軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神の盾

「神様、神アイシャ、話があるので出てきてください」

「あら、どうしたのですか、アルス? また、新しい依り代でも持ってきてくれたのですか?」

「いえ、今回はちょっと違いますよ。実は先日話していたことについてです」

「先日話していたことですか? 確か、大雪山を越えた東方でのことについてですよね?」

「そうです。今年になって確認したところ、やはり東方でも名付けの魔法陣の解析が行われていたようです。それによって、ほぼ解析が完了しており、東方でも名付けが広まる可能性があります。そして、そのことによって神界であるここにも影響が出る可能性があります」

「【神界転送】を使える者が現れる可能性がある、ということですね?」

「はい。今はまだ魔法陣の解析だけで動きが止まっていたようですが、今後は名付けが広がるでしょう。その際に魔力量が増えて位階が上昇し、その結果、【神界転送】が使える者が出てくる可能性は十分にあります。そうなると、この神界は再び望まぬ来訪者がやってくることになるでしょう」

「それは困りますね。せっかく私とドグマの二人での生活ができると思っていたので、騒がしいのは望みません。それならば、【神界転送】は封印することにしましょうか」

東方から帰ってきた俺は、今度は神界へとやってきていた。

今の俺は【神界転送】を使えないが、ヴァルキリーに頼んで連れてきてもらった。

神であるアイシャに相談があったからだ。

その内容は少し前に軽くだがアイシャにも言っておいたことでもあった。

東方で名付けが広がる可能性がある。

その結果、【神界転送】を使える者が現れる可能性があり、そうなれば東方の人間が神界へとやってくることも考えられるということを相談しにきたのだ。

【神界転送】はどこにいても呪文を唱えれば空に浮かぶ神界へとやってくることができる。

そして、問題なのは神界から地上へ戻る際は転送部屋からの移動になるという点にあった。

転送部屋からの移動はフォンターナの街の中にある大教会に設置された転送地点へと飛ぶことになる。

つまり、東方で【神界転送】した者が最終的にはフォンターナ王国へと入り込むことに繋がるのだ。

アイシャとしてもこれ以上自分の庭を荒らされるのは嫌だろう。

だが、こちらとしても東方からフォンターナ王国に人が入ってくるのはあまり望ましくない。

現状ではまだ誰も使えていないが、いずれ誰かが使えるようになってもおかしくはない。

故にこうしてアイシャへと相談に来たのだ。

この神界やフォンターナ王国へと人がやって来ないようにする方法はないかと聞くために。

そして、どうやらその方法がアイシャにはあるらしい。

【神界転送】を封印するとかなんとか言っている。

「封印というのはなんでしょうか?」

「そのままの意味です。名付けの魔法陣を使うと、名をつけた者に自身の魔法を使用可能状態にできます。しかし、かつて我々が地上にいた時代は非常に多くの魔法使いがいました。その中では危険な魔法を持つ者も。そのため、名を与えても人には使わせたくない魔法があればその魔法だけを封印するという方法をとることにしたのです」

「えっと、ということはですよ? アイシャさんが【神界転送】を封印すれば、今後どれだけ人々が魔力量を高めても【神界転送】は使えるようにはならなくなるということですか? だけど、使えなくなるのは【神界転送】だけで、【浄化】や【聖域】なんかは使えるってことでしょうか?」

「そのとおりです。あくまでも封印したい個別の魔法だけを選択することになります」

「そんな方法があったのですか。ならば、ぜひ【神界転送】は封印してほしいところです」

「……その場合、危惧すべきことがあります」

「え? 封印には何か欠点があるのですか?」

「違います。【神界転送】を封印したらこの場所には誰も来られなくなってしまうでしょう? そうなると私に新しい服を持ってくる者がいなくなってしまうではありませんか」

「ああ、なるほど。そういうことですか。それなら、私が転送魔法陣を設置しなおしておきましょう。フォンターナの街にある大教会と神界をつなぐ転送魔法陣があれば、服を届けに来られますから」

「相変わらずすごいですね、あなたは。あの転送魔法陣は迷宮核でも利用しなければ作れない希少なものだというのに、いとも簡単に作ると言えるのですね」

「アイシャさんほどじゃありませんよ。私はあなたのように魔法の伝授に長けた人を知りません。では、【神界転送】は封印するということで。それと、できれば他にも封印してほしい魔法があるのですが」

「ほかにもあるのですか。どの魔法でしょうか?」

「私が今持っている魔法で【散弾】というやつです。これを封印することはできますか?」

「【散弾】ですね。ええ、問題ありませんよ。けれど、いいのですか? 封印してもその魔法を作ったのがあなた自身であれば、あなたは今後も使用できます。ですが、あなたが名付けをした者たちは一切使用できなくなりますよ?」

「ええ、いいんですよ。殺傷力のある魔法はできれば広げたくありませんから」

「そうですか。では、その【散弾】を封印しましょう。今から私が合図したら【散弾】を発動してください。それで封印することができます。では、いきますよ」

「はい。散弾」

魔法の封印ができると聞いて、俺は自分の【散弾】も封印してもらうことにした。

俺は今年になって息子のアルフォードに生前継承をした。

そのため、今の俺は教会からもフォンターナ家からも名を授けられていない状態だ。

生活魔法や【浄化】や【聖域】は使えなくなっているし、【氷槍】や【氷精召喚】も使えない。

そんな俺が唯一使える攻撃魔法は【散弾】だった。

だが、今後東方では【命名】によって魔法を使える者が広がる可能性が高い。

そのときに、全員が【散弾】という殺傷力のある魔法を持つのはさすがに危ないだろうとも思っていた。

石つぶてをショットガンのように放つこの魔法は近距離であれば簡単に人を殺められるうえに、命中率が高く当てやすい使い勝手のいい魔法なのだ。

口論になってカッとした瞬間に、つい殺っちゃいました、となるかもしれない。

ゆえに、魔法の封印ができると聞いてアイシャに願い出た。

俺が持つ唯一の攻撃魔法である【散弾】を使用不能状態にしてほしい、と。

そして、それはすぐに実行された。

また、ほかにも封印する魔法があるかとアイシャに聞かれたので【塩田作成】も封印してもらうことにした。

あれは地面の土を岩塩に変えることができるが、あまり下手にやりすぎると塩害を引き起こす可能性があったからだ。

さすがに、作物を育てられない不毛の土地になってしまうことは望まない。

「あ、そうだ。お願いばかりして申し訳ないんですけど、アイシャさんから俺に魔法を授けてもらえないでしょうか?」

「私があなたにですか?」

「ええ。実は先日息子に生前継承したので生活魔法などが使えないのですよ。生活のすべてで【照明】や【洗浄】が使えるのが前提条件になっているので、思った以上に不便で困っているんです」

「わかりました。それではあなたに力を授けましょう」

そして、呪文の封印が終わった後に、ついでにとばかりにアイシャに頼み込む。

予想していた以上に日常生活が不便になってしまっていたので、再び教会系の魔法が欲しかったのだ。

今までちょっとした汚れもすぐに【洗浄】していたのに、それもできなくなったので気になっていた。

思った以上にきれい好きになっていたのかもしれない。

この頼み事はパウロ教皇に頼んでもよかったのだろうが、それよりも上位の神に対して直接話す機会もあったので、どうせならとアイシャに頼んでみた。

その結果、俺は再び神の加護を手に入れて、いくつもの魔法を使えるようになった。

生活魔法の他に、今は【回復】までは使えるようだ。

【浄化】には少し届かない魔力量のようだが、特に問題はないだろう。

だが、このとき、アイシャは通常の名付けではなく、別の方法で俺に魔法を使えるようにしたようだ。

名を与えるのではなく、神に誓いを立てて神父となる儀式の方法で俺に魔法を授けてきた。

それによって教会の神父がそうであるように、俺も命名の儀や継承の儀なども使えるようになったのだ。

これによって、俺は教会の力をも手に入れたことにもなる。

フォンターナ王国の宰相兼大将軍職を辞して息子に力を継承した俺が、唯一もつ攻撃魔法の【散弾】を封印して新たな神父となった。

世俗を捨てて坊主にでもなったような形になるのだろうか。

いや、実際には正式に教会をまとめるパウロ教皇が与り知らないところで神から力を授かったのでこれだとあとから他の神父や司教から文句が出るかもしれない。

フォンターナの街に集めた臨時大司教などに大きな顔をされても困るな。

そう考えた俺は聖騎士という称号を再度利用することにした。

本来は聖剣を作り出した俺という存在を希少なものとして保護すべき対象と認定するために与えられたただの称号。

それを聖都救援のときにも利用したが、もう一度使うことに決めた。

これによって、俺は新たに神を守護する聖なる騎士であると名乗ることにした。

神の守護者である「神の盾」という新たな身分をでっち上げた瞬間でもあったのだった。