軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

究極の研究

「こうなると、依り代の完成度をもう一段階引き上げたくなるな」

俺が神の依り代となる魔導人形を見ながらそうつぶやいた。

今目の前にあるこの依り代はいろんな人間の手によって形作られている。

最初の原型は東方でブリリア魔導国が開発した魔装兵器という岩の巨人だった。

その岩の巨人を手に入れた俺がグランに解析を依頼したところ、グランは小型の魔装兵器を独自に作り上げた。

この時、カイルも協力して魔装兵器に用いられている魔法陣を解読した。

そして、その魔法陣解析と魔装兵器の製造法を基に、俺が用意した精霊石から魔導人形が作られるに至った。

このときはまだただの等身大の岩の人形という程度だが、神アイシャからの依頼で「もっとかわいく」という要望が寄せられたのだ。

ここで、依り代としての研究が始まった。

この依り代をかわいくというのは、リリーナからの意見もあり、トータルコーディネートを兼ねた美しい肉体とそれにあった服が神の本当の願いだったと気づく。

そこで、リリーナが推薦する彫刻師などにも依頼して衣服を着る際にもっとも映える美しい女性の姿を追求することになったわけだ。

だが、悲しいかな。

俺や技術者のグランにとって、そこまでの感性はなく、どちらかというと機能美こそが重要だとしか思えなかった。

なので、俺とグランは依り代の外見ではなく機能性をあげる努力をすることになったのだ。

そこで出した解答が球体関節人形だったわけだが、これは外見を重視するリリーナ陣営からはことごとくダメ出しをされた。

しかたがないので、今回手に入れたゴムを利用して人工皮膚のようなものまで作り出し、硬化レンガでできた魔導人形にスキンとしてかぶせることにしたのだった。

この皮膚に見間違えるスキンのおかげで、今までよりもかなり依り代の印象は良くなったように思う。

なにせ、今までは白っぽい硬化レンガだとはいえ、外見からもなんとなく硬い印象を受けざるを得なかったのだ。

しかし、このスキンのおかげで透き通る美肌をもつ人形に見えるようになったのだ。

しかも【合成】の材料のひとつにスライムを用いたからか、実際に触るともちもちの肌にもなっている。

これはかなり画期的なことだと言っていいと思う。

そして、そのスキンの上からリリーナやクラリスが化粧を施したのだ。

それまでは、熟練の彫刻師たちが岩を削って表現していた神の顔のパーツである眉毛やまつげ、唇などがあった。

だが、それに眉を描き、アイラインをひいて、口紅を塗るとどうだろうか。

それまでのどこか冷たい印象を受けていた彫刻が一気に血の通う女性の表情として浮かび上がってきたのだ。

この表情があるかないかで、更に服を合わせたときの印象も大きく変わる。

それは間違いない。

ないのだが、そこまでいくともう一つどうしても外せない要素があった。

髪の毛である。

人体の美しさを表現する際に一番重要になるのは体全体のシルエットだ。

時代によって求められる体型は異なるかもしれないが、古代ギリシアでは「美しいものには神が宿る」などと考えられていたそうだ。

そのため、フリュネという女性が裁判で負けそうになったときなどは弁護人であるフリュネの恋人が彼女を裁判官の前で裸にさせると、その肉体の美しさに裁判官たちは感動し涙を流して彼女を無罪にしたという話すら残っているくらいだ。

だが、この人体のシルエットは何も体型だけが問われているのではないだろう。

人の体の造形に大きな影響を与えているものは他にもある。

それが、頭から伸びる髪の毛なのだ。

髪型は見る者に与える影響がかなり大きい。

しかし、そう考えるとこの依り代はどうだろうか。

彫刻師が岩を彫り表現したものを利用しているため、髪の毛も岩を彫ってできている。

最初は別にこれでもいいかと思っていた。

だが、これほどの美白の肌を持つ人形の髪の毛が岩を彫ってできているというのは、なんというか非常に違和感を感じざるを得なかったのだ。

なので、これをどうにかできないかと考えたわけだ。

「と、いうわけだ。なんとかしろ、ミーム」

「これはこれは、我が同志は急に無茶を言ってくれるね。人工培養した皮膚を使ったと思ったら、今度は髪の毛を作れとくるとはね」

「別に無理ではないんじゃないのか? 髪の毛は皮膚の一種だろ?」

「ほう。やはり、同志は他の者とは一味違うようだね。そうだね。ほとんどの人は髪と肌は全く別のものだと理解しているようだが、そうではない。実際はまさに表裏一体の関係にあるといえるのだよ。私がこれに気がついたのはまさに我が同志が白い犬の魔物を増やしたからこそだ。どうして、あのような方法で黒ではなく白の犬人が生み出されるのか。私はそれに大いに興味を持ったのだよ。そして、そのための研究を――」

「ちょい待て。その話は今度聞こう。今、俺が言いたいのはミームに神の依り代のための髪の毛を作ってほしいということだ」

「ふむ。だが、ただ体となる素体に髪がほしいだけならば簡単ではないかね? かつらをかぶせればそれで事足りるはずだよ、我が同志」

「そうだな。目的を達成するだけならかつらでもいいと思う。けど、それじゃ駄目だ。神アイシャはおしゃれをしたいと望んでいるんだ。そして、おしゃれの基本は変化をつけることだ。それは服を取り替えることだけじゃない。髪型も変えたいと願うだろう。あくまでも自然な形でね」

「なるほどなるほど。つまり、我が同志はこう言いたいのだね? 神の依り代に生きている人間のように毎日少しずつ伸びてくる髪がほしい、と」

「そういうこと。どうだ、できるか、ミーム?」

「ふむ。非常に難しい仕事だね。だが、いいだろう。同志たちは私の開発した人工皮膚を改良したというではないか。ならば、私もやってみよう。永遠に生え続ける髪の毛の開発を」

「……なんか、俺が要求しておいてすごい代物だな。開発に成功したら頭髪に不安を抱えるオジサマがたの大人気商品になりそうだな」

こうして、俺の思いつきからミームに新たな依頼をすることになった。

多くの男性が悩み苦しむ事態を無くすことができるかもしれない究極の研究が今、始まったのだった。