軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依り代改良

「うーん、服の品評会はあれでいいとして……。あ、いたいた。おーい、グラン」

「アルス殿でござるか。どうしたでござるかな?」

「いや、前に頼んでいたゴムはどうなったかなと思ってな。集めてきた樹液でいろいろ試してくれているんだろ?」

「ああ、あれでござるな。とりあえずは完成したでござるよ。樹液を集めて固まるようにできているでござる。アルス殿が言っていたように、きちんと伸びるでござるよ」

「おお、本当か。すごいな。もうできたのか。仕事が早くて助かるよ」

服の品評会の話をリリーナとした後、俺は天界にいたグランと会った。

そこで、西で手に入れてきた樹液の研究についての進捗を聞いたのだが、思った以上に早く結果が得られていたようだ。

グランから一枚のゴムシートが手渡されたのだ。

そのゴムシートを引っ張ってみるときちんと伸びる。

たぶんこれはゴムで間違いないのだろう。

それにしても予想以上に簡単にゴムを作り上げたのに驚いた。

見たこともない素材を使って、今までにない物をつくる研究を言い渡したのだからもっと時間がかかるものだと思っていたのだ。

だが、そのゴムシートの作り方をグランから聞いて納得がいった。

どうやら、既存の手法を利用してみたらすぐにうまくいったのだという。

グランがゴムを作るに当たって利用した方法というのは、紙作りだったそうだ。

木の繊維から紙を作る作業。

その作業をそのままゴムづくりに用いてみたという。

まずは西で採取して集めてきた樹液を固形物や不純物が混じった状態から濾過してきれいにしたという。

そして、その不純物を取り除いた樹液に【洗浄】をかけてさらにきれいにする。

で、【洗浄】された樹液に北の森で採れる少量の毒が混じった芋をすりつぶしたネバネバの汁を混ぜ込み、さらに魔力回復薬も投入する。

これは紙作りでも行っていた作業で、紙ならば非常になめらかな高級紙のような出来栄えにする効果がある。

ゴムシートを作る場合にはこの工夫をすることで均一に樹液が固まりやすく、最終的にはよく伸びて、しかも切れにくいようになるそうだ。

混ぜた液体を型枠に流し込んで凝固させシート状にする。

そのシートをしばらく干すとよく伸びるゴムシートが出来上がったというわけだ。

まさか、紙作りのときの苦労がここで活用されるとは思ってもいなかった。

人生何があるかわからないものだと思ってしまう。

「それで、このゴムシートをどうするつもりなのでござるか、アルス殿?」

「そうだな。とりあえず考えているのは車輪につけられるタイヤでもできないかと思っているんだけど、今欲しいのはちょっと違うかな。このゴムシートをなんとかして依り代につけられないかなと思っているんだけど」

「依り代にでござるか?」

「うん。前の球体関節人形のは職人たちに不評だったからな。関節部分を隠せる方法がないかと思っていたんだよ」

神の服を選ぶための品評会。

その審査の合格基準は、神の依り代に合う服であるかどうかだ。

が、そもそもの話だが、神の依り代たる魔導人形はいまだ不完全な状態だと言える。

俺とグランは魔導人形を作るときに、アイシャがより体を動かしやすいようにすべきと考えて関節に球体を利用する球体関節人形にしてみてはどうかと考えていた。

が、この考えはリリーナやクラリス、そして、彼女たちが仕事を依頼した彫刻師たちからことごとく反対された。

美しくない。

それが反対派に共通する意見だった。

球体関節人形は当たり前だが関節部分が丸い玉になっていて、それが露出して見えている。

だが、神の体を作り上げるという仕事に邁進せんとする彫刻師たちは、自分たちの作り上げようとしている理想の彫刻像の関節に不格好な球状の物体を埋め込み、あまつさえ外から見えたままにするなど到底許されることではなかったらしい。

しかし、実際に作ってみたところ、彫刻師が彫った像のままよりも関節を加工したほうが魔導人形としては動きがなめらかだった。

神が実際に使う体なのであれば日常動作を人間の感覚に近いレベルにまで再現できるほうがいいのではないか。

俺とグランはそう主張したのだけれど、どうにも反対派の美意識の前では球体関節は受け入れられなかったようだ。

そのため、とりあえずで渡している神の依り代は球体関節ではない。

が、こちらも諦めたわけではなかった。

美的感覚としてどうしても人間とは異なる関節機構がむき出しになった状態は許せないというのであれば、それが見えないようにするのはどうだろうか。

そう考えてグランと依り代づくりの研究もしていたのだ。

が、このゴムを見たときにちょっと思うところがあった。

それはよく伸びるゴムという性質を利用して関節を隠してしまえないかというものだった。

「ようするに、アルス殿の考えは硬化レンガ製の魔導人形をゴムで包み込んでしまおうというわけでござるか?」

「正解だ、グラン。どうかな? このゴムならよく伸びるから体を覆っても動きに制限が出ない。それに鬼鎧みたいに精霊石の核の状態から起動に合わせて体を包めるようにできたら邪魔にもなりにくいんじゃないのかな?」

「うーむ。鬼鎧と同じようにできるかはわからないでござるが、まあ、アルス殿が言うなら一度試してみるでござるよ」

「さすがグランだ。話がわかるな。よろしく頼む」

こうして、ゴムがとりあえず完成したというだけの段階にもかかわらず、俺はゴム研究を次のステップへと移行させた。

まあ、俺も自分で言い出しておいてなんだが突拍子もない発想だったと思う。

ゴムで人形のスキンを作る、というのはちょっと難しい気もしていた。

だが、ここでもグランがやってくれた。

見事に魔導人形にピタリとあうスキンを作ってくれたのだ。

どうやらグランはブーティカ家の【合成】を利用したようだった。

完成したゴムシートとスライム、そしてなんと人間の皮膚を【合成】したのだという。

ちなみに人間の皮膚は生きた人間から剥ぎ取ったわけでは決してない。

が、その出処はマッドサイエンティストのミームらしい。

気になったので後でミームに確認したところ、どうやら最近のミームは組織培養にハマっているらしかった。

俺が【回復】で人体の欠損を治すところをみて、魔法で欠損を治せるのであれば魔法以外でも治せるのではないかと考えたそうだ。

そして、ついに皮膚組織の培養までは成功させていたらしかった。

こいつ、俺が知らない間にIPS細胞でも作っていたのだろうか?

ミームはタロウシリーズのクローン技術を知っている数少ない人間で、どうやらそこからもヒントを得たようなのでもしかしたら似たような技術を完成させているのかもしれない。

とりあえず、ミームのことは置いておくとして、グランは限りなく人の皮膚に見える、しかしよく伸びて、しかもスライムのような湿潤かつプルプル肌なスキンを完成させるに至った。

それを鬼鎧のようにヤギのアキレス腱などの素材を使って更に手を加えたところ、着用者にピタリと合う人間の皮膚そっくりのゴムでできたスキンが完成した。

こうして、神の依り代はそれまでの硬化レンガでできたものから、見た目は人の肌を完全再現した肉体へと変わっていったのだった。