軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

居住地問題

『な、な、なんですか、ここは……』

『なにって、ここはバルカニアですよ、シャーロット様。一度来たことがあるでしょう?』

『……ここが? 本当に同じ場所ですか、アルス? あなたに以前連れてこられたときにはこのように空の上に浮かんでいるということはなかったはずですが。いえ、あのときはこのように上から見下ろしたわけではなかったですが……』

『ああ、そうでした。あのときはまだバルカニアは地上にあったんでしたっけ。今はバルカニアという街そのものを空に上げて天界と呼ぶようになったんですよ』

『……空に? どうやって? まさか、天空城のように城を支える地面そのものが浮いているのですか?』

『さすが理解が早いですね。その通りです。街まるごとを浮かび上がらせるようにしているんですよ』

『そ、そうですか。街を……。カイル様、わたしはあなたの兄がちょっと理解できません』

『大丈夫だよ、シャーロット。アルス兄さんがなにをし始めるのかはボクたちも皆わかっていないから』

東方で結婚式を終えたカイルたちを魔導飛行船に乗せて帰路についた。

天空城バリアントへと戻り、そこで転送魔法陣を使ってバルカニアへと移動する。

そして、その到着時にそのまま降りずに一度ひとっ飛びしてバルカニアを上から見せたのだ。

それによって、バルカニアが空に浮いているということについてシャーロットや側仕えたちが気がついたらしい。

魔導飛行船の中は驚きの声で溢れていた。

天界であるバルカニアは空に浮いている。

これは事前に説明しておく必要があった。

というのも、バルカニアは一辺8kmほどの壁で囲まれた城塞都市であるが、その外にも数kmほど土地がある。

そして、その地面の端まで行くと足元を支える大地はなくなり、空から地上に落ちる可能性もあるのだ。

シャーロットたちがなにも知らずに街を出て地上に真っ逆さまになるようなことがあってはならない。

なので、こうして実際に自分たちの目で見られるように魔導飛行船で街の上を飛び、地面が無くなる端っこまで来たのだった。

一応、そこで降りてもらってそれが現実のものであると確認してもらう。

雲が地面の下にあり、その雲の切れ間からは地上も見えている。

落ちていた石ころを投げて落とすと、全員が落ち続ける石を見て言葉を失っていた。

『と、まあ、こんな感じです。このように天界の端まで来ると風も強いのもわかっていただけるかと思います。強風で煽られて落ちてしまうという悲しい事故が今まで何件かあったのでご注意ください』

『わ、分かりました。伴の者たちには絶対にこのような場所に近づかないように私からも言い聞かせておきます』

『そうですね。シャーロット様からも念押ししていてもらえると助かります。では、もう一度魔導飛行船に乗り込んでもらいましょうか。バルカ城へ戻りましょう』

その後は再び空を移動して城へと戻る。

と言っても、フォンターナ王国での二人の結婚式はバルカニアでなくフォンターナの街で行うことになっている。

なので、しばしの休憩を入れてから今度は地上へと降りることになるだろう。

バルカ城へと戻ってきた俺たちはシャーロットをリリーナや他の者に紹介し、束の間の休憩を取ることにしたのだった。

※ ※ ※

『え、私たちはここで暮らすわけではないのですか?』

『違いますよ。シャーロット様には地上に住んでもらいます。フォンターナの街にあるリード家の屋敷でね』

『ちょ、ちょっと待ってください。それでは私はあなたと会えなくなるではありませんか』

『それは当然でしょう。いくら私がカイルの兄であるとはいえ、その妻であるシャーロット様と気軽に会うのはまずいですよ』

『そ、そんな……。困ります。あなたにはまだまだ聞きたいことがたくさんあるのです』

『まあ、一生会えないわけではないので、落ち着いたら話し合いの場を設けましょう。ブリリア魔導国との交換留学の件もありますしね』

シャーロットは結局フォンターナの街に住むことになった。

最初は俺もバルカニアでいいかと思っていたが、周りの者と話し合った結果、フォンターナ王国の首都に居住することに落ち着いたわけだ。

それはやはり、シャーロットが他国の王族であることが関係している。

血筋というのは俺が思っている以上に重要なものであると認識されている。

かつて貴族家だったフォンターナ家が独立し、国を興す際にも過去にドーレン王家の血筋が入っていることを理由に王を名乗ったことがあった。

基本的には王になれるのは王家の血が流れる人間だけなのだ。

もし、あの時俺が自分で王を名乗るようなことがあれば、それはただの僭称者として周囲から人が離れていったことだろう。

そして、ブリリア魔導国の王族であるシャーロットのこともまた同様に重要視される。

かつて、繁栄を極めたドーレン王国はそのルーツを辿れば東方へと行き着くと言われている。

さらに、ドーレン王国の初代王の妻であるアイシャが用いた魔法陣の技術も東方由来のものだ。

その魔法陣をこちら側よりも使いこなすブリリア魔導国は、いわばかつて全土を統一した王家の起源であるとも言えなくもない。

そんな歴史ある高貴な血筋を持つシャーロットが、フォンターナ王国の国王であるガロードではなくリード家の当主カイルと契りを結んだ。

そのシャーロットが首都ではなく、バルカニアという空の上に住んでしまえば何かと問題があるかもしれないという話になったのだ。

言ってみれば、国王を無視して他国の王族の血を入れて謀叛を起こそうとしているのではないか、という疑念が出てしまう可能性も少なからずあった。

ゆえに、シャーロットの住む場所はバルカニアではなくフォンターナの街にする必要があったのだ。

だが、どうやらシャーロットのほうはバルカニアに住む気満々だったようだ。

この天界に住めないと聞いてショックを受けている。

もう数日だがバルカ城で滞在してこの場所の暮らしを気に入ってくれたということだろうか。

それはありがたいが、残念ながらここに置いておくわけにはいかない。

こうして、未練がましくバルカニアにいると主張するシャーロットを魔導飛行船に乗せ、結婚式の準備が調ったフォンターナの街へと降りていくことにしたのだった。