軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人類未踏の地

「次は西へ向かうと聞きました。本当なのですか、アルス様?」

「ああ。ちょっと、アーバレスト地区の向こうにあるネルソン湿地帯を越えた先に行ってみようと思っている。悪いな、リリーナ」

「いえ、ですがお気をつけて。アルス様にはこの子が産まれてきたときに顔を見てもらわないといけませんからね」

「そうだな。お腹の子には心配かけられないか。大丈夫。ちょっと行って様子を見てくるだけだから」

魔導飛行船を用いて西へと行く。

海を見るための計画を立てて準備を進めていたところで、天界にあるバルカ城でリリーナに心配されてしまった。

今、リリーナのお腹には新たな生命が宿っている。

たぶん今年中に産まれてくることになるだろう。

身重の奥さんを置いて出かけるのもどうかと思うが、すぐに帰ってくるので許してほしい。

リリーナは以前双子を出産したことをかなり気にしていた。

俺としては全然気にはならないのだが、あまり双子を歓迎しない風習があったためだ。

だが、その双子の両方ともがすくすくと育っていて、アルフォードに至ってはすでに当主の座を継承されている。

そのことがあってか、以前までのようにリリーナが気にすることもなくなり、今回の妊娠についても純粋に喜んでくれている。

生前継承した効果がこういうところにもあり、俺としても嬉しい限りだ。

しかし、出発前にあまりこういうやり取りをしていると変なフラグみたいだなと思ってしまった。

確かに言われる通り、全くの未知の世界なのでなにがあるかは分からない。

慎重に気をつけて、安全第一で行こうと思う。

「よし、それじゃ行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ、アルス様」

こうして、俺は魔導飛行船に志願した者を乗せて、空を西へ向かって飛んでいったのだった。

※ ※ ※

「おい、みろ、バルガス。泥人形がうじゃうじゃいるぞ」

「本当だな、大将。しかし、空から見下ろしてみて改めてこんなに大きな湿地帯だったのに俺は驚いたぜ。どこまで続くんだろうな?」

「わからん。かなりの面積だな。しかも、泥人形以外の魔物も多くいる。あれはトカゲのような人間みたいなやつじゃないか? あ、あっちはもっと大きい魔物もいるぞ」

「いや、そこまで俺は目が良くないぞ、大将。よく見えるな」

「もっと魔力を目にギュギュッと集めて見てみろよ。まあ、しかし、これは人類未踏の地って言われてもしょうがないか。ここまで広範囲に広がる湿地帯を人間がどうこうするのは厳しいだろうな」

高度を上げて空を飛ぶ魔導飛行船。

その窓から下を見下ろしながら、俺はバルガスと話をしていた。

ネルソン湿地帯がある領地はバルガスが治める土地でもあるので、その向こう側を見に行くとなったときにぜひ自分の目でも確認したいと言ってきたのだ。

だからこそ、こうして地上を観察しているが、途中からバルガスはあきらめモードになってしまったようだ。

初めて空を飛んだバルガスは以前のシャーロットのように驚いていた。

本当に落ちないのかと俺の腕を掴んで確かめてきたのだ。

しかし、年頃のかわいい女の子であるシャーロットと違って、筋骨隆々の男から腕を握られてもあまりうれしくない。

俺はすぐにその腕を振り払いながら、大丈夫だと連呼することになったのだった。

そんなことがありながらも、天界であるバルカニアを出発し、その途中で窓から地上を見るように言ったバルガスに対して、「あのへんからあのへんが誰々の領地だ」と俺が簡単なレクチャーをしていったのだ。

もちろん、その中にはバルガスの領地であるバレス領も含まれていた。

かつてのアーバレスト家が治めていたアーバレスト領をほぼそのまま受け継いでいるその土地の広さはバルガスも熟知している。

上空から見下ろして、その広い土地が自分のものだと知り、頬を緩めていた。

だが、そのバレス領に接するネルソン湿地帯が見え始めてから、少しずつ様子が変わっていった。

ネルソン湿地帯に現れる泥人形を始めとする魔物を退治しながら、地道に水田や畑を作り、治水をして農地を広げようとしていたバルガス。

きっとバルガスの中でも、その農地を広げる仕事を続けていけばいずれは湿地帯がなくなるぐらいの成果が得られるのではないかと思っていたのだと思う。

しかし、現実はあまりにも想像を超えていた。

自分たちが開拓していた土地は空から見えるネルソン湿地帯全体からすれば猫の額ほどの広さもなかったのだ。

これでは何代続けて開拓していこうとも終わりなど見えないのではないかと思うほどの広さが視界に広がっていたのだ。

さらに視力を高めた彼が言うには、湿地帯には無数の魔物がひしめき合っていた。

泥人形はもちろん、リザードマンのような水辺に住む二足歩行するトカゲ人間みたいなやつもいた。

それだけではない。

大きな体にいくつもの首を持つ、多頭竜のような魔物も見えたのだ。

こんなところを開拓していくくらいなら、他の貴族領から農地を奪い取ったほうが百倍手軽で早い。

バルガスは今、そう思っているのではないだろうか。

もうなんでもいいや、というような顔になり、持ってきていた酒を飲みながらつまみを食べ始めてしまった。

まあ、たしかに気持ちはわからなくもない。

俺もこんなに遠くまで湿地帯が続いているとは思いもしなかった。

今日中に海にたどり着くことは難しそうだ。

かといって、暗い夜に飛び続けるのも良くないだろう。

そう考えた俺たちは、空の上で魔導飛行船の中で寝て、更に先へと向かうことにしたのだった。