作品タイトル不明
ミリアリア
「キュー」
「ん、そうだな、カイザーヴァルキリー。誰かいるっぽいな」
ゆっくりと浮かび上がる聖都の跡地。
だんだん、高度が上がっていく中でだんだんと人の気配がしてきた。
と言っても、人の声が聞こえたわけではない。
ただ、そこかしこで人の動く気配が感じられていた。
これはどういうことだろうか?
かつて、聖都として栄えた場所はナージャによって【裁きの光】を使われて滅んだはずだ。
建物も人もまとめて塩に変えてしまうという恐るべき魔法。
それが使用されたことで聖都は何も無くなっている。
塩に変わった部分はその後の雨や風で散らばってしまっているので、現在は塩が無くなってむき出しになった地面だけというわけだ。
といっても、【整地】を使ったように真っ平らに均されているわけでもないようで、地面には凹凸があった。
俺が今立っている場所からは見えない位置で人がいたということなのだろう。
問題はそんななにもない土地で、しかも深夜に人がいるのかということだ。
もはや地上には飛び降りられないくらいに高くなった高度になっており、ここから逃げるには俺が設置した転送魔法陣で移動するか、魔導飛行船に乗るくらいしか方法は無いだろう。
もしも、転送魔法陣に人が集まってきても困るので、軽く調査しておくことにした。
「追いついた。動くな。動けば攻撃する。許可なく喋ることも許さん。両手を挙げて頭につけろ」
カイザーヴァルキリーにさっと騎乗して、俺は人の気配がする場所へと向かった。
それを見ていたのか、俺が近づこうとしていた者が逃げ出そうとする。
が、カイザーヴァルキリーの速さには到底及ばないようで、すぐに追いついた。
あまり魔力量が多くはない、おそらくはただの一般人のようだ。
しかし、何があるかわからないため俺は光の剣を抜きながら、相手に話しかける。
「子ども? しかも、何人もいるのか。おい、そこのお前、俺の質問に答えろ。ここで何をしていた?」
「…………」
「質問に答えろ。ここで何をしていたんだ?」
「……塩拾いだ、です」
「塩拾い? なんだそれは? なんでこんな夜中にここにいた?」
カイザーヴァルキリーの上から光の剣を向けながら俺が話しかけている相手はどうやら子どものようだ。
そこにいたのは3人の子どもだった。
見たところ、あまり着ている服はいいものではなさそうだ。
なんでこんなところに人が、それも子どもがいるのだろうか。
しかも、塩拾いなどというよくわからないことを言っている。
「俺たち、ここで塩を集めて売っている、です。悪いことはしていない、です」
「ここに塩なんてもう無いだろ?」
「嘘じゃない、です。これに塩がついています」
そう言って子どもが手に持っていた何かを向けようとしてくる。
動くなと警告をしていたので思わず反撃しそうになったが、危害を加えてくるようでもなかったので様子を見る。
どうやら、その子は手になんらかの植物を持っているらしかった。
「塩草、です。この草は根っこに塩を貯めるから、それから塩を取るんだ、です」
「へえ、そんな草があるんだな。死の土地って聞いていたから何も生えないのかと思ったが、そうでもないのか。まあ、それはとりあえず預かっておこうか。お前ら、ここで塩拾いしているのは3人だけじゃないだろ。誰かがお前らを取りまとめているな。そいつは今、ここらにいるのか?」
「…………」
「答えたくなかったら答えなくてもいいぞ。その場合、もう二度と地上には戻れないかもしれないけどな」
「えっ……、うん、わかった。あの、案内、します」
どうやら、ここで塩を溜め込む性質を持つ植物を集めている連中がいるらしい。
まさか、すでに滅んで建物すらない場所でそんなものを集める者がいるとは思いもしていなかった。
だが、こいつらにこのままここにいてもらっても困る。
一応、ここはリード軍の前線基地となる予定なのだから。
そこで、こいつらを仕切っているリーダーのもとに案内させることにした。
少年が案内するといって先導し始めたので、その後についていくことにしたのだった。
※ ※ ※
「恐れ入ります。この子たちのまとめ役となっているミリアリアと申します」
「教会の方ですか。驚きました。その魔力量であれば司教、いや、大司教相当ではないですか? なぜ、そのような人がこんな場所で子どもたちに草抜きをさせているのでしょう」
「あら、こんな場所とは心外ですわ。ここは滅びたとは言え聖都であることに変わりありません。そこに私のような教会の関係者がいるのはおかしなことではないのではありませんか?」
「時と場合によるでしょうね。しかし、ミリアリア、ですか。聞いたことがありますよ。青の聖女と呼ばれる方がパウロ教皇の呼びかけに応じずに在野にいる、と。こんなところにいたのですね」
塩拾いの子どもたちが案内した先にはすでにほかの子どもたちが集まっていた。
どうやら、俺が思っていた以上に子どもの数がいたようだ。
そして、その中心には一人の女性がいた。
彼女が少年たちのまとめ役のようだ。
ほかの子たちとは違い、きちんとした身なりをしている。
きれいで長いさらりとした青い髪。
そして、ゆったりした教会の女性服でも隠しきれないほどの出るところが出て、引っ込むところが引っ込んでいるスタイルの良い体。
左目のところにいわゆる泣きぼくろがあり、なんとなくおっとりした雰囲気の20歳代前半の女性。
そんな特徴的な肉体で教会関係者というと有名な人物が一人だけいた。
パウロ教皇が教会トップに立つ前の、聖都が滅びる前の段階で、もっとも教皇に近いと言われた青の聖女と呼ばれる存在。
かつて、次期教皇と目された聖女ミリアリアがそこにいたのだった。