ方もする神界へと行けるのは、教皇へと位階を上げた者だけが使える【神界転送】という魔法です。

その魔法を発動すると魔法陣が展開し、そこから神界へと移動することが可能となります。

ですが、その神界から地上へと戻るときにはまた少し移動方法が違ったのです。

神界に用意された転送部屋。

そこで床に設置された魔法陣に魔力を送り込むと地上へと帰還することができるのです。

その帰還場所は聖都でした。

なぜ、聖都に帰ってくるのか疑問だった私は以前教皇へ尋ねたことがありました。

そのとき、本来は秘密であるという情報にもかかわらず、いずれ私が教皇になるであろうと皆から認識されているという理由から教えてくださったのです。

聖都の地下にあるものの存在を。

迷宮の核と呼ばれる超高純度の魔石。

それが聖都という巨大な街の地下奥深くにあるのだそうです。

そして、その迷宮核こそが神界から地上へと帰るための鍵となっているというのです。

大司教となって以来、この聖都に居を構えていましたが今まで全く知りませんでした。

この地の地下にそのようなものがあるとは考えもしていなかったのです。

ですが、これを知っているのは私だけ。

おそらく、パウロ大司教やアルス・フォン・バルカなどはその事実を知らないに違いありません。

彼らが北に教会組織を再建したいと考えるのは分かります。

しかし、それでは意味がないのです。

神界から地上へと帰るには、聖都という場所こそが重要なのだから。

私は新たに新教皇を名乗るパウロ大司教からの要請をやんわりと断って、聖都近郊に戻ることに決めました。

なんとしても、この地に聖都を再建する必要がある。

そうしなければ、真の意味での教会の復活はあり得なかったからです。

ですが、私は知らなかったのです。

すでに、聖都には本当になにも残っていなかったということを。

塩に変わった地面の更に奥深くにあるはずの迷宮核が盗み出されているということに気づかなかったのです。

教会の真の宝というべきものはすでに盗み出されていました。

そして、その真犯人は誰か。

私はこのとき、その人物について見当もついていなかったのです。

ですが、その人物の行動によって、私の人生はその後、大きく変えられていくことになるのでした。